「つまらないなら小説なんて書くだけ無駄ですよ」

「アドバイスをするのは全然構わないけど、ビガンゴね、お腹減っちゃってさぁ」


 そんなことをアパートへ向かう最中で言われたのだから仕方がない。

 僕は渋々ながら了承してコンビニに寄った。


「あれ?お酒は? 神様にはお酒もお供えしないとダメだぞぉ。気が利かないなぁ」

 嫌味なことを言うビガンゴ神に軽くイラっとしたけれど、これも必要経費だと自分に言い聞かせてビールやら日本酒やらも買った。

 ここでこの象の機嫌を損ねてはいけない。うまく取り入ってベストセラー作家へと導いてもらうのだから、このくらいの投資は仕方がない。


 ビガンゴ神は空飛ぶ絨毯に乗っているくせに、買い物袋の一つも持ってくれないので、お菓子とお酒がぎっしり入ったビニール袋を両手にぶら下げて歩く羽目になった。


 指にビニールがくいこんで鬱血してきた頃、ようやくオンボロアパートに帰宅した。すでに日を跨いでいた。ろくでもない神様だよ、まったく。


 木造築四十年のボロアパート。塗装の剥がれかけた外階段を登り、二つ目の扉を開けると僕の部屋がある。六畳一間のボロアパート。これでも家賃は六万もするのだから東京とはかくも恐ろしい。


 敷きっぱなしの平べったい布団にあぐらをかき、パソコンに向かう彼の後ろ姿を眺めていた。

 ポテトチップスをぽりぽり食べながら、ぽちぽちとマウスをクリックする青い象人間こと物語の神ビガンゴ。神様だというのに威厳は全然ないし、ポテチを食べた手をまた舐めてるよ。ちょっとマジでその手でマウスを触るのやめて欲しい。

 後でアルコール消毒をしよう、と心に決めた。


 ビガンゴ神は背中を丸めて、うんうんと頷いてみたりマウスから手を離し首を傾げてみたりしながら僕が書いた小説を読み進めている。初めて書いた小説だし、こうして目の前で読まれるのも初めてだから緊張する。

 図々しくて、ろくでもないけれど、それでも物語の神なのだ。きっとありがたい助言をくれるのだろう。


 期待と不安の中、ビガンゴ神が読み終わるのを待つ。スナック菓子を片手にパソコンの画面をスイスイとスクロールして読み進めるビガンゴ神は、ほんの十分ほどで十万字の作品を読み終えてしまった。


「……なるほどね」


 そう言ってビガンゴ神は腕を組んだ。さすが神様。速読だ。……本当に読んだのかな。あまりに早いので若干不安になる。


「どうでしょうか。僕も努力すれば小説家になれるでしょうか?」


 疑惑は胸の内に隠したまま、恐る恐る尋ねてみる。すると、ビガンゴ神は顔いっぱいに「?」マークを浮かべて首を傾げた。


「ん? 小説家に? なーにを寝ぼけたこと言ってるのさ。君はもう小説を書いてるじゃない。なら立派な小説家だよ」


「……いや、そうじゃなくて」


 僕が聞きたいのは小説を書くことを仕事に出来るかということだ。寝ぼけているのはあんただ。


「え? 小説を仕事に? うーん。それはビガンゴにはわからないなぁ。管轄外だしぃ」


 あっけらかんと言い放つ。


 わからない?


 管轄外?


