第3話 Ⅰ 瞳色

「青目か。見たことがない服だが、国内のどこからか召喚されたんだろ」


「幸いなことに最高神官様はご無事だ。回復を待って見解を伺おう」




 ぬくぬくと温かい。横にされているようで消毒液の香りが微かにする。


 離れていく声が聞こえなくなると目を開ける。どのくらい意識を失っていたのかわからないけど、カラコンが乾燥して目に張り付いて気持ち悪い。


 無理に欠伸をして涙を出す。病院のような場所で白いベッドの上で眠っていたらしい。




 左手に痛みを感じると包帯が巻いてあった。


 ―――包帯……?




 フラッシュバックのように地震に巻き込まれた事を思い出す。



「……鈴音?」


 慌てて上半身を起こし辺りを見渡す。


 レンガ造りの部屋で民族系の絨毯が敷いてある。


 病院……だよね?



 ここはどこだ?鈴音は?僕はどうなった?


 ふつふつと湧く疑問に徐々に不安に支配される。


 さっきの人たちは目の色を気にしていた……?


 少ない情報から推測をしようにも情報が足りな過ぎる。



「目覚めたのなら一声上げたらどうだ、召喚されし子供よ」


 低音の男性の声に顔を上げる。


 整った顔立ちの男性がすぐそばに立っていた。深緑色の瞳が品定めをするように僕を眺める。


 長身で黒い軍服を纏っている。腰には剣が下げてある。


「貴方はどなたですか」


 纏った雰囲気から庶民ではない感じがして言葉を選ぶようにゆっくり問う。


 男性は硬い表情のまま僕を観察し続ける。



「ガーウィン!神子が目覚めたというのは本当ですか!?」


 オレンジ髪の白衣を着た女性が部屋に飛び込んできた。


「レイウス……仮にもけが人の前だ、騒ぐな」


「何を悠長な!この人物が本当に神子であるか確認しなくては!」


 レイウスと呼ばれた女性は僕の上に侍り、指で瞼を押さえ瞳を至近距離で見てくる。


「ちょ、ちょっと……」


 凛とした顔立ちの20代半ば辺りのレイウスはブツブツと見解を呟いている。



「うーん、やはり何か瞳を覆っているような気がしますね。貴方、瞳に何かしているのですか?」


 レイウスはガーウィンに掴まれベッド横に下されながらも僕に聞いてくる。


 まるで元気な子犬と飼い主のようだと、少し思ってしまった。


 二人の容姿服装から、ここが元居た東京ではないことは確信していた。


 そしてここの人たちは瞳色を気にしている。


 見た通り青目である、と嘘をつくべきか、外して黒目である、と真を言うべきか頭をフル回転させた。


「嘘をついてもすぐにわかる、正直に話せ。貴様が見当違いの魔法使いだとしても殺したりはしない」


「魔法使い!?」


 突拍子もない単語につい、食いつき気味に反応してしまった。


「ま、魔法少女……とか、その顔で言いませんよね?」


 鉄仮面のような無表情なガーウィンの眉間に皺がひとつ、増えた。


「貴方、自分の性別も分からないのですか?相当重症ですね」


 思考が止まる。胸が乏しいのは元からであって、僕が性別を確認する簡単な方法は……。


 恐る恐る自分の股間に手を伸ばした。




 思わずバッと手を離す。






 ……ついてる……うそ……マジで……?



 僕、男になっているようです……。

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