第3話 罪状

<皆さん、こんにちわ。ニュース『犯人を裁くのは貴方だ!実況中継48時!』の時間が始まりました!前回の放送を観た方はご存知ですが、前回と同様、この部屋には犯罪を犯した容疑者が逮捕、監禁されています。ここには弁護士はいません。犯人が自分で弁護し、貴方がたに判決してもらうのを待っております。そう、彼らの罪は貴方がたが決めるのです!>


 裁判員制度の延長線上のノリで刑が決断される投票をさせて、まるであたかも視聴者を神のように錯覚させるつもりなのだろう。

 番組の進行役の説明と同時に、液晶パネルに部屋にいる五人の顔写真が次々と映し出される。


<では、今回の出演者を紹介していきましょう!まずは暴力が三度の飯より好きな暴れん坊、五十嵐修作君!二十七歳、この若さでバー『BEE』の裏オーナー。どんなあくどいことをしたのでしょうか?次に……>


司会者の言葉にあわせて顔写真が動き出し、二周して写真が止まってアップになる。


<立花亜里沙君!美人ですね。やさしそうですね。とても犯罪と関わりがあるようには見えない。でも、ここにいるということは……おわかりですね?何をしたかは後ほどゆっくりお話したいと思います。例え、どんな美人であっても、判決は公平にお願いしますね>


おどけた口調で言う司会者の後ろから、合成音でつくられた笑い声が鳴り響く。

やはりここに、五人は出演者として集められたと思っていい。


<どんどん紹介していきましょう!今回も外国人の犯罪者がいますよ。ブラジル国籍のタニア君!彼女は外国語専門塾の教師です。仕事関係でなにかトラブルがあったのでしょうか?日本で働くなとは言いませんが、悪さをするために日本に来るなと言いたいですね。次は田口信二さん、カメラマンです。趣味はパソコン。ひきこもりのような毎日をおくってますが……決して孤独ではありません。どんな罪か想像つきましたか?>


ここまで紹介された四人は、苦虫をかみつぶしたような顔で、TVをじっとみつめていた。

彼らの表情を見れば、この司会者が言っている事が嘘ではないということが伺える。


<最後に紹介しますのは、見た目は人畜無害。今時の草食系男子!しかし、おそらくこの中でもっとも刑が重い人物といえます!彼の罪状を聞いた瞬間、視聴者の皆様はおそらく冗談だと思うでしょう。ぜひ、最後までお聞きのがしのないようお願いいたします>


「僕が具体的に何をしたか教えてもらいたいな!」

 メガネの男が液晶テレビの司会者へ叫んだが、彼はそれが聞こえていないのか、無視しているのか話を続けた。


<さて、今回は五人の犯人達の紹介のみです!皆さんはこれから、彼らの生活を、会話しているところを見て、有罪か無罪かを決めていただきます。それではっ、グッチョイス>


司会者のウインクをして、右手の親指をぐっと突き出した笑顔を映したと思ったら、ぶつっ、と画面が消え、再び銀色の壁となる。


「……なるほど、こんな腐った番組を見て楽しむような根暗な男共なら、確かにこの中で一番いい女のお前を見守りたくなるだろうよ。無駄な仏心というか、この場にいれば助けて、あわよくば自分の女にしようという下心がおきそうないい女だ。お前だけは助かるぞ、羨ましい。あの女とは偉い違いだ」

 五十嵐は皮肉めいた笑みを浮かべながら、タニアを見て言う。

 彼女はというと、泣き崩れて、英語でなにやら言っている。

「日本人は例え善人でも、外国人には容赦がない。『外国人は日本に罪を犯しに来たのではないか』、『外国人は日本人を馬鹿にしている』という被害者意識を持っている。多分、アイツが一番最初にクビ切られるだろうよ」

 確かに、日本人に限らず、人間は他者と比べるようにできている。

 差別とは区別の域を越えてしまっただけで、外見、性別、人種などとカテゴリーわけするという性質は変わらない。

 特に人間は、見た目で相手の性格などのほぼ九割を無意識のうちに決定づけてしまう。

 殺意や侮蔑まで発展しないとはいえ、やはりタニアのような外人、しかも日本で罪を犯したとなると、日本人の視聴者達は無責任に、ろくに調べもしないうちから有罪を決めつけてしまうかもしれない。

 日本人は兎にも角にも勧善懲悪を好む。もちろん、正義は自分たちだ。

 タニアのような、カテゴリーわけの少数派を『わかりやすい敵』に設定してそれを叩く。

 中学生のいじめと同じだ。

 常に多数側にまわろうとし、不特定多数の陰に隠れて何かを見下したがる。

 しかも、今回はその犯罪者という『わかりやすい敵』を自分の手で裁けるという優越感にも似た感情で楽しんでいる。

 映像を観ていた日下部は番組制作サイドの思惑を理解し、思わず笑みがこぼれた。

 笑い声が漏れそうになり、片手で口元を押さえている。

「おい、あいつは何を笑ってるんだ?」

 それを見た田口、五十嵐、立花の三人は、いぶかしい顔で眺めていた。

「いかれたか?」

「なんか言ってるわよ」

 抑えている口元から、日下部が何から言葉を発しているのが聞こえる。

「なるほど、なるほど。そういうわけか。面白い……」

 映像が消えた液晶モニターを、ぎろりと開いた瞳でにらみつけながらそうつぶやいていた。

「恐怖でおかしくなったのか、それとも……なにか思いついたのか?おい、お前、何が面白いんだ?」

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