 何を言っているのだ、この象は。あなたは物語の神様なのだろう。何をとぼけた顔をしてポテチを口に運んでいるのだ。食うのをやめろ。チュパチュパと指をなめるな。


「管轄外……って、どう言うことですか。冗談ですよね?」


「ん? 冗談は言わないよぉ。なんでこの状況でビガンゴが冗談なんか言わなきゃいけないの?」


 ちょっとマジでこの象は何を言っているのか。


「あ、ちょっと今ビガンゴのことを馬鹿にしたでしょ。ビガンゴはね、そういうの瞬時に見抜くよ?」


「だって神様だというのに、わからないとか言うから……」


「あのねぇ。人間は誰でも心の中に素敵な物語の原石を持っているんだからね。磨けば光るんだよ。誰だって努力すれば、いい物語を書くことはできるんだ。でもね、いい物語を書くことと、その小説でお金を稼げるかどうかは別問題さ」


「……なぜですか」


「まず前提として、良い小説ってのが出版されるわけでもないじゃーん。作者が有名人だったりすれば、内容なんて関係なくベストセラーになったりするけど、反対にどんなに素敵な小説でも、誰にも知られなければ売れるわけはないしね」


 言っていることは理解できる。殺人犯が刑期を終えた後に自分の犯罪を元にして小説を書いて批判を浴びながらも出版されたりもするし、単純に出来のいいものだけが出版されるわけではないだろう。

 でも、そこらへんを上手くするのが神様じゃないのか。


「あ、また馬鹿にしたでしょ。ビガンゴは温厚だから良いけど、普通の神様なら雷ドーンだよ?」


 神様はご機嫌斜めなご様子だ。


「ビガンゴは物語の神様なの。商売の神様じゃないから。良い物語を人に作らせるのは得意だけど、それをベストセラーにしたいとかって話なら、また別の問題だよー。売れるとか売れないとかって話は商売の話だからね。ビガンゴの関知する所ではないよ。もう一度言うけど、ビガンゴは商売の神様じゃないから」


 なんだか不安になってきた。この神様のアドバイスを聞いても小説家になんかなれないのではなかろうか。


「……ちなみに、ビガンゴさんがアドバイスした人って今まで何人いるんですか?」


「そんなの、いっぱいいるよー。みんな良い物語を書いてくれたよ!」


「芥川賞とか、有名な賞を取った作家もいるんでしょうね?」


「芥川賞? ……なにそれ?」


 ビガンゴ神はキョトンとした顔で首をかしげた。


「嘘!? 芥川賞も知らないんですか!?」


 思わず叫ぶ。

 芥川賞を知らないとか、嘘だろ。


「それでも本当に物語の神様なんですか!?


「あ、いやその……。し、知ってる、知ってるよ! 芥川賞でしょ! うん、有名な賞だね」


 僕が凄い形相をしていたからだろう。ビガンゴ神は慌てて取り繕ったが、後の祭りというやつだ。


「嘘だっ! 絶対知らなかったし!」


 とんだペテンだ。商業作家への道が拓けたと思ったのに、この象はとんだペテン師だったのだ。なけなしの金を出して色々と買ったと言うのに、なんという無駄骨!


「まあまあ、そんな些細なことは置いておいてさ。そんなことより君ねぇ。誤字脱字が多すぎだよぉ。あと、伏線張るのはいいけど回収しないままになっちゃっているところもあるし、前半で出した設定を忘れちゃったのか、後半で無視した描写もあったし、もっとちゃんとチェックしないと」


「話を逸らさないでくださいよ!」


 芥川賞も知らないくせに、何様だ! とんだへっぽこ神じゃないか!

 こんな奴に媚びへつらったところでベストセラー作家にはなれそうもない。てか、芥川賞を知らない奴が物語の神様なわけないだろっ!絶対に!


 急に胡散臭く見えてきた自称物語の神様はポテチを食べた手をペロペロ舐めて、偉そうに講釈を垂れている。そんな姿を見ていたら温厚な僕でもカチンとくるぞ。

 怒りに任せて立ち上がりポテチの袋を奪い取った。


「わ、わぁ!? 何をするんだよ! ビガンゴのポテチを!」


「もういいです! 芥川賞も知らない物語の神様がいますか!? あなた本当は神様でもなんでもないんじゃないですか!? 貧乏でお金がなくて、ご飯も食べられないからこうやって若者を騙くらかして、食い繋ごうとしてるんじゃないですか!?」


