第10話 Ⅱ 視察
「ここから先が、薔薇に溢れた華やかな領地と呼ばれていたリッシャローズ領です」
目の前に広がるのは枯れた植物の残骸が地面を埋め尽くすなだらかな丘陵地。
「創生の神子の召喚儀式のために領主が王都に行っている間に西に接するグレーフルー国に侵攻されました。一番最近侵攻された領地です」
ルネサスは馬上で説明をする。
私は所々割れている街道とその街道沿いに放置された枯れた植物から、綺麗な場所だったのだろうと考えていた。
「隊長、物資の準備できたぜ。こっちが嬢ちゃんのな」
「シルヴァ、ルネサス様に失礼だ。御前でくらい言葉を改めろ」
ルネサスがシルヴァを律する。私はシルヴァから荷物を受け取りながら笑い仲裁する。
「ルネサス、いいよ。私は敬語が苦手なんだ。だからシルヴァを叱らないで。ルネサスも敬語じゃなくていいんだよ」
A4サイズの用紙が入りそうなリュックを背負う。
「隊長はピリピリしすぎだって。俺たちは人間の旅人のふりをする。例え兵士に見つかってもすぐに殺されねぇって。嬢ちゃんの顔を兵士が知っているわけねぇし」
そういいながら背負う二人の荷物は私の5倍はある大きさをしている。ずっしりとした質量も見て取れる。
なんだかんだ優遇されていることに慣れないが、今ここでそれを言っても口論に油を注ぐだけだろう。
馬を歩かせながら後ろからついてくる二人を気配で感じる。
「リンネル様、私についてきてください。戦闘は一番危険です」
そういい追い越すルネサス。私の後ろをついてくるシルヴァ。
私はこの二人と最近侵攻された領地の視察に来ていた。
「私は魔法使いとハーフしか知らない。だから人間と接してみたい」
事の始まりは私のこの言葉だった。
室内にいた斗紀は諦め笑いをし、スレイアは様々な理由を付けて止めるし、ガーウィンは眉間の皺が増えている。が、レイウスは目を輝かせていた。
「リンネル様がリッシャローズ領に赴かれるならば、是非かの領地の現状を記録してくだいませんか!?かの領地のローズティー……あれは」
レイウスの好物なのだろうか。
というか、リッシャローズ領ってどこだっけ?
「実験体に交渉として渡すのにまさに最適な一品なのです!!」
斗紀から彼女はマッドサイエンティスト気味だと聞いていたのを思い出した。いや、実験体って……。
「それに、かの領地の跡継ぎであるローズラルは私の妹のような娘のような存在なのです。彼女がまだかの領地にいるならすぐにでも救出したいのですが人員が足りず」
人員が足りず。それはつまり私たちをこの世界に召喚する儀式で多くの魔法使いが怪我をしたから、と考えると少し耳が痛い。私たちのせいで無いとしても。
「レイウスの妹のような娘のような存在って、そんなに幼い女の子がいるなら尚更心配だね」
斗紀の言葉に三人は少しの間のあと、スレイアが口を開く。
「ご説明がまだ出来ておらず申し訳ございません。ローズラル嬢は外見はリンネル様より少々年下くらいで年齢は50歳くらいだったと記憶しております。我々魔法使いは人間より歳を取るのが緩やかなのです」
今度は私と斗紀が閉口する。
私たちより下の見た目で50歳……?
「あ、あの皆はちなみに何歳なの……?」
斗紀が疑問をどうにか吐き出す。
「私は今年で……150歳くらいでしょうか」
「俺は100と少しだ」
「女性に年齢を聞くのは失礼ですよ」
私たちは考えるのをやめた。どう見ても全員30前後か未満の見た目なのに実年齢は三ケタ。ご老人。
で、二人は?という視線に気まずそうに私が答える。
「私たちは17歳デス……」
心からこの人生の先輩たちを労り敬意を示そうと感じた一幕だった。
その後、斗紀の一声とレイウスの希望でリッシャローズ領に視察に行くことになった。
あくまで領地の奪還ではなく視察であると耳だこが出来るほどスレイアから釘を刺された。
私が希望した人員の少なさも懸念されたが、斗紀が口添えをしてくれたおかげで三人という少人数での視察が決まった。
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