2/13日(水) サリー。別名、中野のカマイタチ

サリーは手袋の指先を加えながら、挑発的で扇情的なまなざしで兄ちゃんを見ている。兄ちゃんは、自分の首を撫でながら、気まずそうに下を見ている。なんなんだ、この時間は?


「ねぇ、おねえさん。時間無いんじゃないの?さっさと言いなよ」

「口の利き方がなってないわよ坊や。ミルクでも飲んでなさい」

「気取ってんじゃねぇよ!俺は30超えてるわ!」

「あぁ、童貞がキャンキャンと。席を外していただける?」

「童貞じゃないわ!やりまくりだわ!」

「悲しい嘘ねぇ」

「嘘じゃねぇわ!見栄だわ!」

「バカ!晃司!すみません!弟が失礼なことを言って!申し訳ないです!」


兄ちゃんが頭を下げると、サリーは立ち上がり牛乳をグラスに注いで俺の前に置く。


「ねぇ、栗の花咲く坊や。お兄ちゃんと二人っきりで話すから、これを飲んだら大人しく帰って、ティッシュを空にする仕事に励みなさいよ。なんなら、アタクシを使ってもいいわよ。大量虐殺者が」

「舐めんじゃねぇよ!酒よこせ!」

「五月蝿いわねぇ。出ていってちょうだいな」


俺が何を言っても動じないサリー。謝罪をするよう声高に要求する俺。兄ちゃんは慌てて俺を止める。


カオス、なおも進行中。



~ややあって~




「なるほど…弟さんが」


20分くらいやりあった後に本題に入った。サリーの弟が行方不明になったらしい。


「最後にお会いになったのは?」

「あの子の退院予定日の三日前よ」

「入院されてたんですか?」

「子供の頃から体が弱くてね…。高校卒業間近に、わけの分からない病気に罹ってしまって、そのまま病院に3年」

「そうなんですね…」


サリーが言うにはこうだ。病弱な弟さんが、退院日の前日に忽然と姿を消したそうだ。携帯とかも持ってないため連絡も取れないそう。


「心当たりはねーの?最後に言ってたこととかさ」


そう言ったら、兄ちゃんがテーブルの下で足を蹴ってくる。顔を見ると、メッチャにらんでる。なぁ兄貴。お前、恋してねぇか?


「最後に言ってたことね、確か『今までありがとう。俺、絶対に恩返しするよ』だったかしら」

「どこで言われたの?」

「病院よ」


なるほど。弟さんはサリーに感謝していたと。こうなるとあれだな。


「兄ちゃん、サリー。これは誘拐だ!」

「呼び捨てすんじゃないわよ!ゴミムシが!」


えええええぇええ!!!???なんで!?今、俺の推理にびっくりするとこじゃないの!?


「サリーさん!すみません!こいつ、あれなんです!あれ!ちょっと頭が気の毒なやつなんです!」

「ちょい兄ちゃん!どっちの味方なんだよ!」

「2人きりならお前!3人以上いたら、迷わず敵になるね!」

「いや、誘拐……。あり得るわね」

「「ウッソ!?」」


誘拐って言ってみたかっただけだから、この反応はびっくりだわ。


「あなた達は知らないでしょうけど、こう見えて私はこの界隈じゃ有名でね……。カマイタチのサリー。聞いたことない?」

「超だせえ!カマイタチってなんだよ!まじウケるんですけど!」

「黙りなさい童貞!」


サリーはそう言って、ゲラゲラ笑っている俺に何かを投げつけてきた。顔に優しい衝撃が走る。だが、サリーを見たとき、それ以上の衝撃が走った。


「はああああああ!!!????2おっぱいが1おっぱいに!おっぱいが消えてる!」

「はぁ、これだから童貞は……。覚えときなさい。アタクシほどいい女になれば、おっぱいくらい飛ばせるのよ」

「いや、サリーさん。飛ばせないから。人間そんなふうにできてないから」


兄ちゃんは頭を抑えながらツッコむ。よっぽど頭痛いんだろうな。それともハートブレイクなのか。カマイタチのサリー。その正体は、胸パットを風のように投げつけられるオカマだった。


「友彦さん、私のおっぱい拾ってくれるかしら?」


兄ちゃん、拾わなくていいから。業務外だから。なんなら金請求したほうがいいよ。あ、拾った。

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