2/15日(金) 早漏的なサスペンスの幕開けです。

~前回までのあらすじ~

結構忘れちゃった。



×××



 雑多な変態が住むアパート。そこに住んでいる宮崎さゆりは、自分の想い人である西城健の惨劇におののいている。


 いや、正確にはそうではない。帰宅したら、突如現れた不審男性2人が、血まみれになりながら自分の恋人と"楽しもう"としていたことにパニックになっただけだ。


 そして、俺は彼女を安心させて誤解を解こうとしたが着地に失敗。より彼女をパニックにさせたってわけだ。


 なぜこんなに落ち着いているのかって?そりゃ、現実逃避しているからね。冷静にもなるよ。


「生まれたところ―や~♪皮膚や~」


「おい、辞めろ。ジャスラックが来るだろ」


「兄ちゃんは心配性だね。こんなクソ小説までジャスラック見てるわけねぇじゃん」


「メタ的な発言すんじゃないよ。そういう奴が、たまに怪我すんだよ」


 さぁて、どうするかね。この現状。


「ゴハァ……おかえり。さゆりさん」


「あぁ!健ちゃん!大丈夫なの!?」


「大丈夫。いつものことだから」


 あ、宮崎さゆりが我に帰った。愛の力はすごいねぇ。んじゃ、この小娘を追い詰めてゲームセットだな。


「あー……さゆりちゃん。乳繰り合おうとしているところ申し訳ねぇんだけどさ」


「その声は―――デンジャラスKさん?」


「そうそう。あんた、自分がやってること分かってんだろ? まだ被害届は出されてねぇからさ、まだ戻れるぞ」


「ななななななな、なんのこ、ことですかあああああ???」


 いやいや。これはひどい。古今東西、どんな作品でもこんな動揺をする女はいない。正直ドン引きだわ。んじゃ、遠慮はいらねぇわな。


「あんた。いろいろとごまかそうとしてるけどさ、バレバレなんだよ。普段そんな感じじゃねぇだろ? 結構しっかりとしてんじゃねぇのか?」


「えぇ!?そんなことないですよ! いつもこんな感じで、みんなに迷惑をかけちゃって……」


「婦長さんはそんなこと言ってなかったよ」


 さすが兄ちゃん。自主性はないけど、言われたことは絶対にやるな。


「申し訳ないけど、宮崎さんと別れた後、職場の人に色々と聞かせてもらったよ。すごい評価じゃないか。『落ち着いていて、賢い真面目な看護婦』だって」


「ちょちょちょ!だいたい何なんですか! 早朝から人の家に押しかけて血まみれで説教って! あなたたちデンジャラスにも限度があるでしょう! 警察呼びますよ!」


「呼べよ。困るのはお前だろ?」


 なんだその意外そうな顔は?演技がうまい女だな。



「西城健の前では、おバカキャラなんだろ?でも、本当は誠実で聡明な女性。そうすることで、西城健の担当看護を3年間も務めていた。あまりにもバカなやつを重病患者の専属にするわけないしな。違うか?」


「別に警察を呼ばれても困らないし、仕事とプライベートは分けますよ!普通じゃないですか!」


「おいおいおいおい、宮崎さゆり。発言が賢そうだぜ?彼氏に本性がバレちゃうぞ。お前は困るんだよ警察を呼ばれたら。拉致だけじゃなく、カマイタチから偽装罪で訴えられたら、とっ捕まっちゃうからな」


俺はそう言ってやった。すると、宮崎さゆりの顔から焦った表情は消え、ポーカーフェイスが浮かび上がる。


「宮崎さん。申し訳ないけど、いろいろとお話を聞かせてもらったんだよ。僕たちの印象と、婦長さんの話にあまりにも剥離があったからね。君、ドクターにも提言できるそうじゃないか。ドクターが言ってたよ。『西城さんは完治とは言えないんだけど、宮崎さんが大丈夫っていうからね。しかも、お姉さんの知り合いに専門家がいるから自宅療法をしたほうがいいって。患者のことを考えたら、そっちの方がいいと思ったから退院許可を出したんだ』って」


「つまり、あんたはカマイタチの名前を悪用して、完治してないそこのガキを退院させたってわけだ。自分が独り占めしたいって理由でな。反論あるかよ?」


 宮崎さゆりは、うつむいて肩を震わせ出した。どうやら追い詰められて悔恨の涙を流しているようだ。よし、最後の一押だな。


「なぁ、宮崎さゆりよ。カマイタチは怒っていない。ただ心配しているだけだ。あんたの恋心も分かるし、間に入ってやるから一回カマイタチと話し合えよ。な?」


宮崎さゆりは一層強く肩を震わせた。ややあって、起こした顔には―――狂気じみた笑顔が張り付いていた。


「ハーッハッハッハッハ!!!!」彼女は高らかに笑った。


 

 宮崎さゆりは、俺の優しさに落ちたわけじゃない。うつむきながら笑っていたのだ。自分の本性を白日の下にさらせる機会を得たことに、歓喜の声を上げていたのだ。



「ハハハ!バレちゃった!全部!全部!全部!ぜ~んぶバレちゃった!キャハハハハハ!!」


おどおどしさは影を潜め、エネルギーのほどばしりを感じる。しかし、それは……好ましいとはとても言えない、狂ったような悪意を宿しているものだった。


 やれやれ。予想外の第2ラウンドだぜ。チープなサスペンスは、早漏のようにいきなり漏れ出したってわけか。


「なんだどうした。おい、宮崎! 高笑いが入るプレイってなんなんだよ!!どこまでお前らケダモノ……いや!正直なんだ!!!!いいぞ!それこそが人間讃歌だ!!!」


(お隣さんの世界観ってどうなってんだろう? )宮崎さゆりをにらみつけながらも、そんなことを考えられるくらい冷静だった。

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