第9話 司書の仕事

服を召喚士の装束に着替える。

そのまま書庫に向かう。


「ライラ・ミリネィ、参りました。」

「ああ。ライラ。歓迎しますよ。」

エトラスが返答する。

「ありがとうございます。」

「今回も前回の報告でしょうか?」

緊張しているのだろうか、ライラは本題を訪ねる。

「いいえ。今回は、書庫について話そうと思っていてね。」

「書庫についてですか?」

エトラスはいきなり本題に入ろうとしたライラをなかった咎めることはなかった。

「そう。召喚士とその技術が体系化されていないことは知っていますか?」

「聞いただけですが、知っています。」

「そうですか。では、話が早い。ここは召喚士の技術を体系化するためにあるのです。そのために、報告もしてもらったのですよ。」

「技術を体系化...ですか?間違いでしたら、ご容赦を。そのような話は召喚士の間でも聞いたことがありませんが。」

「ええ。知らせていないのですよ。私はここで報告を聞きながら、それらをまとめていつか技術を体系化できたらと思っているのですよ。」

「そうですか。」

ライラは相槌を打って、話を促す。

「ですから、この間ここに来るまでは私を知らなかったでしょう?」

「恐れながら。」

「ライラ、君に来てもらったのは君にも司書になって、技術の体系化を手伝ってもらいたいと思ったからです。」

「私が、ですか?」

「そう、君に、です。ここにいれば、戦前に立つ必要はありません。身を隠す必要があるので何不自由なくとはいきませんが、召喚士として生活しながら前線に前線に立たずに済みますよ。」

「それで知られていないのですか。しかし、技術を体系化するとなると学問に通じていたほうが良いのでは?私は、学院に通ったこともありませんよ。アーレイ様のように優秀な方のほうがよろしいのではありませんか?」

「いいえ。君がいいのです。技術は未熟でも君の召喚士としての素質は高い。そのことが、この間の召喚獣の報告で分かりました。召喚士の技術はいまだ感覚的なところだ多い。優秀な召喚士のほうがたくさんの技術を修めるでしょうから。」

ライラが優秀だと兵団の中で認められたのは初めてだった。認められたのはうれしいが、ライラは召喚士としての能力にあまり関心がない。

「お誘いありがとうございます。ですが、辞退申し上げます。私にはそのような大役務まりません。まだまだ未熟ものでございますので。」

エトラスは知られてこそいないが、兵団での権威ある方だろう。技術の体系化を手伝っていれば線上に立つ必要もない。しかし、ライラには目的があった。

「そうですか。残念です。しかし、気が変わった言ってください。もちろん、気が変わらなくても、いつでも来てください。君なら歓迎しますよ。」

「本日の話は以上です。」

エトラスは、意外とあっさりと引き下がった。どういう意図でなのか、分からないがせっかく終わったのだからここは引き上げたほうがいいだろう。

「ありがとうございます。なにかありましたら、お邪魔させていただくかもしれません。その時はお願いします。本日は、これで失礼します。」

「いつでもどうぞ。」

エトラスはライラに向かって言う。ライラが振り返ることはなかった。

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