2/14日(木)シリアス。シリアス。

「よぉ。サリー」


 15日を迎える1時間前。バー「タマナシ」は閑散としていた。サリーは、気だるそうにタバコを吸っている。


「ここいいか?」

「どうぞ」


 サリーはそう言って、チョコレートを1つつまみ、数回の咀嚼の後にブランデーで流し込んだ。


「暇そうだな」

「木曜の夜なんてこんなもんよ。LGBTの人だって、みんな夜の仕事ってわけじゃないもの」

「そっか」

「なんの用?」


 さて、一勝負だな。


「西城健。弟さんの話だ」

「見つかったの!?」

「いや、まだだ。しかし、手がかりが見つかった。そして、おそらくは見つかるよ」

「そう…良かった」


 本当にほっとしてやがる。こいつもこんな顔できるんだな。


「さて、サリー。こっからは、ビジネスだ。いくら出せる?」

「あぁ、報酬の話はまだしてなかったわね。いくらなの?」

「100万。着手金として半分は先にもらいたい」

「可能性なのに、ずいぶんな金額ね」


 そういうと思ったよ。でも、ひけないんだよな。


「こっちもな、いろいろと経費がかかってるんだ…。居場所洗うために、危ない橋を渡らせてるからな」

「どういうこと?」

「見つけた可能性ってやつを聞かせてやるよ」


 スマートフォンを操作し、兄ちゃんに電話する。数コールで、兄ちゃんが応じた。


「もしもし?今サリーのとこ。ちょいスピーカーにするわ」


 通話口から兄ちゃんの興奮したような声が聞こえる。


「どうだった?」

「多分ドンピシャ。いないはずなのに電気もついてるし、人影も見えるよ」

「OK。充分だ。後で合流する」


 通話終了。


「サリー。簡単に言おう。弟さんは恋人のとこにいる」

「なんですって!?」

「入院しているときに知り合った、とある女性と駆け落ちしたんだよ」

「詳しく説明なさい!」

「その女性と接触して、彼女の携帯番号を入手した。そっから、逆引きして住所を割り出したってわけだ」

「嘘ね」

「そうだな。町の携帯屋さんじゃあムリだ。だが、大元だったらどうだ?」

「できるでしょうね。でも、ますますやらないわ」

「やらない。まずやらない。でも、絶対はない」

「友彦さんが尾行して家を割り出しただけ。あんた、ふっかけるにしてももう少し考えなさいよ!」


 そうイライラすんなよ。


「絶対はない。例え大企業に勤めるエリートであっても、絶対にギャンブル依存性ではないということはない!」


 大声を出した俺に、サリーは眉をいからせる。ギターの旋律だけが聞こえる。


 なぁ、サリー。お前、どっかで人は間違えないって信じてないか?お前みたいに、全部さらけ出せる強さがみんなにあると思ってんじゃねぇよ。


「誰しも言えないことを抱えてる。俺の友達でな。エリートサラリーマンなのに、仕事終わりに毎日のようにパチンコ打ってるやつがいる。サラ金に借りてまでな。おかげで毎月火の車だ」

「あんたまさか……」

「ラッキーだったのが、彼女のキャリヤがそいつの会社だったってことだ。もうわかったろ?ソイツに渡す金が必要なんだよ!」


 サリーは、何かを考えているようだった。ややあってから立ち上がり、グラスを手に取る。


「晃司、あんた何飲みたい?」

「勤務中だからな……。でも、カルシウム足りないみたいだから、ミルクでいいよ」


 サリーはグラスに牛乳を注ぎ、俺の前に置く。


「アタクシも連れてってもらえる?」

「いや、ダメだ」

「なんでよ?」

「お前に黙って出ていったんだ。お前が来たら反発する」

「優しくするわ」

「弟ってのは兄貴に子供扱いされるのが一番嫌なんだよ。大丈夫。きちんと説得するよ。一度話し合えってな」


 サリーは納得がいっていない顔をしながらも渋々了承し、前金として50万を渡した。


「確かに受け取ったよ。じゃあ、弟さんと会ってくる」

「会えたら連絡ちょうだい。私の番号教えておくから」


 連絡先を交換して別れを告げる。店を出るときに、サリーは何かを呟いた気がした。

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