第1章 二話『怒りのアグナムート』

「____アルセン遅刻」

「分かってる。」

「本当?」

「ああ……」


アルセンは目を逸らしてあからさまにめんどくさそうな表情で頭をかく

____そのような行動をとったアルセンを見て、エルは何かを見透かしたかの様な目でアルセンを見た。


「嘘だ、アルセンは噓を付いているとき必ず頭をかく癖があるから」

「いやいや、そんな事はないぞ」

「……ある」

「な、なあエルそろそろ自分の席に戻ったらどうだ?」


先程から、学年首席魔術師のエルに話し掛けられている俺だが周りの人達からの目が痛すぎるのでそろそろ戻ってほしい……。

エル本人は気が付いてい無い様だが、エルは学園内で凄まじく人気がありファンクラブが出来る程だ。

そんな、人気者が魔術師の底辺であるテクナートの俺などと話していたら他の生徒が不満気になるのは当たり前である。


「……やだ、三ヶ月も会えなかったからいっぱい話す。」


アルセンの話に一切聞き耳一つ立てずにエルは身体が密着するぐらいの距離までググと近づく


「はあ……本当に戻らないといい加減あいつが……」

「あいつってだれ?アルセン」

「そんなの決まってるだろ、シー____」

「____おい!ルーズ・アルセン!」


アルセンの声をかき消すかの様に大きな声でかつ透き通った綺麗な声が教室に響き渡る。

アルセンが、恐る恐る教室の入り口に目を向けるとそこには頬を少し膨らませながらも冷静に腕を組みながら、アルセン達の方向へ向かってくる金髪でショートヘアの碧眼美少女がいた。


ああ、来てしまったか……

アルセンは心の中でそう呟きながらも、実際には偽物の微笑みを見せながらシーナの登場を笑顔で歓迎する。


「あ、シーナだ。」

「どうも、エル様……御機嫌よう……です。」

「どうしたの~?」

「ど、どうしたも何もこのルーズ・アルセンめがエル様と親し気に話していたので」


シーナはそう言いながら、先程の冷静な顔とは打って変わり凄まじい形相でアルセンをにらみつけた。

それに対してアルセンは明後日の方向を向きながら、口笛などを吹いている。


「アルセンじゃないよ、私がアルセンに話しかけていたんだよ~」

「な、なに!? 貴様ついにエル様に何かの魔術を!?」

「いや、かけてねーよ」


アルセンは頭の後ろで手を組み、目を呟ったままシーナの問い掛けに光のごとく即答する。

一方、そんなアルセンの態度を見た。クラスの生徒は、戸惑いと同様を隠せないようであった。


「噓をつくな!貴様の噓などお見通しだぞ!」

「____ホントだ。」

「ふん、信用ならぬな。」

「おいおい、こんなテクナートが学年首席のエルに魔術を掛けられると思うか?」


普通に考えてテクナートの俺がエルに魔術を掛けるなんて事は無理がある、と言うよりもほぼ不可能だ。

対するシーナはアルセンの言葉を聞きシーナは視線を逸らし俯いて___その小さな肩を、わなわなと怒らせ始めた。


「ほざくな雑魚めが!」


シーナはいきなり声を荒げ、自らの魂を媒介にし実像する魔術剣スペクターを自らの右手に召喚させ

る。その、魔術剣スペクターをアルセンの顔に向けると、小さく深呼吸した後、ゆっくりと口を開いた。


「おい、ルーズ・アルセン!貴様に術式戦争イディオを申し込む!」

「ちょっと待ってくれよ、この学園で下列最下位の俺が上位のあんたに勝てるわけ____」

「____黙れ、私はいま貴様を潰してボコボコにしたいだけだ。そんな、きれいごとは関係無い!」


再びアルセンの声をかき消しながら話すシーナ、言葉遣いが、もはや暴言になっている気がするのだが……

____その発言を聞いたエルが顔色を変えシーナの目の前で両手を広げて止めに入るも、「エル様はあちらへ」とだけ言われて周りにいた生徒達にお姫様抱っこで教室から退場していった。


「ちょ、ちょっと!シーナ!」


これ以上抵抗しても無駄だと悟ったアルセンは、面倒くさそうに頭をかきながら、さっきまで緩んでいた目を尖らせ輝かせる。まるで餌を狩るときの猛獣の様な目で


「分かった、それじゃあ始めようか?」

「____ああ、私は貴様を決して許さない!」


アルセンは不敵な笑みを浮かべながら自らの魔術剣スペクターを召喚させ、その魔術剣スペクターを左手に持つ


「おい?どうした」

「……」


そして、呆然とアルセンの左手を見ていたシーナが我に帰り、人を見下す様な目で立っているアルセンの胸倉をグッと掴むと、学園中に響く程の罵声を飛ばした。


「貴様、なめているのか!?」

「ん?なんで?」


そんなシーナの罵声もアルセンの耳には届かずアルセンは聞かぬふりをして、あからさまにふざけながら首を傾げた。


「その剣……ただの木刀であろう!」

「そうだぜ?まさか、ビビってねーよな?」


アルセンは相変わらず、挑発気味にシーナへ話し掛ける。

ふざけているアルセンを見て金髪の少女____シーナは眉間にしわを寄せて堪忍袋の緒が切れる寸前の所をどうにかこらえている。


「ビビるも何も、私は魔術剣スペクターで貴様が木刀だぞ……どちらが、強いかなんて定かではないか!」

「さあ?そうか?分からないぜ?」

「貴様と言うやつわああああ!」


シーナは叫びながら、普通の人間なら確実に死ぬ魔力を解放し殺す勢いで迫り、魔術剣スペクターを頭の上まで振り上げアルセンに距離を詰める。

そして、アルセンが一歩も動かないまま頭の上で振り上げている魔術剣スペクターを勢いよく振り下ろした。


「ふふ、捕らえましたわ!」


が……シーナの魔術剣スペクターがアルセンに触れる瞬間、アルセンの姿が消えた____


騒然とあたりが静まり返り野次馬の生徒達に緊張と不安がよぎる。

そして、シーナは目の前に当然の様に立っているアルセンの前で、足をおりアルセンに身を預ける様にして力から尽きた。それも一瞬で____

この時、アルセンは傷一つ付けづにシーナの攻撃をよけたのだ。その光景を見ていた生徒はほぼ全員が腰を抜かし床に倒れこんだ。


「あーだれかーシーナの事、保健室まで運んでくんない?」


アルセンは当たり前かの様に腰を抜かしている生徒に話し掛ける。


「は、はい……私が」


周りで見ていた沢山の生徒の中で名乗りを上げたのは、見るからに気弱で今でさえアルセンを見て足を震わせている青髪の少女

アルセンは、その少女を見るなり無言で、目を潰ったまま気絶しているシーナの体を預ける。


「___え……あ、あの」

「……ん?」

「い、いや……何でも無い……です。」

「ん、そうか。」


そう一言だけ告げアルセンはズボンのポケットに手を突っ込みながら静かに、そして威勢よくその場を後にした。


____その姿は、学園最低ランクのテクナートには似ても似つかなかった。

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