「ぱぱはぱおーん!! なにを失礼な!? ビガンゴは正真正銘、偉大な物語の神様だぞ!」


「じゃあなんで芥川賞も知らないんですか!?」


「知ってるって言ってるでしょ! ど忘れしてただけだよ」


「さっき知らないって言ってたでしょうが!」


「えー、ビガンゴよくわかんない。そんなこと言ったかな?」


「とぼけやがって! じゃあ他には! 他に有名な文学賞を言ってみてくださいよ!」


「え? ……賞って他にもあるの?」


「あるでしょうよ!」


「そ、そうだそうだ。あるよね、賞。うん。知ってるよもちろん。ほら、アレだよ。有名な賞があるよね芥川賞以外にも。なんだっけね、あはは。またど忘れしちゃった。ここまで出てるんだけどね。なんだっけなアレ。有名な奴があるよね。なんだっけ、ここまで出かかってるんだけどねぇ」


 喉元まで出ていると言いたげに手をあてがい、苦しい答弁をするビガンゴの野郎。

 決めた。追い出す。なんとしても。


「僕は売れる小説を書きたいんです。いくら物語の神様だとビガンゴさんが言い張っても、芥川賞も知らない人からのアドバイスは結構です! おかえりください!」


「ちょ、ちょっと待ってよぉ~。何? 急に。賞の一つや二つ知らないくらいで何よぉ~。ビガンゴは物語の神様だよ? ビガンゴの言うことを聞けば良い物語がいっぱいかけるんだよ?」


「売れるんですか? 芥川賞は取れるんですか」


「そりゃもちろん。取れる……んじゃないか? いやうん、というかさ! そうだよ、というかだよ! そもそも物語は人の心を動かすためにあるんだぞぉ。貧しい人には夢を。寂しい人には愛を。孤独な人には希望を。臆病な人には勇気を。退屈な人には刺激を。物語はね、物語はこの世界で生きていく人たちに、活力を与えるためのものなんだ。文学賞を取るとか取らないとか、売れるとか売れないとか、そんなみみっちいことで書くものじゃないぞぉ。売れる小説を書きたいなんて、馬鹿なことを言っちゃいけない。物語をそんなやましい気持ちで書いちゃいけないぞ」


 こんな時に限って、筋の通った正論みたいなことを言いやがって。腹の立つ象だ。


「売れなきゃ人の心にも届かないでしょうよ! 売れて初めて人の心に届くんですよ。売れなきゃ人の心なんか動かせないですよ! このインチキ象人間!」


「ぱ、ぱ、ぱおーーーん!! 」


 目を吊り上げて鼻を高く掲げて象野郎が雄叫びをあげた。

 人のうちで夜中に叫ぶのはやめてほしい。


「ならね! なら君に聞きますがね。この小説が売れると思う? しっちゃかめっちゃかだよ! 読者が置いてけぼりなんだよ。テーマが見えてこないんだよ。君の中ではきっとちゃんとした物語として成立しているのかもしれないけれど、読者には伝わらないんだよ」


「なにいっ!」


「売れるとか売れないとか言う前に、もっと小説としての完成度をあげないとダメだよ! 君はアイドルか? 芸能人か? それならこのくらいのレベルの作文でも出版できるかもしれない。君がイケメン俳優で小説家としてもデビューしますって言うんなら、出来なんか関係なくファンは買うだろう。でもそうじゃないでしょ! 君のファンなんか、まだ一人もいないんだ。売れるとか売れないとか言う段階じゃないよ!」


 くそ!インチキ象のくせに! 芥川賞も知らないペテン師のくせに!


 ちくしょう!


 悔しい!

