第11話 Ⅱ 物語
「ここら辺は茨が多いね。しかも枯れているっぽいのに痛い」
目的地は領地の真ん中にある領主邸。だけれども馬を1日走らせても着かない。
馬の時速はわからないけどこの国は相当広いのかもしれない。
「この領地の中心地が近づいてきている証拠です。中心地に向かうほど薔薇が多いのがこの領地の特徴です」
たき火の明かりを頼りに道中見てきたことをレイウス用にメモしていた私は再び慣れない羽ペンを動かしながら言葉を続ける。
「ルネサスはさ、この領地に来たことがあるの?」
「幼い頃に一度だけですが、父と旅をしていた頃に来たことがあります。本当に色とりどりの薔薇の都でしたよ」
ルネサスはたき火に背を向けて座っている。その方が暗闇に目が慣れたままで警戒しやすいそうだ。シルヴァは仮眠をしている。夜間は二人で交代で見張りをするらしい。
「そういえは、城で魔法使いは年齢と見た目が一致しないって知ったんだけど、ハーフもそうなの?」
「とても人間らしい質問ですね。きっとリンネル様は外見相当の実年齢なのですしょう。私たちハーフは人間と魔法使いの中間ですね。私と同い年に見える純潔の魔法使いは魔法力にもよりますがだいたい3ケタ前後です。私は50歳です」
「ご……じゅう」
まだ城の人たちより若いと言っても中年の層に属する。けど、人間らしい質問、ということだから魔法使いにとっては普通のことなのだろう。
「人間でいえば人生後半の年齢ですが、魔法使いやハーフで50歳と言えばまだまだこれから、という年齢です」
この世界にいると普通がおかしくなる感覚に陥る。
そろそろ寝ようかとメモ帳を閉じて横になる。頭上は枯れ木の枝の間から綺麗な星空が見える。
「私の世界に 茨姫 って童話があるんだ。こんな茨に囲まれた城で眠るお姫様。王子様のキスで目を覚まし、城を囲んでいた茨は消え二人は幸せに暮らす……だったかな。まさにここはその童話の中みたいだ」
反応は期待していない独り言のようなつもりで話した。けれど律儀なルネサスは言葉を返す。
「この世界に童話はあまりありませんが、代わりに神話が浸透しています。創生の神子 という神話が有ります。この国が危機に瀕した時、別世界から救世主となる創生の神子を召喚することが出来る、といった内容です」
それはまさに私たちのことで。
「神話にすがるほど夢見る大人が多いとは思えないけど?」
「だからこそ、なりふり構っていられない状況なのです」
会話は途切れる。
魔法を使えば人間など相手ではないんじゃないか。
その疑問はまだ聞かず、現状を自分の目で見て確かめよう。私は目を閉じた。
明るさに目を開く。斗紀ならともかく私はどこでもぐっすり眠ることが出来る体質ではない。
横を向くと布より肌のほうが面積が広いシルヴァの背中と背中の手当てをするルネサスがいた。
「あぁ、この先の茨は剣の効かない。金属のような質感だ。俺たちが道を作って嬢ちゃんに通ってもらうことは出来そうだけど荷物と馬はここまでだな」
「人間と出会う可能性があるのに俺たちが怪我をしていたら意味がない。もう少し辺りを見回ってこよう。お前はリンネル様を見ていてくれ」
低い小さな声で行われるやり取り。伊達に護衛としてついてきているのではなく見張りだけでなく偵察もしていた。
気楽な旅仲間感覚でいた私は少なからずショックだった。
「あのさ、とりあえず……ご飯食べていい?」
シルヴァの肌色に耐えられず寝返りをうって問いかける。
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