第8話 召喚獣 ラグナレク2
結局、ラグナレクがその後、ライラに顔を見せたのはその日の夜だった――。
その日の訓練は、波の使い方の練習など、どうすればいいのか検討もつかなかったため、何も進展していない。どうして急に使えるようになったのか、ライラには不思議でしかないのである。
帰ってきたラグレクは、とても楽しそうだった。
今、考えてみるととても目立つ見た目であるのに、いったいどこで何をしていたのだろうか。何も、問題を起こしていないといいが。
「これが昼間言った杖じゃ。」
ラグナレクがそう言って差し出したものは、確かに杖のようなものであった。何でできているのかわからないが、固く強度がありそうだが、その割に軽く、手にしっくりと馴染む不思議な感覚だった。赤と紫で彩られた装飾の少ないシンプルなデザインである。ライラが杖を受け取る。
「使うがよい。」
しかし、ライラは杖に見とれていて聞こえていない。
「おい。おーい。主よ?」
ハッと我に返るライラ。
「...気に入ったじゃろう?」
ラグナレクはあきれたような声だが、どこか得意そうな顔をしている。
「はい。とても。」
ラグナレクのその様子がなぜかおかしくて少し笑いそうになる。
「そうじゃ、名を聞くのを忘れておった。主よ、名を何という?」
「...ライラです。ライラ・ミリネィ。」
少し疲れた声でライラは答える。
――ラグナレクといるとペースが乱される気がしてならない。召喚獣とこの絶妙に合わない感覚に、未来に不安を覚える。
「どうやって使えばいいのですか?」
「手に持って使う。それ以外に使い道が?」
何を当たり前なことを...と言いたげな顔でラグナレクは答える。
「そうではなくて...」
「波の使い方を知らぬのか?嬢ちゃんから聞いていたのではないか?それなりの使い手であろう?」
「私だけでなく、召喚師の間でも、召喚術のことはよく知られてはいないのです。皆、感覚的にしかわからない上に、個人差が大きいのでなかなか上達しないのですよ。」
ラグナレクは意外そうな顔をして聞き返す。
「この国は召喚師の能力を使って大きくなったのではないのか?主から話を聞いていると、何も知られていないように思えるのじゃが?」
「...ラグナレクは何を知っているのですか?話してくださるのでしょう?」
「どこから話したらよいかの...。」
少し考え、見当をつけかねている様子だ。
「契約の時にいわれた対価というのは?適正によるというのはどういうことですか?」
「対価については言えぬ。適正によって決まるというのは...まだ決まっておらぬじゃろうな...。」
「じゃが、強大な力は得てして災いを呼ぶものじゃ。対価とは関係ないがの...。」
少し暗い顔をしてラグナレクが言う。
「...弱いものだけに名が必要だというのは?」
ラグナレクはさっきの顔が嘘のようにいつも通りの調子に戻った。
「これは知られていないことじゃからの。ほかの者にはあまり話さぬほうが良い。」
そう前置きして話し始める。
「召喚獣は元は波の集まりだといわれている。精霊などに近いと。その者たちは召喚師と契約することで、召喚師から波をもらい、自分を世界に固定する。言い換えると、姿かたち、能力を得る。その際に、自分の名前が必要になる。しばらく、召喚師から波を得ると自分でも波をある程度扱えるようになる。逆に、我のようなものは名はいらぬ。自分の力だけでも行動することができる。今日のようにな。」
「波の使い方を知らぬのじゃったな?それは明日にしよう。やりながらのほうがいいじゃろう。今日はもう遅い。我も疲れた。」
最後のほうはつぶやきながら、寝始めるラグナレク。
「じゃあの。」
そう言って消えてしまった。
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