 

 反射的に言い返そうとしたけど、言葉が出なかった。悔しいが言ってることはもっともだったからだ。


 書き上げたときは、とても面白い物語が書けたと思った。でも、一晩明けて、読み直すと、何が面白いのかわからなかった。日を置いて読み直して、わかりにくそうな描写は書き換えたりした。でも、直せば直すほど、頭はこんがらがって、自分でもなんだかわからなくなった。それでも、完成した時の自分の気持ちを信じて、無理やり自信を背負った。


 でも、そんなもの、なんの役にも立たない根拠のない自信だったんだ。


 やっぱり、僕の書いた小説は面白くなんかないのだ。小説家になるなんて夢のまた夢なんだ。こんな文学賞の一つも知らない、バケモノ象人間にすら、見抜かれてしまった。


 ショックだ。

 

 ビガンゴさんの言っていることは僕にもわかる。ちくしょう。丸川の小説大賞の選考委員どころか、こんな気味の悪い象にすらダメ出しされるなんて……、くそ。惨めだ。あんまりだ。


 感情が高ぶっていたせいか、目頭が熱くなる。ぐっと唇を噛んで、目を閉じた。身構えて反論を待っていたビガンゴさんだったが、僕が震えながら黙っていると、様子をうかがうように声のトーンを落とした。


「あ、いや……ご、ごめん。言い過ぎたかな。あの、えっと。ポテチ、食べる?」


 気を使っているのだろうけど使い方が下手だ。


「いえ。自分の実力がわかりました……。小説家になろうなんて、甘い考えでした」


 差し出したポテチを無視された形になったビガンゴさんは、自分の口にそれを運びながら答えた。


「だからね。君は小説家だよ。出来はともかく、一本の長編小説を書き上げたんだ。それだけでも、立派だよ。なかなかできることじゃないよ。それにさ。小説を書こうなんて思う人自体が多くないんだ。チャレンジしただけで充分に誇るべきだよ」


 ビガンゴさんが優しい声で言う。こんな胡散臭い象に慰められるなんて、情けない。


「つまらないなら小説なんて書くだけ無駄ですよ。今日、応募していた賞の一次選考が今日発表されたんです。応募していたのがこの作品です。もちろんダメでしたけど……」


「もー、君は卑屈だなぁ。これからいっぱい勉強して面白い小説を書けばいいだけの話じゃないか。さっきも言ったでしょ。人間は誰でも物語の原石を持っているんだ。それを磨くかどうか、それだけなんだよ。そして、才能というのは諦めずに継続する力のことだと、ビガンゴは思うけどなぁ」


 不覚にも涙が溢れる。今日は色々なことがあり過ぎた。お酒も飲み過ぎた。

 こんなことで涙を流すほど弱い男ではなかったはずなのに、酒のせいだ。感情が高ぶると同時に気持ち悪くなってきた。


「おいおい、どうしたんだい、顔が真っ青になっちゃってるぞ。飲みすぎだよ。会った時からへべれけだったもんなぁ。とりあえず、横になりなよ」


 肩を震わす僕の背中を象の手(前足?)が優しく撫でた。

 言われるまま、万年床に寝転がる。


「うう、僕は小説家になんてなれないんだぁ」


「大丈夫だって、ビガンゴがついてるからさぁ。ともかく休みなよぉ」


「くそぉ。こんなんじゃ佐伯さんに見損なわれるぅ。嫌だぁ」


「おいおい、泣くなよぉ~」


「へんな象人間にまで馬鹿にされて、もう絶望だー」


「ちょっと、誰が象人間だよ! ビガンゴは神様なんだぞぉ……」


 思考は撹乱され、口からこぼれ落ちる言葉は滅裂だったろう。

 うわごとのように呟いて、泥のようにそのまま、眠りに落ちたのだった。



 ☆ ★


 朝陽が眩しくて目を覚ました。

 頭がぐわんぐわんする。カーテンも閉めずに寝てしまったのか。窓から直に差し込む朝日に追い立てられ、ムカムカする胸を搔きむしり身を起こす。

 いつもと変わらぬ自分の部屋。部屋着にも着替えず寝てしまったようだ。


 記憶が途切れている。昨日はなんだったんだ。

 佐伯さんと会ったな。酒を飲みすぎたんだな。そのあとはどうしたっけ。一人で帰ってこられたのかな。財布とか落としてないよな。


 重い体を引きずって流しに行き、冷たい水をコップについで一気に飲み干した。最悪な二日酔いだ。記憶もまばらだ。顔を洗って部屋を見渡すと、食べ散らかしたスナック菓子とビールの空き缶。焼肉の段階でお腹いっぱいだったのに、家に帰ってからこんなに食べたり飲んだりしたっけな?


