第2話 Ⅰ 日常
「
終業のチャイムが鳴ると斗紀の机の前の席に座った少女はにっこりと笑う。
すでに鞄を背負っていることから授業中に帰り支度をしていたことが窺える。
「
斗紀は机に広げていた教科書やノートを鞄に詰めながら聞く。
鈴音が入っている剣道部は関東区屈指の強さを誇る。比例して練習も相当ハードなことで有名だ。
「え?あぁ。昨日やっとのことで男子剣道部の部長を倒してさ。やっと毎日部活に出なくても良いことになったんだ」
家が剣道の道場で物心つく前から父親にしごかれてきた鈴音にとって、高校の剣道部はぬるいものだったようだ。
それでも優遇されるまで2年経った。男子剣道部の部長を倒したら部活に好きな時に来てもいい、という条件だったのを聞いていたが、達成したのが昨日だったとは。
「おめでとう。3年の先輩たちも力では勝てない鈴音に手出ししてこれなそうだし、よかったじゃん」
笑いながら鞄を持って立ち上がる。すでに教室の入り口まで行っている鈴音の椅子もしまい、向かう。
二人は小さいころから互いをよく知る幼馴染だ。そして従姉妹でもある。
幼稚園からずっと同じ学校でクラスは時々違えど、ほぼ毎日顔を合わせていた。
胸元まで開いたブラウス、腰に巻いた派手なカーディガン、股下数cmのチェックの制服スカート、金髪……高校デビューと称してギャルになった二人はそれなりに楽しく青春を謳歌していた。
斗紀はショートカットの髪をワックスで立たせたボーイッシュな少女だ。腰に巻いたカーディガンは青色で鈴音と色違い。スレンダーな身体をしている。瞳は青のカラコン。
鈴音は背中の中ほどまである髪をポニーテールにしてワックスでボリュームを出している。腰に巻いたカーディガンは赤。発育の良い身体をしている。瞳は赤のカラコン。
身長は同じだが、正反対の系統のスタイルをしている二人は街で目立つ。
時折、不審な輩に絡まれるが斗紀がまず言葉巧みに追い返す。それでも絡んでくるようなら鈴音が実力行使する。
中身はどこにでもいそうな高校二年生の二人はいつも一緒だった。
「斗紀ー!これ見て、かわいいー!」
鈴音がゲームセンターのクレーンゲームの前に張り付いている。
「どれどれ?またフリフリな可愛い人形?」
隣に並ぶと斗紀が推しているゲームのキャラクターのぬいぐるみだった。
息をするように斗紀は財布を取りだしコインを入れる。
その様子に鈴音は苦笑する。こうなったら手に入れるまでクレーンゲームに張り付くだろう。
しばらく、苦戦する様子を眺めていたが鈴音は他のゲーム機も見て回ることにして店内に入っていく。
ゴゴゴゴゴゴゴ―――
遠くから地鳴りが聞こえ地面が揺れ始める。
「地震……大きくないといいな」
呟きながら鈴音は斗紀のもとに向かう。日本に住んでいれば地震など日常とまでは行かなくても茶飯事である。
「斗紀ー?」
「鈴音!」
二人の距離が3mくらいになった時だった。
地面が抜けたような浮遊感に襲われ二人は気を失った。
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