第11話 アーレイの過去

ライラはラグナレクとともに波の使い方を練習していた。

「大気中の波を集め、体の中でひとつにまとめるイメージで。」

ラグナレクが横で、アドバイスする。

「うーん...。」

ライラは難しい顔をしている。

「力を抜いて、波を感じるのじゃ。その波が水の流れのように動くイメージで。杖を使って動かすように。」


ライラが訓練をしている。

それをアーレイは遠くから見ていた。ライラはエルフだという差別にかかわらず、訓練を続ける。うまくいってもいかなくても。

ライラが初めて召喚したとき、アーレイはそれに助けられた。

いつも明るくて、でも、いつも無理をして。そんな必要なんてないのに。召喚士が必要とされるのは戦争の時だけ。


母も同じたった。私にとってたった一人の家族だった。

母は貴族だった。でも、貴族の中でも身分が低かったと聞いていた。父の身分は母よりよほど高かったらしい。

父は、母と出会った時はすでに既婚者だったのだろう、と今なら考えられる。嫌がらせには父も加担していたと知ったのはつい最近のことだ。

母は一時の都合のいい遊び相手だったのだろう。

母が私を生んで、私が物心ついた時には母へのすでに嫌がらせは露骨だった。私が幼かったころは,母はとても穏やかで、端正な顔立ちもあり、素敵な人だった。母は器用で大抵のことができた。

しかし、嫌がらせがエスカレートしてくると母も疲れを見せるようになった。貴族の間だけで嫌がらせはとどまるはずもなく、私たちは世間から孤立していった。母はだんだん憔悴していった。体だけでなく、性格も変わっていった。穏やかだった時には想像もできないような些細なことで声を荒げるようになった。私は母を励ましたくて、学院に通ったりもした。しかしそれは結局かなわなかった。

そんな時だった。私が召喚士の才能を持っていると分かったのは。

私は召喚士兵団に入った。母の反対は押し切った。召喚士になったことに後悔はしていない。だが、同時に召喚士に思い入れもない。

それ以来、母とのことはいい思い出を思い出せなかった。

ライラを見ていると、まだ母が穏やかだったころの面影を見ているような気がする。

もう母はいないのに。悲報が来たのは、私が入団して間もなくのことだった。

その時は何とも思わなかった。今でも悲しいとは思わない。人とかかわる気になれなかった。

だからだろうか。ライラを見ていると不安になる。まるで母と同じ道をたどりそうで――。

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