第2話 隔離された世界で今を考え、昔を思い返す
編入生の我は現在どの部活にも所属していない。
同じ学年の1年生はほとんど部活に所属している。だから学校の1日の授業が終了し帰りのホームルームが終わった後、クラスメイトたちは一斉に各自の部活活動場所に向かう。またこのクラスにおいて言うと文化部よりも運動部に属する人が多い。
陸上部や水泳部、剣道部や柔道部などの部活は毎年全国大会に出場する実力。そしてそれを売りにしてるこの学校・・・・・・運動部が人気なわけだ。
もう一度言うが我は部活に入ってない。
高校は、部活に入って青春を謳歌する場所と河井から教えられた。実際ここ1週間様々な部活を見学したがどの部活の部員も笑顔で楽しく、一生懸命取り組んでいた。その姿は部活無所属の人を羨ませるのに十分な光景。もちろん我も羨ましいと思った。こうして1週間経って放課後に広報委員会の手伝いで各部活を取材している今でも羨ましいと思った心は消えていない。むしろ運動部が切磋琢磨練習しているのを写真で撮る度心が高まる。特に剣道部や柔道部なんかの武道系の部活動風景を見ていると体がうずうず疼いてしかたがない。
でも、我は自分で自分が所属する部活動を決められないのだ。ある人に高校に編入する際に誓約させられた「身分自由保障制限」のせいで。
「クレミア君、もう全部の部活の取材終わったから帰っていいよ。カメラは新聞部の部室に置いてくれればいいから」
広報委員の副会長と手分けして分担したから予想の1時間くらい時間が余ってしまった。いつもだったら真っ先に学生寮に帰って鬼の合宿をもう一度しないようにと気合いを入れて語句勉強に取り組むのだが、今回は行きたい所がある。
桜の木が左右に並ぶ道を抜けて直ぐ見えるヒノキの大樹。その直ぐ後ろに小さな建物が昨年建てられた。
・・・・・・・・弓道場だ。他の部室より新しく建てられたのに何か安っぽく、敷地が狭い。それには理由が2つあって2つとも関係があって正当化されたもの。
1つ目の理由が部員が少ないこと。
部活は本来5人以上で「部活」として正式に活動を認められ、始められる。弓道場を活動拠点にしている弓道部も部活結成時は7、8人居た。だけど現在は5人にも満たない。
風の噂だから定かではないけど部員の1人が県大会中に他校の出場選手、しかも全国大会優勝株の選手に暴力を振るった。暴力により全治3か月の怪我を負った他校の選手。事態は新聞に取り上げられるほど大きくなり、相手の学校側は責任を取らせるように言ってきた。我が校は責任を取るべく怪我させた弓道部部員を退部及び退学させたそう。
これが部員が減った理由。
2つ目の理由は1つ目みたいな複雑な事件が起きたからではなくごく当たり前の理由。さっきも言ったが弓道部は設立から1年しか経ってない。それに比例して大会での実績は市大会優勝くらい。部員が少ないことも相まって弓道部が狭くて望む練習もできないから部員の腕も上がらない。
・・・・・・・評判も悪く、実績もほぼ皆無に等しい弓道場を部室とする弓道部。学校の生徒も教師も近づきたがらない場所。
そこに今我は自分の意思で足を運んでいる。他の人がどう思おうと関係ない。なぜなら我は感動しているから。
射場と安土(的を掛ける為に土を土手のように固めた盛り土)の距離は28メートルある。現代日本で近視人口が増える中、それだけの距離が離れている所「的」を瞬きせず見続けられる人はそうそういない。でも我の瞳に映る彼女の瞳には確かに的を捉えている。捉え続けている。
今回で彼女を見たのが2回目となる。1回目は廊下でただすれ違っただけ、印象と言えばポスターを持って廊下を走ってたことから明るく、おっちょこちょいな人。それが正直な印象だった。
「家の部に何か用?」
2本目を撃つ寸前、つまり会のところに入った時中にいた男子部員がこちらに気づいた。その場で正座を崩して即部室のドアを開ける。
「・・・・・・・・・・・・・・すいません」
ここまで来て、気に掛けてくれて、お客扱いしてくれたのはうれしいが生憎と日本語が不自由な我にとってのコミュニケーションツールは今のところノートに字を書く、これ一択。だから例外なく彼に「すいません」だけ言って後はノートに「彼女をを見ていました」と書き、彼女の方を指差す。
一瞬彼の眉がくっつきそうなぐらい疑問の表情をしたが差した指を追って「あっ・・・」と伝わった。そうしたらなぜか目の色を変えて肩を掴んできた。
「君、弓道に興味ある? あり? ありあり? ・・・・・・・・もちのろん? ならばこっち来て一緒に見ようよ。見終わった頃には君は弓道にメロメロになってるよ。絶対!」
さっきまで死んだ魚の目をしていた男子部員が生き返って可愛い子犬を見つけたかのような顔にチェーンジ、して急に馴れ馴れしくなった。彼の気合いの入った部室の案内を興味本位で受けてしまい他の部員に申し訳なく射場にて見させてもらう。
・・・・・・・・とっても静かだ。周囲の部員1人1人見ても真剣に撃つ人を見ている」
静止画の世界に切り替わる射場。それはまるで「ここだけが静止画、または時の狭間に居る」感覚だった。動きもスローモーションで音も風がビューンと立てているだけ。ゆっくり砂時計の時間が流れる。自然に我の心も体も静寂の境地に至っていく。
しばらくして気づけば心の奥底の光景を思い浮かべていた。
それはつい1か月前の出来事。古き懐かし「異世界」でのこと。
これから我の勇者としての冒険譚が始まる最初の必須事項、物語で言うならエピソードゼロや序章に当たる部分。
・・・その時脳はこの世界の「全感覚情報」を一時遮断して無意識に繋がる「異世界」へと感覚を繋いだのであった。
花火は美しく、人の記憶は儚い 藤宮 結人 @13773501
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