第6話 露利

 この行動や会話は当然リアルタイムで全世界へ配信されていた。

 視聴者はこの映像を観て、普段体験することのない犯罪者同士の動向に感情移入し、まるでその場にいるような錯覚をして興奮していた。

 番組側が用意した掲示板、コメント欄は゛祭り゛状態となり、絶えずコメントが更新されていった。


【しょっぱなロリコン犯罪者キターーーー!】


【我々がやりたくてもできなかった事を平然と!この人は神!】


【俺も小さい子ほすい!】


【小さい子供を性の対象にするなんて死ねばいい!皆さん、この人は死刑で←決定事項】


【ふざけんな、ロリ神の教祖さまにするんだから勝手に殺すな】


【それより、あの女性にはたかれたい】


【誰も言わないけど、立花亜里沙って、ネットアイドルの『アリー』たんでしょ?この子ならどんな罪でも可愛いから許す!ああ、俺がこの場にいれば、彼女は俺が守るのに!】


「なかなかこちらの都合よく動いてるじゃないか」

 オンエアされている映像と、パソコンのネット上に映ってるコメント欄を見て、プロデューサーはほくそ笑みながら言った。

「本当っすね。この様子だともっと白熱しますよ。でも、24時間の放送で三万円の有料会員になる奴が世界でこんなにいるとは思わなかったなぁ」

 スタッフのひとりが、プロデューサーを尊敬した目で見つめながら言った。

「まだまだ伸びるぞ。だが、予想以上の数字はいらん。何事も計画通りが一番だ。警察の捜査もまだまだ始まっていないようだが、計画では次回にはバレる計算だ。いまのうちに放送場所を特定されないように仕掛けつくっとけよ」

「了解っす。それにしても、これだけ好評なら全国放送でも二十%、いや、三十%いったんじゃないですかね?」

 画面を見ながら、世間話をするかのように言うスタッフにプロデューサーはその男の背中をしかりつける。

「ばかやろう。24時間どころか、48時間ずっと観てられる人間がどれだけいると思ってんだ。時間をもてあました陰険な金持ちどもだから観てるんだ。それに、こいつらにとっては、この部屋で行われている犯罪に似た雰囲気を自分のパソコンで覗き見てる感じが堪らないんだ。ゴールデンの全国放送になったからといって、通勤の電車の中で『昨日の犯罪者は死刑でよかったですね』とか話できると思うか?人には言えない秘密を自己発散できる場があるからこいつらは愉しいんだ」

「なるほどー」

 言われてみればそのとおりかも、という顔で笑いながらプロデューサーを見た。

「でも、そういう気持ちがわかるプロデューサーさんも同類ってことっすね」

「うるせえ、無駄な話してないで映像みてろ。こっちがタイミングあわせて補助しなきゃ、あの部屋にいる犯罪者だけじゃエンターテイメントになんねーんだからな」

 司会者は読み上げる台本があり、それを演じているだけだ。部屋にいる五人の声は聞こえないし、司会者は事情をよくわかってなかった。

 だが、司会者の映像を録画して放送してしまうと、せっかくの゛リアルさ゛が半減してしまうおそれもあったので、別部屋で直接撮影してもらっている。

 スタッフがいつでも対応できるのは進行を変更できるし、演出を多様化できる強みがあった。


「そーっすね、じゃあそろそろ……」

 ばたんっ!

「おい!どういうことだ!」

ドアが勢いよく開いたかと思うと、室長が大声をあげて入ってきた。

「どうしました?あまり大きな声出さないでください。音声が入ってしまいますよ」

「ここは防音だろうが!それより、なぜコイツをここにいれた!?」

映像に映し出されている部屋の隅で寝ている男を指差しながら怒鳴った。

「は?室長に言われた奴ですけど……?」

「私がこの男を選ぶはずがない!というか、写真にはいなかったぞ!この男がどんな奴がしらんのか!いや、知らないなら知らないでいい……」

 怒鳴り疲れたというように、頭を片手で抑えながらうつむく。

「それより、大至急この男をこれ以上刺激しないように……いや、釈放しろ。丁重に追い出せ」

「え?無理です!まだ番組始まったばかりで……」

「そんな事、どうでもいい!」

 バアン!と机を叩いてさらに大きな声で怒鳴った。

「いいか、……いいか?この男はきわめて危険な団体のリーダーだ。犯罪者の中でも、手を出してはいけない奴だったんだ。それをお前達は……。もういい。室長命令だ。急いで予定を変更しろ。こいつの仲間がここをかぎつけないうちに、早くこいつを追い出せ。機嫌を損ねないようにな……」

「そんな大物なんすか?……そうは見えないけど」

 スタッフのつぶやきを無視し、室長は走るように部屋を出て行った。

「どうするんですか?まだ二時間しかたってないのに、こいつを無罪ですか?」

「いや、こいつをこのまま返したら番組側が操作してるって思われる。そんなことになったら視聴者は萎えるし、俺達の出世に影響が出る。そうだな、もうしばらくこのままにしよう」

「わかりました」

 スタッフは少し安心したように、パソコンの近くに置いてあるスイッチを押して、司会者へ次の演出の合図を送った。

五人を閉じ込めている部屋に、再び司会者を映し出した。

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