2/13日(水)BAR タマナシの主人はエロい 

 俺は兄ちゃんと雑居ビルにある一件のバーの前にいた。ドアには、流れるようなアルファベットで「BAR タマナシ」と描かれたプレートが備え付けられている。なんでも、ここの女主人が失踪した弟を捜してほしいそうだ。



 時間は16時。これをこなさなきゃ支払いは絶望的だ。失敗=ホームレスだ。冗談じゃない。俺はエアコンのついた部屋で、寝転びながらアイス食うのが好きなんだ。公園のベンチに寝転びながら、ダンボールで暖を取るなんて嫌だ。


「俺はハーゲンダッツしか食べないからね」

「ガリガリ君でも高級品だから…。って何の話?」

「交渉は任せたからね。打ち合わせ通りの10本で」

「俺、この仕事断りたいんだけど」

「ナマイキ言ってんじゃねぇ!」


 そう言って、インターホンを鳴らす。女性が応じて、入ってくるように促された。兄ちゃんが無骨な鉄のドアを開く。


 開店前ということもあり店内は薄暗かった。バーカウンターの中で、黒いドレスを着た女性が、優雅な所作でグラスを拭いている。その佇まいは凛として、妖艶なものだった。


 奥のソファーには、スーツを着た男性が掛けている。ハットをかぶった彼は、抱えているアコースティックギターの調律を合わせている。


「申し訳ないけど開店時間が近いの。作業しながらでいいかしら?」


 女性に促されて、彼女の対面に掛ける。


「はじめまして探偵さん。私はここのマダム。みんなサリーって呼ぶわ」

「大友家の大友友彦です。こっちは弟の晃司。2人でよろず屋の大友屋です」

「人探しも受けてくれるのでしょう?」

「いや、お電話でも言いましたけど探偵さんの方が」

「マダム、愚兄が失礼いたしました。承っております。ただ、探偵より専門的ではありませんが、その一点のみご容赦ください」

「結構よ。お兄様、誠実な方じゃない。愚兄なんて呼ぶのはおよしなさいな」


 そう言って彼女はグラスを置く。胸元からなっげータバコを取り出して、吸い出した。なんかエロイな。

「あの、マダム」

「サリー」

「え?」

「サリーって呼んでちょうだい」

「あ、はい。んじゃ、サリーさん」

「呼び捨てでいいわ。そういう気分なの」

「えぇ…どうしよう」


 サリーはそう言って、煙を吐き出す。なんだこの女?兄ちゃんを困らせやがって。

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