2話 ミス・ドレス・メイド(4)
ここでのメイドの仕事は掃除、食事の準備、洗濯が主らしい。
作業場での紹介のあと、エミリーはヒフミについていって家事の説明を受けた。厨房で食事の準備の仕方、廊下で掃除のやり方、洗濯室で洗濯の手順。
館は基本的に作業場として使われていて、たまにしか来客がないので毎日階段の手すりを磨いたりしなくていいらしい。洗濯も「自分の服は自分で洗え」というイルケトリの方針で、リネンやテーブルクロスを数日おきに洗えばいいそうだ。火が使えないので、食事の準備はヒフミがついていてくれることになった。
服装は特に決まっていないとのことだったので、エミリーは一度自分の部屋に戻って着替えることにした。襟がつまったグレーの装飾が少ないドレスに、自分で作った白いエプロンをつける。曲線のある服は作れないが、四角しかないエプロンなら作れた。髪は後ろ頭の高い位置でひとつに丸める。さながら本物のメイドのようだが、中身は完全に素人だ。
着替え終わって、早速食事の準備のために厨房へ下りていくと、白い上かけのようなものを着たヒフミがいた。外国のエプロンだろうか。
エミリーはヒフミの指示で食材を切り、鍋を出し、調味料をはかった。完全にヒフミの手伝いという形になってしまい申し訳なく思いつつも、せめてできることはちゃんとやらなければと自分に言い聞かせる。
「あの。ヒフミさんもドレスを作るんですよね?」
エミリーはかまどと離れた作業台から、なるべく火を見ないようにして声をかけた。ヒフミが鍋をかきまぜながら振り返り、頷く。
「どういうドレスを作るんですか?」
緊張していたが、まずは少しでもコミュニケーションをとりたかった。
ヒフミは表情を変えず、小動物のような瞳をまばたかせて、首を傾ける。
「いろいろ」
「ああえっと、じゃあ、一番最近作ったものは?」
ヒフミの首は傾いたまま、まばたきだけが繰り返される。
「きらきら、ふわふわで、裾てろーんドレス」
裾てろーんとはトレーンのことだろうか。謎かけのような会話に、エミリーはけげんな顔にならないよう気を付けながら頷いた。
そうしてエミリーはヒフミと一緒に食事を作って、廊下を掃いて、テーブルクロスを力いっぱい洗って、数日をすごした。
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