2/11日(日) 兄は日雇いの日数で悩んでいる

パソコンを眺めている大友友彦。悩んでいる表情。


「今月もカツカツだなぁ…」


エクセルで作成された家計簿を見つめてため息を吐く。


「家賃と光熱費払って…。日雇い、どんだけ入れんだろう。パン工場、まだ上限日数いってないよな…」


晃司が「ただいまー」と言う声と共に現れ、ソファーに座ってテレビを点ける。


「どうしたの兄ちゃん?暗い顔して」

「今月も支払いでキッツいんだよ。はぁ…牛肉食いたい」

「うんうん。兄ちゃんは信金クビになったのに、ちゃんと倹約して偉いよね」

「そう思うなら働いてくれよ。何回も言うけど、兄ちゃん、貯金切り崩してんだからな。 老後の備えほしいから、なんとか切り詰めようと就活の間に日雇いやってんだし…。お前も働いて食費と家賃、半分払ってくれよ」


顔だけで、振り向いて友彦をキメ顔で見つめる晃司。


「俺はね、兄ちゃん。歴史に名を残す大作家になるんだよ? 下らない仕事や遊びに興じるよりも、自分の世界観を真摯に純化させることが人類への奉仕になる」

「お前、今月何ページ書いたの?」

「頭の中では脱稿してるんだよ」

「今すぐ働け!」


手元にあったペットボトルを晃司に向かって投げつける友彦。晃司はソファーに沈み込んで見事に躱す。


「明日支払い終わったら、ハローワーク行くから! お前もついて来い!おい! 聞いてんのか晃司!」


そう言いながら友彦が机の引き出しを開ける。すると、驚いた表情に。


「(焦りながら)えっ!? ない!! 無い!! ないよ! なーーーい!」

「どったの兄ちゃん?」

「家賃と光熱費の金がないんだよ!5万有ったのに!」

「あぁ、それなら赤保留に変わったよ」

「はぁ!?」

「赤保留は50%の夢。当たりとハズレを孕む魔性の保留。あ、これどっかで使おっと」

「てめぇふざけんな!」


晃司に駆け寄り、殴り掛かる友彦。晃司も応戦し、2人口汚く罵り合う。



正座している晃司。それを見下ろしている友彦。


「どうすんだよ?えぇ?どうしてくれちゃうんだよ?」

「兄ちゃん、言ってることちっちゃい。もっと大きな夢見なよ」

「うるせぇバカ! このバカ! 家賃、払わなきゃ家追い出されんだぞ!」

「マズいねぇ……闇金行く?」

「行かねぇよバカ!真面目に考えろ!」


友彦は、部屋中を歩き回り、思い浮かんだ金策をつぶやき、自問自答している。

晃司はやる気のない感じで友彦を眺めている。

ややあって、友彦が立ち止まる。何かを思い浮かんだような顔。


「何でも屋だ!幸いにも車もあるし、幸い手元に2万はある!おい晃司、何でも屋やるぞ!」

「兄ちゃん、思いついたのを口にするのは浅はかだよ。もっと考えなきゃ」

「お前には言われたくないよ!じゃあ、どうやって金作るつもりだ!?」

「闇金?」

「ねぇ、バカなの!?」

「あぁん!? 大体兄ちゃんが会社クビになるのがいけねぇんだろ!」

「働かないのになんでそんなこと言えるの?ねぇ?!教えてくれる?!大作家さん!」

「兄ちゃんがしっかりしてくれないと困るんだよ。俺のパトロンだろ? いい目を見る前に死んじゃうぜ? しっかり働けよ」

「よし、公園行こうぜ。いや、車で山行こう。そっちの方がバレづらい。 知ってる?俺、キレちゃったよ」


怒髪天を衝く勢いでキレている友彦。手頃な鈍器を持って、晃司の頭に打ち付けようと振りかぶる。


「まぁまぁ兄ちゃん! 落ち着け! 落ち着けよ!」

「落ち着いてる。 お前死ぬ。飯も家も心配ない。 俺、刑務所行く。飯も家も心配ない。WIN-WIN」

「片言!片言になってる! 悪かった兄ちゃん!」

勢いよく頭を下げる晃司の後ろ姿。肩越しに、ブチ切れている友彦の顔。

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