第2話 新しい力
初めての戦争から帰路につく召喚師の一行。
移動中のアーレイは、相変わらず表情の変化こそ少ないものの、普段と変わらないように見える。
夕食を食べながら、ライラはどこかぼんやりしていて、まるで夢でも見ているかのような感覚を覚えた。
夕食は、珍しく手の込んでいない素朴なものだったのに、味がほとんどわからなかった。
そのまま、眠りにつく。
異変が起きたのは、数時間後のことだった。
騒音で目が覚めると、目の前には武装した兵士が大勢いた。召喚師の中には、けがをしている者もいた。兵士は倒されていくが、いくらいるのか、いつまでの代わりの兵士が姿を見せる。奇襲されたためか、相手の全貌がわからないためか、召喚師たちは圧倒的な力を持つにもかかわらず、押されていた。
相変わらず、ぼんやりと現実感が伴わないまま、ライラは目の前で繰り広げられる惨状を見ている。アーレイに、敵の刃が届きそうになったのに気が付き、我に返った。ぼんやりとした記憶の中で、同じような光景を目にしたことがあるような気がする。
力があれば...。
力さえあれば...。
そう思いながらも、アーレイのほうへ手を伸ばす。時間がスローモーションのようにゆっくりと感じられる。
体が熱い...。
「力が欲しいか?」
声が聞こえた。
「力に伴う代償を支払う覚悟があるか?」
その瞬間、時間が止まったように感じられた。
「代償?」
「そうだ。力は対価なしに得ることはできない。」
聞きなれない声が続ける。
「どのような代償になるかはお前の適正に依存する。それでも力が欲しいか?」
ずっと、どうにもならない世界を見てきた。民族への偏見、権力での弾圧、支配への飽くなき欲望。
力があればどうにかなるかもしれないと思ってきた。
「いいわ。それでも。」
気が付くと、答えていた。
「契約成立だ。」
目の前に赤い獣がいた。
「我が名は、ラグナレク。指示を、主。」
音ではなく、頭に響く声だった。
――アーレイを。
声に出す前に、獣は動いていた。戦場に溶け込む、しかし、鮮やかな赤色だった。
狭い場所をまるで苦にすることなく、自在に駆ける。しなやかな身のこなし。その獣は、人を傷つけることに何の手抵抗も感じていない。音やにおいは、はっきりと感じるのに血の匂いへの嫌悪感も人の悲鳴も全然騒々しく感じない。苦にならない。しかし、異様な執着心をうっすらと感じていた。
自然を形作るものが光のようにゆらゆらと揺らめくのが見える。今まで感じたことなどなかったはずなのにそれが自然と分かった。その光が自然と自分のほうへ集まってくる。不思議な感覚だ。
気が付いた時には、立っている兵士はいなかった。我に返ると、眠気と同時に目の前がだんだんと暗くなった。
遠くで、アーレイが、聞きなれない声が、何かを呼びかけているのが聞こえたような気がした。
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