2/12日(月) 葉っぱが散ってマジ泣き


あぁ、ダルい。超疲れた。赤い看板のファーストフード店で、ワンコインバーガーを食べたけど全然足んない。今日、何件回るんだよ。帰りたい。


「兄ちゃん、腹減ったよ」

「耐えろ」


始めたばかりだけど、反応は上々だった。問い合わせも来たし、短時間で請け負える雑用もこなせたよ。



でもね、俺も兄ちゃんも「経費を請求します」って明記しなかったんだ。

そいつがいけなかった。


犬の散歩、電球交換、雑談を請け負ったけど、移動費を差っ引いたら手元に2000円しか残らなかったのよ。



信じられる?2人の大人が一日働いて2000円だよ?しかも、分けたら1000円。ガキのお使い以下じゃねーか!


いや、ガキの方が持ってるね。だって塾のバック背負ったガキが、ハンバーガーセット頼んでお釣りもらってたもん。


テーブル上にある丸められたバーガーパックと、サービスでもらった飲みかけの水を見て、さすがの晃司さんも気づいたね。こりゃやべぇって…。


「次は病室から見える枯れ枝に残った葉っぱをキープする仕事だけど…晃司、聞いてる?葉っぱの話してんだけど」

「兄ちゃん、あの子もセット頼んでる」

「うん?あぁ、最近の小学生も大変だね。こんな時間まで塾かぁ」

「あぁ!? Lセットにグレードアップ!ドリンク“も” L!? 欧米かちくしょう! 痩せろガキ!」

「おい晃司、お前うるさいよ。落ち着けよ」

「兄ちゃん、俺こんなのやだよ…」

「分かったろ。これが働くってことだ。世の中はちゃんと頑張んないとこうやって痛い目遭うんだ。勉強になったろ?」


何こいつ自分の言葉に酔ってんだよ。金曜までに5万以上いるんだぞ?この調子なら一ヶ月かかるわ!


「兄ちゃんは平気なのかよ?こんな惨めな気持ちに耐えきれるのかよ?一日働いて、ひとり1000円だぞ?ハンバーガー食って、900円。帰りの電車賃引いたら500円切るんだぞ?!高校生のバイトより低いじゃねーか!東京都の最低時給割ってるじゃねーか!」

「最初は信用がないからこんなもんだよ。信用ができて信頼になる。そしたら初めて値段交渉ができる。そんなもんだ」


ダメだこいつ。久しぶりに他人から必要とされて酔ってやがる。現実を見ろよ!だから信金リストラされんだ!


「いや、兄ちゃん金曜!金曜までに先方が入金確認できないといけないんだぞ!」

「いや、お前が原因なんだけど…。でもまぁ、前向きになってくれて嬉しいよ。大丈夫。葉っぱキープしたら5000円もらえるから。もうちょっと休んだら、100均で接着剤買おう。閉店するとヤバイ」

「そんな仕事やってる場合じゃないだろ!帰って地元でチラシまこう!単価あげて、利益出る仕事しなきゃ!儲けなきゃ!」

「とりあえず葉っぱは守るから。患者が葉っぱに願い掛けてるらしいから。これ、約束したから」

「兄ちゃんだけでやって!俺、先帰ってチラシ撒く!」

「あ、おい!待て晃司!紙代どうすんだ?」


やばい、忘れてた。さすがに500円切ったら紙も買えないか。不本意ながら、葉っぱをキープしなくちゃいけない。


世の中は不条理だ。


接着剤片手に病院に行ったら、クライアントは「もう葉っぱね-じゃねーか!」って、ブチギレて帰ってしまったらしい。


対応してくれた職員に兄ちゃんが泣きついたら、すげーいい人で5000円くれた。


でも、兄ちゃんが泣き落としをしている間に終電はなくなっていて。


俺達は八王子から中野まで歩いて帰る羽目になって。


世の中不条理だ。

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