第5話 Ⅰ 境遇

「まったく、しばらく外出禁止ね」


「あの身体でまさかあそこまで動くと……思わなかった」


 罰が悪そうに言葉を濁すガーウィンは咳払いを一つすると場を仕切りなおした。



「とにかく、我々グランイグバード王国は貴様を創生の神子、そして第一代国王と認める」


 認める、つもりはないと分かる態度でガーウィンは宣言する。


「認められても困ります、僕は、探さないといけない親友がいるし、心配する家族もいます。元居たところに帰らないといけないです!魔法使いとか創生の神子とか分かりませんし!」


 やっと静かになった部屋で抗議する。


 そうだ、鈴音は無事だろうか。鈴音もこの変な所に来ているんじゃないか。このまま帰らなかったら、家族に心配させてしまう。


「説明は、追々させてもらう。だが、何も成さずに貴様を手放すつもりはない。今は怪我の療養に努めるべきだ」


 ガーウィンは威圧するように有無を言わせない口調で言葉を放つ。


「そんなの、僕に人権は無いじゃないですか。誘拐したのと同じです!」


 ガーウィンは「また来る」と言うと背を向けて部屋を出て行った。


「貴方にとっては誘拐も同然ですよ。認めます。けれど私たちもなりふり構っていられない状況です。話くらいは聞いてもらいます」


 レイウスも淡々と話すとドアに向かう。


「まだ貴方は目覚めたばかりです。まだ休養が必要です。それと、ここから抜け出そうとしても貴方が元の世界に帰る方法を知っているのは、貴方を召喚した私たちです」


 ドアが閉まる直前に「傷を治してくださり感謝します」と告げるとレイウスも出て行った。



 僕しかいなくなった部屋には大きな振り子時計の音がやけに大きく響いていた。




















―――時は少し戻り






「な、に」


 爆音で私は目を覚ました。


 砂煙が辺りを覆っている。カーディガンを羽織、袖口で砂を吸い込まないようにする。


 目に砂が入らないか窺いつつ状況を確認する。



 乾燥した土の大地と、崩れかけているいくつものレンガ造りの建物、爆発音……。


 あまりの非現実的な状況に思考が停止しそうになるが身の危険を感じ、まだ視界が悪い中レンガの壁を目指して走る。


「うぁ!?」


 何かに躓き転ぶ。振り向くと砂を少し被った暗い色の……人?


「っ大丈夫か……!?」


 思わず目を背ける。死体だった。


 初めて見る人間の死体に動揺しがむしゃらに走る。


「!!」


 視界不良の中、左から殺気を感じとっさにバックステップをする。


 私がいたであろうところに剣が突き刺さる。


「悪魔の子孫があぁぁ!!」


 黄土色の軍服の半分を赤黒く汚した男が叫びながら私に襲いかかる。


 片腕が、無い。瀕死であるにも関わらず憎しみに満ちた瞳で男は私に剣を振り下ろす。


 とっさの出来ごとに動けないでいると、誰かに後ろに引かれた。


 守られるように地面に倒れこんだ私の上に男性が覆いかぶさり、その上を別の人が飛び越えていく。


 すぐに小脇に抱えられるように持ち上げられると男性はどこかを目指して走る。


 右目のカラコンが衝撃で落ちるのがわかった。


 左右前後から聞こえる爆発音や悲鳴、怒声、発砲音、金属がぶつかる音を聞きながら私は男性に運ばれるしかなかった。

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