第4話 Ⅰ 凝視
「そんなにショックだったのかしら」
「何か言ったらどうだ」
数分、放心状態だった僕の耳に二人の声がやっと入ってきた。
「えっと……なんで僕は、男なのでしょうか……」
絞り出した声に二人は大なり小なりため息をつく。
「男に生まれたからでしょう。それ以外に何かありますか?それで、貴方の瞳についての回答を」
レイウスは僕の顎を片手で掴むと無理やり目を合わせた。
深紅の瞳の中には探究心という炎が燃えているように見えた。
頬にガーゼが張ってある。新しい情報に少し頭が落ち着く。
思い出せばガーウィンも襟からチラっと包帯が見えた。
「僕は……黒目です。カラーコンタクトで青にしています」
答えながらレイウスの頬にガーゼ越しに手を添える。
「……『女の顔に傷を付ける奴は許さない』。僕の親友の言葉です。早く治るといいですね」
レイウスから黒目についての質問が八つ裂きに来ると覚悟していたが、予想に反してキョトンとしている。
僕はなにか変なことを言っただろうか。
「青い瞳……治癒特化だから治せるのは当たり前ですが……。今はまだ貴方が魔法を使わない方がいいです」
レイウスは顎から手を離すとガーゼをはがした。その下に傷は無かった。
レイウスは振り返り頬をガーウィンに見せる。
目で会話したであろう二人は改めて僕に視線を向ける。
「その からーこんたくと という物を取ってください。貴方の黒目を見せてください」
ハードタイプのカラコンだからケースがほしい……けど、この人たちにそれを説明するのは骨が折れそうだ。
辺りをきょろきょろするとベッドの下に僕の鞄が置いてあった。よかった。安堵の息を吐くと鞄の中からコンタクトケースを取り出す。
「……はい、これが僕の目です」
カラコンをケースにしまうと二人を向く。
二人は何とも言い難い顔をすると頷いた。
「ガーウィン、スレイアとコフィーナに報告してきて。召喚は成功だったと」
レイウスの声は感情を殺したような声だった。
「わかった。神子殿を見てお「言われるまでもない」……」
みこ。新しく出てきた言葉に頭は混乱するばかり。
レイウスは先ほどまでの快活さは無くなり押し黙ってしまった。
数分後、遠くから騒がしい声が聞こえてきた。
「……スレイア、動ける身体じゃないでしょうに」
レイウスがため息をつくと部屋のドアが勢いよく開き、美しい男性が杖を突きながら入ってきた。
ローブであまり皮膚は見えないけど、見える範囲で手と顔の左半分を包帯で覆われ、頭にも包帯が巻かれている。
正直見るに堪えない重病人だ。
「私は行きますとも!!神子が、この世界に!!降臨された!!あぁ、神子様!その美しい瞳を拝見させていただけませんか!?」
「スレイアがまた乱心だ!!今すぐ部屋に連れ戻せ!!」
ガーウィンと数人の紺の軍服を着た人たちがスレイアという男性を押さえつけようとするが、紙一重で避けられている。
進行方向に立ち塞がっても吹き飛ばされいる。
観察している間にスレイアは僕のもとにたどり着いた。
「神子様、専属補佐官を承りましたスレイア・ウィン・ミーシェッド、御前に参上いたしました。貴方に出会えたこの日を我が国の記念日として制定する予定です。どうか、神子様の御名を教えていただけませんか」
僕の瞳を確認すると恭しく床に片膝をつき頭を垂れる。洗礼された動作に異国感を味わいながら、圧倒され彼の心配もよそに名前を呟く。
「僕は斗紀……」
「おぉ!!なんと素晴らしい御名でしょう!!トキスレート・ウィン・グランイグバード陛下!!!陛下に」
舞台俳優のように立ち上がりオーバーなリアクションで天を仰ぐスレイアはパタリと倒れ軍服を着た人たちに運ばれていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます