第5話 暴露

「とりあえず落ち着こう。ここまで一方的な公開処刑は絶対に問題視する人間が出るはずだ。この放送を誰かから教えてもらった第三者がもしかしたら警察に通報してくれるかもしれないし、そうじゃなくても殺される心配はないかもしれない」

「そうよ!TV局は犯罪者を逮捕できる権利があっても、拘束できる時間は限られてるはずだわ。確か、七十二時間!それまでに警察に引き渡さない場合は、資格を剥奪されるだけじゃなくて関係者全員逮捕される。……ってことは連中もそこまでひどいことはしないってことね。罪状と顔が暴露されるのは痛いけど……」

 田口の言葉に、立花も元気がでたのか、思い出したように言った。

「それがヤバイッてんだよ!」

 五十嵐が叫んで、床に足を叩きつける。

「俺のしたことが組にバレたら、ここからうまく出られても、俺は組から狙われる!」

 わなわな、と身体を震わせながら二人をにらみつける。

「関係者がこの放送を観ていないことを祈るしかない」

「何、落ち着いてんだ!自分らはたいした罪じゃないから安心してるのか!?」

「やめてっ!」

 田口に掴みよろうとする五十嵐の前に立花がさえぎる。

「おい、お前は何をしてここにいるんだよ?どうせ捕まっても死刑はないんだろ?こんなとこに連れてこられるくらいなら、警察に自首した方がマシだったんじゃないか?」

「…………」

 さすがに自分の罪を言いたくないのか、田口は口を閉ざして五十嵐をにらみつけた。

 数分、にらみあいが続いたかと思うと、再び壁から映像が流れだした。


<さて!皆様、お待たせいたしました!それでは出演者たちの罪状を一人づつ紹介していきましょう!>


 BGMとともに、ファンファーレが鳴り、顔写真が司会者の前にアップで表示される。


<誰がどんな罪でこの場にいるか、この部屋にいる人間は誰も知りません。知っているのは自分だけ。その秘密のベールを我々は少しずつ紐解いていきたいと思います。では、いま話題にでていました田口信二の罪状をご紹介いたしましょう!>


「やめろ!」

 田口が叫ぶが、司会者は涼しい顔で続ける。どうやら部屋の声は司会者サイドには届いていないようだ。


<最初に、彼の職業はカメラマンと紹介いたしましたが、アダルト専門のカメラマンです。こちらは正式なモデルを写していますが、彼はそこで自分の性癖に気づいてしまった。そして、趣味でも女性の裸体を撮るようになりました……>


「…………」

 司会者が何を言うのかを理解したのか、田口は顔を真っ赤にして、唇をかみしめて、壁に映し出されている映像を黙ってにらみつけている。


<しかし!これが問題だったのです。大問題です。なんと、彼はその被写体である女性を誘拐して、写真を撮っていたのです!>


 画面が変わり、田口が撮ったと思われる写真が数枚映し出された。

 少女の顔と身体にはモザイクがかかっていたが、手足の長さや身長から考えると、その少女たちの年齢はどれも幼かった。


<しかも、少女たちの年齢はどれも十歳から十四歳までの子供ばかり!1年単位で数人を誘拐し、監禁。飽きると、売春宿に売っていたという情報も入っています!男としては最低ですね。女性だけではなく、私も怒りを隠しきれません!彼の罪は婦女暴行、監禁、ビデオ撮影、無許可によるアダルトビデオをの販売、売春強要、その他の余罪も数えればきりがありません!>


 眉間にシワを寄せ、拳をにぎりながら、司会者は許せないといった表情での演技をしながら語り続ける。


<こんなひどい奴でも、警察に任せてしまえば殺人以下の罪でしかない。しかし!我々は違います。視聴者の投票によっては死刑にもできるのです>


「なんだとっ!」

 ようやく、事態の異常さにきづき、田口は目を見開き、叫んだ。

驚くのも当然だろう。死刑だけはない、とたかをくくっていたのだから。


 罪状が暴露されても、所詮婦女暴行。最悪でも刑務所に数年程度と思っていたのだろう。

「虫も殺さないような顔をしてずいぶんエゲツない奴だな、オイ。しかもロリコンかよ」

 さきほどまで荒れていた五十嵐が、馬鹿にしたような笑みを浮かべて田口を見る。

 立花も軽蔑の念をこめた目つきでにらんでいる。


<視聴者の方からの投票はもう少しあとにするとして、田口信二君、なにか弁解はありますか?>


 部屋を盗撮しているカメラが田口をグローズアップしたのか、壁に映っている映像が切り替わった。

 動揺しているのか、おちつかないようにそわそわしだす田口の姿が画面いっぱいに映し出された。

「こ、個人の趣味だ……」

「ふざけないでよ!」

 パシンッ!

 立花がいきおいよく、田口のほおを片手で叩いた。

「人生で一番大事な年代の小さな女の子たちをあんな目にあわせて、自分の欲望を満たしたいだけで!あなたのしたことは、人の人生をめちゃくちゃにしてるのよ!?そんなこともわからないで、なにが趣味よ!ふざけないで!」

 被害者と同じ女性として、怒りを代弁したのか、立花は侮蔑にまみれた視線を田口に浴びせる。

「元々他人だけど、近寄りたくもないわ!」

 そう言って、五十嵐の腕をひっぱるように部屋の隅の方へ歩き出した。

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