第16話 乱入

「私は……婦女暴行で……」

「そうじゃない! つまり、どこで、いや、やはり何故としか言いようがないのだが、どうして俺らの犯罪がバレたのか、それはまあいい。事件が発覚したことで警察が捜査をして、その情報をTV局が入手する。それはわかる。だが、どうやって俺達の居場所を探り、俺達の身柄を確保できたのかってことだ」

 そこまで言って、床を見つめながら少し考え込むように黙る。

「言われてみれば確かになぜかしら」

 立花も不思議に思ったのか、首をかしげる。

「これはひとつの可能性なんだが……」

 そう言い、立花の顔をみながら切り出す。

「俺はお前達の言うところのヤクザで、暴力団関係の会社の組員だった。俺は先週、組を裏切って金を奪った。この情報だけならちょっと探れば下っ端の噂話からわかるだろう。だが、俺の居場所まではわかるわけがない。逃亡者だからな、慎重に隠れていたのに気がついたら奴らに囲まれてた」

「……実は、私も撮影したビデオを裏で暴力員が流していた。私は組が所有するビルの地下で暮らしてた。その組は、ビデオの売り上げが半分を占めるような小さい組織だ。警察に組員がしゃべったりしないだろう。何故、見つかったのかさっぱりだ」

「タニアもヤクの売人をしていた。ヤクザの収入源になっていたはずだ。だから、もしかしたらここにいる全員は暴力団関係でここにいるんじゃねーか?あんたはどうだ?」

「私は、よくわからないの……。犯罪を犯したばかりなのに、すぐ捕まったわ。いきなり部屋に入ってきたかと思ったら、大勢の黒いスーツを着た銃をかまえた男性たちに囲まれて」

 その恐ろしい光景を思い出してしまったのか、立花は自分を抱きしめるように肩を両手で押さえ、身体を震わせる。

「俺がいた組の分家に、裏の情報を集める仕事をしてる奴がいるって聞いた事がある。そこから情報を買ったかもな」

「あのー?」

 黙って聞いていた日下部が、壁に寄りかかって座ったまま、遠慮がちに口を挟んできた。

「なんだ?」

 さっきまでの表情から余裕が消え、なにやら言いにくそうな笑みを浮かべながら三人を見ている。

「そのー、情報を集めるうんぬんってやつの話なんですけど……知ってる奴かも」

「なんだって!」

 五十嵐が驚きの表情で叫ぶと同時に、壁に内臓されているモニターが点いた。


<犯罪者の諸君、食事のお味はいかがかな? やがてやってくる罪への判決を恐れて、味わえなかった? それでいい。君達は自分の犯した罪を悔いて貰いたい>


「ふざけんな!」

 モニターに指差し、五十嵐が叫ぶ。


<次なる被告人は五十嵐君!君だ>


「なっ……くそっ!」

 急に名前を呼ばれ、一瞬驚きの声をあげたが、五十嵐は表情を強張らせて唇を噛み締めながら田口を殴った。

「ぐはっ! な、なにを……」

「このロリコン野郎! てめぇと同じ空気を吸っているだけで虫唾が走るんだよ! さっさと刑務所へ行きやがれ!」

 突然の豹変に、田口は目を白黒させながら頬を右手で押さえ、文句を言う。

「な、なにをいきなり……」

「うるせぇ!」

 何も言わせまいと、五十嵐はさらに田口の腹を蹴る。

「ぐはっ!」

 激しい音と共に、田口の身体は床に倒れこみ、地面に背中を打ち付ける。


<ちょ……っ! お前ら!?>


 司会者も突然のハプニングに出鼻を挫かれ、驚きの声をあげる。

 声は聞こえずとも、映像は見えているのだろう。普通の番組ならば、これらは放送事故としてカメラを止めれば済むが、これは生放送であり、むしろ視聴者はこういう過激な事故を求めていた。

 演技そっちのけであわてているのか、番組側からアクションが途絶えた。五十嵐はさらに攻撃をエスカレートさせていく。

「お前みたいな奴は痛い目みないとわからねぇんだ! 俺がわからせてやろうかっ! あぁっ!?」

「やめてっ」

 倒れている田口を問答無用で蹴りつける五十嵐が立花が腕を掴み、止めようとする。

 だが、それすら振りほどき、今度は首を絞めようと両手をかける。

「あぐっ……!」

 口を大きくあけてうなり声をあげながら、苦しそうに悶え五十嵐の両手を外そうと、田口が暴れ出した。

「そこまでだっ!」

 部屋の唯一ある扉が開き、銃を持った兵士が六人、部屋に入ってきた。

「よしっ!」

 五十嵐がほっとした顔をして、田口の首から手を離す。

「手をあげて壁につけ!」

 兵士の一人が銃口を五十嵐に突きつけ、命令する。

「早くしないかっ!」

「おい、あとは任せたぞ。どうするんだ?」

「はいはい」

 様々な感情が部屋中を取り巻いている中、日下部はのんきな声で答えて、ゆっくりと立ち上がった。

「なんだ、貴様!抵抗するつもりか!」

 手前にいた三人が日下部に向かって銃をかまえる。

「貴様も壁に手をつけろ! さもなければ……」

「さもなければ? いま、ここで俺を銃殺してしまったらまずいんじゃない? 放送中でしょ? この番組は『視聴者が有罪を決める』っていうのがウリなんじゃない? 勝手にアンタらが銃殺なんて決めたら、せっかくの醍醐味がパーだよね? 俺、まだどんな罪でここにいるか聞かされてないし、視聴者は誰一人俺に死刑に票入れてないぜ。撃たれるわけが、いや、撃てるわけがない」

 日下部は挑発するように、両手を広げながら楽しそうに言った。

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