 そういえば、変な夢を見たな。なんとかっていう神様とこの部屋で口論する夢を。


 自分の小説に自信が持てなくて、誰かに頼りたかったからあんなヘンテコな夢を見たんだろうな。随分と泥酔してしまっていたし。


 とりあえずシャワーでも浴びようかと思ったその時であった。


 がたん、ごとん、と押入れから音がした。ねずみか?

 それにしてはやけに重そうな音だ。嫌だな。ハクビシンとかそういう類いの獣が都内にも進出していて古い家の屋根裏を寝床にしている、なんてニュースで見たこともある。


 できれば聞かなかったことにしておきたいが、押入れの襖一枚隔てた向こうの出来事だ。無視するわけにもいかない。


 恐る恐る押入れに近づく。恐る恐る襖を開けた。


「う、うわぁあ!!」驚き飛び退く。


 万年床のために布団をしまっていない押入れの上段。そこに奇妙奇天烈な生き物がいた。


「ば、バケモノ!!」


 尻餅をついて叫ぶ。


「もう、朝からうるさいなぁ。ビガンゴは夜型生活なの。もう少し寝かせてよ」


 そう言って光を嫌がって寝返りを打つ謎の象人間。二日酔いが吹き飛んだ。


 昨日の出来事は夢じゃなかったんだ。あの珍妙な象の神様(自称)は幻じゃなかったんだ。


「ビ、ビガンゴさんですか?」


 震える声で尋ねる。


「なんだよぉ。そうだよ、ビガンゴだよぉ。ビガンゴ以外にいるわけないでしょ。なんなんだよ。突然。ビガンゴだってね、怒るときは怒りますよぉ」


「な、な、なんでいるんですか?」


「はぁ? 君の家に厄介になるって決めたじゃん。物語の神様であるビガンゴが素敵な小説を書けるようにアドバイスをするって。その代わりにここに住むって昨晩決めたじゃん」


「ちょ、嘘。こ、困りますよ! 帰ってくださいよ」


「えー、今更無理だよ。君はもうビガンゴにお供え物をしちゃったもん。契約は締結されちゃってるもん。君が立派に素敵な小説を書き上げるまでは、ビガンゴはずっとそばにいるよ」


 昨日のお酒とスナック菓子のせいだ。あんなもの恵んでやらなければよかった。


「それより君、いいの? こんな時間まで家にいて。今日はバイトじゃないの? 」


 その言葉にハッとする。そうだ。今日は店長が休みの代行日で、僕が店を開けなければならないのだ。

 慌てて時間を確認する。やばい! ダッシュで行かねば遅刻してしまう。だけども、こんな怪しい象人間を家に残して出かけていいものだろうか。


「どうしたんだい。早く行かないと遅刻しちゃうんじゃないの?」


 そうだ。ともかく店を開けなければ。


「ちょ、ビガンゴさん。僕が帰ってくるまで静かにしていてくださいよ! 勝手に出歩いたりはしないでくださいよ!」


「大丈夫だよ。ビガンゴ昼間は寝てるから。ささ、早く行きなよ」


「本当にですよ! パソコンとか勝手にいじらないでくださいよ」


 僕が必死に言っているのに「はいはい」と面倒臭そうにこっちも見ずに手を振って返事をする。

 くそ! とんでもない事態になってしまった。悪態をつきながらも、時間がないので寝癖も直さずに僕は部屋を飛び出した。


「いってらー」という呑気な声を背中に受けながら。



 こうして、ビガンゴさんと僕の奇妙な共同生活は始まったのだった。

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