2/14日(木)僕は何も知らない。君が知ってるんじゃないの?

サリーからの依頼を引き受けた俺達は、現在張り込み中だ。ホシは、サリーの弟を面倒見ていた病院の関係者。なんでそんなにざっくりしているかって? そいつは、あの日起きたことに起因する。言いたくもないし、思い出したくもない。


しかし、俺は語らねばならない。良識を知る大人として。語り部として託された責務として。これを読んでくれているみんなに、是非を問わなければならない。


「こちらデンジャラスK。牛乳とあんパンおかわり。どうぞ」

「こちらビックT。金払え。どうぞ」


このしみったれた兄貴の情けなさを、わけの分からない張り込みをしている理由を、俺は語らなければならない。


~回想~


「「ウッソ!?」」


適当に言った言葉に、サリーが好反応を返してくる。いやいや、んなワケ無いじゃん。誘拐ってガキにする犯罪だからね。お前の弟、成人してんでしょ?


んじゃ拉致はあっても、誘拐はねぇから。バカじゃねぇのコイツ。


「おい、オカマ。誘拐なわけねえだろ。歴史に残る小説家になる俺が、日本語教えてやるよ。この場合は拉致監禁が正しいんだよ」


顔に優しい衝撃が走った。


「友彦さん、おっぱい」

「あぁ…はい。どうぞ」


ねぇ兄貴。なんで、おっぱい拾う係に任命されてんの?なんで、素直に受け入れてんの?バカなの?

んで、サリーはちゃんと胸パット入れる気はなくなったんだね。


浮世離れした俺が、しっかりしないといけないなんて世界なんて終わってる。しかし、やらねばならぬ。時が来た。それだけだ。


「とにかくだ。やるにしても、何にしても、弟さんの情報が足りない。名前とか入院先とか教えろや」

「口の聞き方を教育してあげる必要があるみたいね……。友彦さん、いい?」

「えぇ、やっちまってください!」

「このクソ兄貴!お前何しにきてんだ!仕事やる気あんのか!」

「さっきも言ったろ!3人以上になったらお前の敵だって! 仕事請け負うレベルじゃねぇーんだよ!お前の言葉使いは! サリーさん、やっちまってください!俺じゃどうしようもなかったんで!すげー長い間、兄貴やってましたけど、俺じゃムリだったんで!」

「なんとも情けない告白ねぇ。はぁ、なんか疲れちゃった。出直してくれる?」


そうはいかねぇ!なんのために1日潰して来てると思ってんだ!お前にふっかけにきてるんだコッチは!金曜日までに家賃払わないといけねーんだよ!


「おい、サリー。商売人が1日を潰してきてんだ。んなこと言われて分かりましたって帰れるかよ」

「へぇ、言うじゃない童貞。少し見直したわよ。じゃあ、ちょっと待ってくれる?」


サリーは立ち上がり、ドアの看板を「オープン」に変えた。それと同時に、ギタリストが演奏を始める。


「まず、弟の名前はね。健っていうんだけど」

「名字は?」


「サリーちゃん!来たわよ!」


おねぇ言葉のハゲ散らかしたサラリーマンがやってきた。


「あらぁ、久しぶりじゃなーい。エロマンガ!元気にしてたの?」

「もう元気元気!はち切れちゃいそう!」

「あの…名字…」


「サリーこの子達だれなの?かわいいじゃなーい!」

「クソ童貞と、私の彼氏!可愛いでしょう?」

「はじめまして-!エロマンガですぅ!」


そう言って、俺の唇を奪おうとしてきた。こんなやつに……俺の貞操を捧げられるか!俺はエロマンガを殴り倒し、店を飛び出した。クソアニキ。後はよろしく。


店の下で、兄貴を待っている。大丈夫かな? まぁ、俺が行ってもしょうがないし。兄貴なら大丈夫だろう。うん、社会人経験もあるし。


しっかし、次から次へとおねぇっぽい人入ってくなぁ。ここ、人気なんだな。あ、兄貴だ。なんか青い顔してる。


「兄貴どうだった?」

「チェリーバスターって人に襲われた。逃げてきた」

「弟さんの病院は?」

「そこの協立病院だって」

「名前は?」

「健くん」

「いや、名字」

「分からない」

「報酬や面倒見てた人とかは?」

「僕は何も知らないんだ。君が知ってるんじゃないの?」


~回想終わり~


もうお分かりだろう。血を分けた兄は、どっかで聞いたことがあるフレーズを用いて、自分のダメさ加減を強調したってわけ。


こうやって、俺達は「健」って名前だけを手がかりに病院の前で、あんパンと牛乳を食ってる二人組になったわけだ。


「どーしよーもねぇじゃねぇか!健ってなんだよ!」

「あの、健さんって、西城さんのことですか?」


振り替えると、おどおどした看護婦がそこにいた。

なに?このかわいい小動物。

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