第4話 衝突

 S.I.L.Fは、我先にと壁内へ雪崩れ込んでいた。丘陵を駆けおりた僕達は、長い列を作るS.I.L.Fから、少し離れた壁に張り付いた。

 奴らには蟻の様な習性がある。単独行動をしないのだ。最低でも二匹で発見される。ゴキブリと同じ様に一匹見たならば百匹いるものと思え、と教官にも先輩にも散々教えられた。

 僕達は、これまで何度か実戦を経験してはいるが、どれも5匹以下の群れだった。今回のようなS.I.L.Fの大群は、一度も見たことがない。パーセル達も同じだろう。



「みんな、大丈夫?」

ティンとラルカが答える。

「よし。じゃあ、ワイヤーでこの壁を登ろう」

防御壁の最上部にはフックが付いている。帰還時、敵に追われていなければ、いつものように門を開ければ良い。だが、もしもS.I.L.Fに追われた状態で戻ってくるならば、門を開けることはできない。少し前までは敵を殲滅するまで、基地内に入ることは出来なかった。しかし、基地の目前で命を落とすミストルテインも居た。そこで考案されたのが、ワイヤーを利用した帰還だ。第三世代ミストルテインから、両腕にワイヤーが標準装備されるようになった。フックにワイヤーを掛け、巻き取ると上昇していく、といったシンプルな仕組みだ。中には、移動用だけではなく戦闘に使用する者も居る。だが、そんなことをするのは極一部だけだ。


 ワイヤーが空気を切る音と共に、僕達は壁を登った。壁上に立つことで、基地の被害がどれ程か知ることとなった。

 基地は、ほぼ壊滅していた。僕達が居る東側だけではなく、南方からもS.I.L.Fが大群となって押し寄せていた。そこかしこから火の手があがっているのを見るに、他の門からもS.I.L.Fが入ってきたのだろう。発砲音が響くのは、中央にそびえ立つ指令本部のみであった。指令本部は、基地の中で一番高い建物で、より一層頑丈に作られている。だからこそ、ギリギリのバランスで今も守り切れているのだ。


「これは……もうダメだな」

しかし、ティンは冷静に語る。

「司令部で、あの大群を乗り切ることは出来ない。私たちは本当にあそこに向かうべきなのか?直近の基地に増援を要請しに行くべきではないのか?」

薄々、僕もそう思い始めていた。この戦力で救助しに行くのは最善なのか。頭の中で何度も反芻した。ミストルテインに搭載されている無線機では、通信の出来る範囲が狭い。その為、ミストルテイン単体で他の基地へ救援要請を出すことは難しい。通信可能な範囲まで、基地に近付くしかないのだ。



 増援を呼びに行くことを提案しようとした矢先、

「行くしかないだろうが!」

と、パーセルが怒りを露わにした。ティンの言葉が引き金だったらしい。

「あそこで助けを求めている奴らが居るんだ!俺たちが助けにいかないとダメだろうが!」

 基本的にパーセルは明るい性格で、怒鳴る・怒るという姿をほとんど見たことがなかった。ただ、以前に一度だけ乱闘騒ぎがあったが、虐めの現場を目撃したことが原因だった。パーセルは、周囲に軽率な印象を持たれているが、その根底には正義心が根付いている。

「それではナンバー783。私たちが無事に生き残れる確信があるのか?」

「あるさ!俺たちの連携力なら大丈夫なんだよ!」

「そんな曖昧なものでは納得できない。たかだか数回、実戦を経験しただけの私たちではあの数を捌ききれないぞ」

「そんなのやってみないと分からないんだよ!」

「何故、そんなに意地になるのだ。今、このように時間を浪費していることが、あそこに居る仲間達を、より苦しめているのだぞ」

「じゃあ、今すぐ助けに行くぞ!増援を呼んでいる時間なんて無いんだよ!」

「だから、本当にこの人数で助け出せるのかと聞いているのだ」

パーセルとティンの言い合いが続く。

 徐にラルカが口を挟む。

「ところでですね、もし助けに行ったとして、そこからどうやって脱出するんですか?増援を呼びに行ったとして、燃料は持ちますか?増援を呼ぶなら、既に司令部が呼んでませんか?」

 言い合いをしていた2人は、ラルカの鋭い発言に口を噤む。

「みなさん、落ち着いてください」

普段のラルカはフワフワとしているが、いざ、このような場面になると彼女の凄さが分かる。


「みんな…悪かった……」

「私も、取り乱してすまなかった」

パーセルとティンの両名は冷静になったようで、自分の言動を謝罪した。

「こうなると、選択肢は1つだね」

「そうですねぇ」

とラルカは、いつもの感じで相槌を打つ。

「当初の予定通り、僕達は格納庫で補給後、司令部へ向かう。到着後、ゼーマン教官の指揮下に入る」

3人が了解と応える。

「ここより先は正直、命の保証はできない。だが、S.I.L.Fと戦うミストルテインのパイロットとして、1つでも多くの命を救おう。……僕達なら大丈夫」


息を大きく吸い込み、覚悟を込めて僕は叫ぶ。

「ミストルテイン第78部隊、作戦開始!」

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