第11話 番組
かいつまんで読むと、つまりは日本の全国ネットで放送しているような大手のテレビ局が独自の調査で犯罪者を見つけた場合、逮捕、監禁できる旨が書かれていた。
つまりはここではそういう行為を録画して、番組として放送しているということだ。編集はほぼなしのリアル中継を最大のウリとして。
絵里奈も燐もこんな倫理や道徳を無視した過激な放送は知らなかった。
たまにチャンネルをまわすとやっている全国ネットの犯罪を放送する番組は見た事はあるが。
「この流れているデモは、先週終わった放送の回なんだ」
木下が机の上で指を組みながら答えた。
番組はすべて有料コンテンツになっていた。会費ではなく、観たい番組ごとで販売されていた。番組は最長でも48時間。それの前半後半にわけて代金を支払う仕組みになっている。
現在もなおこの番組は継続して製作、放送されているようだ。
デモムービーの最後に第二回目の告知があった。
「……これっ、今日の八時から明後日の八時って、今も放送されてるの?」
燐の問いに木下がうなずく。
「リアルタイムで48時間、犯罪者のプライベートなどおかまいなくね」
「悪趣味、な……」
絵里奈が吐き捨てるようにつぶやく。
「それで?こんな番組を見せて……まさか……」
「そう。出演者のとこを見て」
第一回目の出演者の詳細をクリックすると、犯罪者の顔写真からプロフィールまで細かく書かれていた。
第一回公開裁判記録 : 男性一名、女性一名
プレイ時間 : 15時間33分
出演者 : 間宮新太郎(25)、
罪状:高校生・大学生へのドラッグの販売。
新谷加奈子(19)
罪状:ドラッグの製造・販売補助。美人局。
「その、新谷加奈子ってのがこの娘さ」
デモムービーに映っている、よく観ないと顔もろくに判別できないような荒い映像だったが、確かに写真の女の子に似ている。
「この放送の後、彼女がどうなったのか観た?」
「いや、それがまだ観てないんだ……」
うつむき、髪をかきながら木下はつぶやくように言った。
「観たくなかったっていうのと、観てしまったらその後でどういう行動をすればいいかとても不安になってしまって観れなかった……ってとこね。後、この入会金かしら?」
図星をあてられて、苦笑しながらうなずく。
デモムービーの最後には『この続きが観たい方は有料会員登録をお願いします(250$)』と書かれてあった。
三万円。丸一日の放送とはいえ、たった一日だけで三万円をとる番組をどんな内容であるか想像したら、とても最後まで観る勇気はでないだろう。
「まあ、これくらいの罪ならある程度予想はつくけどね。ただ……ネットによる公開裁判をウリにしている以上、通常の裁判にあてはまる『常識』は当然通用しないと考えるのが妥当ね。初回の放送ならインパクトをだすために……」
絵里奈はそこで押し黙り、腕を組みながらソファーに背中をもたれ掛ける。
「……この程度の犯罪で公開裁判をして、いくらやじうま達が面白おかしくはしゃいだとしても、普通に考えれば禁固刑。番組を盛り上げるためのインパクトとしてどんな罪であれ、死刑にはならない」
「いずれにせよ、この番組を観るしかないかなぁ。でも、四日前の放送だから、禁固刑だとしたらとっくに刑務所に入れられてるね」
憐がめずらしく真面目な表情で絵里奈をみる。
「ただ、番組を作ってる放送局が海外にあったらお手上げかな~。まだ『依頼』として動けないから必要経費をかけられないし、大手の放送局が母体だとしても子飼いのグループがゲリラ的な放送をしてるんだったら、私達には追い詰められないと思うけど。それこそダーリンがいないと」
「そうね。でも、まず木下さんに上司の方と相談してもらうとして」
絵里奈が意地悪そうな笑みを浮かべ、机にあるメモ用紙に、胸元に挿していた万年筆でさらさらと文字を書いていく。
見積書
捜査料(一日) : 二万円
必要経費(雑費): 別途請求
資料制作費 : 五千円
成功報酬 : 十万円
割引率 : 二十%OFF
「これ、渡してね。あ、彼女を保護して親元に届けるとしたら、そのミッションの難易度によっては依頼料が発生しますんで」
言いながら、メモ用紙を渡す。
シビアな彼女に、木下はさらに苦笑の色を増した。
とはいえ、「しっかりしてるなぁ」とか皮肉など、恐ろしくてとても言えなかった。
それに、さりげなく割引してくれたし、例え上司が依頼を頼まずともとりあえずは調べてくれるだろうという信頼感ととりつく島もないほどの断られ方をされずに頼む事ができたという達成感もあったからだ。
話がひと段落し、木下の安堵感が「飲みかけのお茶をどうしよう」という悩みに変わった時、パラッパッパッパー、と事務所の電話が鳴り出した。
「あ、憐おねがい」
「はいは~い」
元気よく答え、憐が電話の受話器をとる。
「はい、美崎探偵事務所です」
「……じゃ、とりあえず帰って上司に話してみるわ」
残りのにごり茶をぐっと飲み干して、木下が立ち上がった。
「その人には酷かもしれないけど、この番組の話もしたほうがいいわよ」
「ああ、わかってる。そこを隠しても、逆に話がこんがらがるからな。じゃ、憐ちゃんもまたね」
電話対応している憐に向かって、右手をふりながら部屋を出て行った。
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