クロニカ・マカニアの生い立ち
クロニカ・マカニアはジュリウス・セピールのことが大嫌いだった。
クロニカはトリコリス王国のマカニア公爵の娘として、生を受けた。
父は母のことを愛していたが、一人娘であるクロニカのことを愛してはいなかった。
その理由について、クロニカは分からなかった。
顔が原因か、と鏡と睨めっこをしても、どこからどう見ても父が愛している母似の顔であった。己の性格については、自分ではどうにも分からなかった。母は可愛い、と言ってくれるが父にとっては可愛くないかもしれない。父の好みが分かるほど一緒に過ごした時間がないので憶測でしかなかった。
使用人に訊こうとしたが、腫れ物扱いする者たちに相談するのは気が引けた。母なら尚更のことだった。
父に好かれようと、勉強も社交ダンスの練習も頑張った。だが、使用人の噂話を聞いて打ちひしがれる。
父は息子が欲しかった、と。だから女に生まれた子供が疎ましい、と。
クロニカは、傷付いて喚いた。気が済むまで暴れて、落ち着いたところで閃いた。そうだ、男になろうと。
母は病弱でまた子供を産んだら、命はないと診断された。クロニカ以外の子供は望めなかったのだ。
それなら、自分が立派な男になって父の愛を貰えばいいのだ。
今思えば、どうして男になっただけで愛されるって確信したのか。子供の思考は分からない、と後のクロニカは苦い顔をする。
決心したクロニカは、自分の事を「俺」というようになり、仕草も言動も男に近づこうと努力した。
それでも父はクロニカを見てくれなかった。男の振りをするクロニカを、褒める事も諫める事もなかった。
自棄になり、剣術も学んだ。使用人たちが嘆いていたが、聞こえない振りをした。
「しょうがない子ね」
男になろうとしている娘に嘆くことはなく、母は優しく微笑み、クロニカの頭を撫でてくれた。貴女は貴女の好きなようにやりなさい、とクロニカを暖かく見守ってくれた。
だが十一になった日、父はクロニカを呼びつけた。
「お前も来年になったら学園に入る。男ごっこはやめて、令嬢としての教養を身につけなさい」
こちらには一瞥もくれず、冷たく言い放った父にクロニカは絶望した。
今までの努力が無駄なことだと、どう足掻こうが父の寵愛を受けることはないのだと。
その言葉が引き金となったのか、クロニカは父に対して反抗期になった。
結果、クロニカは男装を止めず、学園に入ってからも男として振る舞った。
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