第12話 Ⅱ 視認
「なんか、ごめんなさい。気楽に考えていた自分を反省するよ。だから、そっちも無理しないでくれない?」
朝食となる乾パンを頬張りながらシルヴァに言う。
等のシルヴァは野宿の後を片付けていた。
「嬢ちゃん、まさか起きてるとはなぁ。俺も体調も甘かったぜ。嬢ちゃんが反省することねぇよ。これが俺たちのやるべきことなんだからよ」
返す言葉が見つからない。乾パンを食べて返せないふりをしておこう。
辺りを馬が走る音がする。ルネサスが偵察しているのだろう。ルネサスも怪我して戻ってこないといいけど。
目の端を黒いものがかすめる。
「黒アゲハ?」
昨日から数羽見かけていたが、今、右の黒目を覆う眼帯をしていない状態で見つめると何かが見えた。
大きな洋館と中心に円形にレンガの家が建っている。広場にはテントが張ってある。人々は茨を作り続ける。まるでミノムシが身体を覆って自分を守るように、人々は茨を大きな洋館を中心に巻きつけていた。その中でも目立つ桃色のドレスを着たブロンドの緩いロングヘアの少女と目があった。
「嬢ちゃん?」
シルヴァの声に我に返る。
黒アゲハはもういなくなっていた。
「辺りに進めそうなところはないな」
ルネサスが馬から降りながらやってくる。
様子がおかしい私とシルヴァに駆け寄る。
「どうしました?」
その声は緊迫感に満ちていた。安心させるように私は無理に笑いかける。
「なんでも、ないよ。ただちょっと、黒アゲハを見ていただけ」
「黒いアゲハ蝶がいたのですか?」
ルネサスは確認するように問いかけなおす。
「昨日からところどころにいたじゃん。二人も見たでしょ?」
二人は目を合わせた後、首を横に振った。
「魔法力がある嬢ちゃんだけに見えていたってことは何かあるな」
「領民からのメッセージかもしれない。少し戻ろう。リンネル様、私たち二人とリンネル様がご覧になっているものは別です。何かあればご指摘ください」
方向性が決まった二人の行動は早かった。馬に荷物を乗せ、出発の準備を整える。
もしかして、二人には見えていないのだろうか。地面から生える細い茨が足元に絡まっているのが。
見えていないのだろう。私も左のカラコンの瞳では何も見えない。
人間に出会っても平気なように右目に眼帯を付けていたが、ポケットにしまった。
どのくらい馬に乗って歩いただろう。昨日と打って変わって黒アゲハは見つけられなかった。
昼食を取っていると、茨の囲い沿いに深緑色のテントがいくつか見えた。
「あれは……グレーフルー国軍。人間ですよ」
「地図的にここはリッシャローズ領の南側か。西に面しているんだからそっちに本拠点があるってところかぁ?」
二人の間で緊張が高まるのがわかる。
会いたかった。人間。『悪魔の子孫があぁぁ!!』。この世界に来た時に出会った黄土色の兵士が脳裏をかすめる。
恐怖を振り払うように手綱をギュッと握りしめると意志をこめて言う。
「行こう!」
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