数ヶ月前から、我が家に謎の箱が定期的に届く。箱はどれも30センチ程度の大きさで、要するに普通の小ぶりな段ボール箱である。それが3日ごとに、配達員が届けに来るでもなく、いつの間にか玄関の前に置かれている。宛先にある住所はまぎれもなく我が家の住所で、宛名もまた私で間違いない。しかし、その内容物を記載する欄には、毎回「右足首」であるとか「右足1/10」であるとか「左手」であるとか、何やら人体の一部でも入っていそうな、そんな不気味な記載がされている。しかし、実際のところはそんなものは入っていない。箱の中には入っていたとしてもそこらのホコリ程度で、基本的に空箱なのである。しかも別に、それに関して料金が請求されるだとか、何か連絡があるだとか、そういうことは一切ない。ただ単純に、人体の一部が記載された空箱が定期的に送り付けられる、というだけの話である。

 差出人の名前や住所もなく、実際に配達員によって届けられたわけでもないので特に何か伝票などがついているわけでもない。ただ単純に、大量の空箱が送り付けられてくるというだけの話である。最初は警察にでも通報したほうがいいのかとも思ったが、実際何かが入っているわけではないし、私はそもそもにして過去に色々あって警察が嫌いなので、とりあえず何かあってはいけないと思い処理されていなそうな宛先だけが書かれた送り状を剥がし、それを封筒にまとめていた。それもそろそろ厚みが1冊分の本くらいになってきたので、処分してしまおうかとも考えている。

 しかしここまでくると、この手の込んだ長い悪戯の犯人が誰なのかが気になってしまっている。ゆえに私は、防犯カメラを設置してみたり、暇なときは玄関先を見張ってみたりしたが、カメラのほうは画面が一瞬真っ暗になってその後で箱が置かれていて、直接見張っていたほうではその決定的瞬間を拝むことはできなかった。結局かれこれ数ヶ月、ひたすらに謎の不気味な箱が届けられ、その箱の送り状を剥がして集めるだけの変人に私は成り果てていた。


 そうして、さらに数ヶ月が過ぎた。いまだに2日ごとの配達はあり、捨てるのも億劫になった空箱はかなりの数が溜まっている。送り状はそろそろハードカバーの小説くらいの厚さになり、いよいよこの長い悪戯に付き合うのも飽きてきたころである。

 そして今日は、少し様子が違っていた。普段届くのは、長辺が30センチ程度のやや小ぶりな段ボールであるが、今日届いたのはそれとは少し違う、その箱より一回り大きな箱だ。そしてさらに違うのは、箱に重さがあることである。普段であれば空箱なので段ボールの重さ以外は一切感じないのだが、今日届いたそれはずっしりと重く、それは紛れもなく何か中身が入っていることを意味していた。送り状に書かれていたパーツの名前は「頭」である。私は一瞬背筋が冷たくなったが、ここまで付き合わされたのだから、と段ボールを部屋に持ち込み、机の上で開封する。

 結果として、段ボールには何も入っていなかった。私はそれと同時に、すさまじい恐怖感に駆られたのである。なぜなら開封した直後、あれだけずっしりと重かった段ボールは、中から何も出していないにも関わらず、いつも通りの空箱の重さになったのだから。

 私はその不可解な現象に怯えながらも、あることに気づき、今まで集めてきた送り状を封筒から出して、それらを一枚ずつ、部位ごとに並べていった。書いてある名称は改めて見ても不気味だ。何分割かされた足や腕、そして胴体。事細かに記された臓器の数々。それらを確認していくと、私はようやく、この不可解な現象がなんであったのかがわかったのである。


 今日の配達で、全ての部品が揃ったのである。そしてそれらは私の知らぬ間に私の家の中で組みあがり、そして今、最後のパーツが合わさり、私の背後で、じっと息をひそめて立っているのだ。

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