第6話 書庫で

「明日、召喚師の詰所に2人で報告に来るように、と。」

昨日、アーレイに言われたことを思い出し、服装を正式なものへと変えることにした。

召喚師には、一律に集団である程度統一されているように見えるデザインの式服を入団の際に作られる。

黒と深い、明るい青を基調にしたアンダーウェアと白を基調にした服。腰や胸のあたりに帝国の紋章をあしらったアクセサリーをつける。

式典用なので、そんなに着る必要はないのだが。

いつものエルフに伝わる服を着替える。


「おはようございます。」

「おはよう。」

いつもの訓練場所でアーレイと会う。

そのまま、アーレイに案内され、書庫へと赴く。

「アーレイ・アニキス、参りました。」

「ライラ・ミリネィ、参りました。」

書庫の中から返答が来る。

「どうぞ。おはいり。」

返答に敵意がないことにほっとしながらも、緊張した声で挨拶をして、入室する。

「失礼します。」

部屋の中にいたのは、一見すると、好々爺のような印象を受ける、しかし、若く見える男性だった。

歳は30くらいに見える。

「君が、ライラ・ミリネィですね?」

「そうです。はじめまして。」

頭を下げて、返答する。

「アーレイ。度々の報告ご苦労。」

「恐れ入ります。」

アーレイも頭を下げる。

「顔を上げなさい。」

アーレイとライラが顔を上げたのを確認して、男性は声をかける。

「では、報告を聞きましょうか。」

「はい。」

アーレイが報告する。

「ウィルター公国での戦争後の帰路、何者かに襲撃され、召喚師たちは応戦しました。しかし、けが人を出しながら、押される結果となりつつありました。そのとき、ライラが召喚獣を使い、襲撃者を退けたのです。」

男性はうなずきながら、話を促す。

「赤い四本足の獣でした。」

「襲撃者を撃退するのに数分しかかかっていませんでした。」

「ライラ。襲撃後、君は倒れ、その時の記憶があいまいだと聞いています。」

「お恥ずかしいことですが、その通りです。」

緊張を顔に出さないよう注意しながら返答する。

「覚えていることを話しなさい。」

どの程度まで話してもいいのか、少し迷ったあと、ためらいがちに口を開く。

「では。何者かに襲撃され、押されつつあることが素人目にもわかったとき、声が聞こえました。『力が欲しいか。』と。それにこたえると、召喚獣が表れ、そのあとの話はお聞きの通りです。」

「ふむ...。」

男性は少し考えるそぶりをしたが、すぐに顔を上げる。

「まあ、二人ともご苦労だった。」

「ほかにお話しすることは。」

アーレイが訪ねる。

「いや、十分だ。」

「では、これにて失礼させていただきます。」

男性がうなずき、見送る。部屋を出るとき、ライラは呼び止められた。

「ライラ。君はまた報告に来てほしい。次は一人で。」

「承りました。えっと...。」

「ああ。エトラスという。」

「では。エトラス様。いつお伺いしましょう。」

「何時でも構わない。君の都合のいいときに来なさい。私はここにいる。」

「わかりました。失礼します。」


二人が退室したのを確認しながら、エトラスはつぶやく。

「ライラ・ミリネィ。ハーフエルフの娘か...。」

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