第13話 ライラの処遇
「ライラ・ミリネィ、参りました。」
ライラが書庫に呼び出されたのは、ついさっきのことだった。
ライラには呼び出される覚えはない。エトラスはライラには好意的なようだが、ライラはエルフの上に、今、召喚士の間では一番の実力者と言われていた。(ただし、嫉妬や妬みという形で)エトラスはこの兵団の中だけでなく、政治の一端にかかわるほどの実力者と言われている。侵略に躍起になったこの国で、戦争に近い立場にいながら、戦場に出ず、召喚士たちも酷使されているわけではないのだから、頭も切れるのだろう。ライラを利用する可能性もないとは言い切れないかもしれない。ライラはエトラスのことを穏やかな人のいい召喚士だと思っているが、用心したほうがいいのかもしれない。
「どうぞ。」
返事を聞きながらも、そんなことを考えながら書庫に入る。
「待っていましたよ。」
エトラスは変わらない様子で話す。
「ご用件があるとお聞きしたのですが。」
ライラは会話の中で主導権を握ろうと試みる。
「そうです。が、世間話に付き合ってくれてもよいのでは?」
エトラスはライラの姿勢を軽くいなす。
「申し訳ありませんが、学問は苦手ですので。エトラス様のお相手は務まりませんよ。」
「世間話ですよ?まあ、いいでしょう。君にここに来てもらったのは、部下をあたえようとおもいまして。」
「部下ですか?しかし、私には、部下をいただく功績がありませんが。」
「さきの召喚士襲撃の際の功績ですよ。公務とは違いますが、この国の多くの召喚士が救われたのです。十分、功績ですよ。君は、召喚士としての力を示した。これからも励んでください。」
ライラは、この言葉に戦争の惨劇を思い出し、内心顏を顰めていた。召喚士は多くの死者を出したのだ。その者たちを救ったことが功績になるなど皮肉にしか聞こえない。ライラはあの時の光景を、惨状を、はっきりと思いだせる。人の死臭、血しぶき、叫び声。そして、召喚士の、アーレイのどこにも焦点を当てていない虚空を見る目――。
「待ってください。公務ではないというのに褒章などいただけません!」
ライラの声がいつもより大きくなる。せめてもの抵抗だった。
「すみません...。ですが、褒章はいただけません。」
「君は部下たちのいる前で、断る、といっているのですか?」
エトラスは言う。
「...。」
ライラはハッとする。
「...その者たちが私につかえることを望んでいるとは限らないでしょう?」
「...。君もかたくなですね。セラ、チセ。入ってください。」
エトラスはらいらにかまわず、部下候補?と思われるものたちを呼び入れる。
「セラ・チャイ。参りました。」
「チセ・トリノ。参りました。」
二人の少女が入室する。
一人は緑色の長い髪をフードで隠している。年はライラと同じか少し大きいくらいだろうか。長髪はストレートだ。
もう一人は、赤い髪をしたショートを同じようにフードで隠している。
年はライラよりも大きく見える。
「今から君の部下になる。君たちの新しい上司、になるかな?」
さきの言葉はライラに向けて、あとの言葉は二人の少女?たちに向けて。
あとの言葉は少しおどけていた。
ライラはことわることをあきらめて仕方なく応じる。
「...ライラ・ミリネィです。お聞きの通り、あなたたちの主となります。」
「セラ・チャイです。」
「チセ・トリノといいます。よろしくお願いします。」
「二人は召喚士でこそありませんが、優秀な能力を持っています。仲良くしてください。」
「では。私はここで職務の続きをしますので。悪いのですが、退出してください。」
「失礼します。」
ライラに続き、二人も挨拶する。
「失礼する。」
「失礼します。」
この日から、ライラは二人と行動を共にすることになるのだった。
エトラスは書庫から出るライラ達を見送る。
召喚士として強力な潜在能力を秘めるライラを認めさせるには、功績を与え取り立てることが必要だ。これで聡いものは後ろ盾にエトラスがいることを読み取るだろう。エトラスは、自分が焦っていることに気が付いていない。彼は本当はここまで強引な手段をとる予定ではなかった。
問題は部下と仲良くするかですね...。
二人は髪色が目立つことや、境遇、自身らの持つ能力の扱われ方が似ている。境遇が同じだとうまくいくだろうと思い選んだのだ。
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