2018 /3/15(木)+

また、ワイパックスと言う薬を1日2錠から1錠に減らし、新しい薬を試すということ。


「ありがとうございました」



診察は終わり、私と母は待合室に出る。

待合室には誰もいなかった。

お昼過ぎの一番空いている時間帯らしい。

だが。


私「…ぁぁ…」


私の体は変調をきたしていた。

イライラする。


落ち着かない。


長椅子に座って母が会計の票を待つ間、私は立ったまま、右袖を引っ張り、もたつかせて、ぶんぶんと空中に振っていた。


イライラが止まらない。


母が、そんな私を観察していて、ふと言った。


母「もう一回ちょっと先生に話をお願いしてみる?」


私(頷く)


診察室に入ると、やはり先生は嫌がる態度も見せずに続きを認めてくださった。


私「イライラして、落ち着かないです…」


手も足も小刻みに貧乏ゆすりをし、椅子を次第に回転させる私。

言葉で説明するよりも、イライラに任せて動こうとする体を押さえ、コントロールする方に神経を使う方が正しい。

言葉が持たない私に変わって、母が待合室での言動を説明してくれた。


次第に、落ち着きのなくなる私。


私のすぐ左の壁際には、グリーンの二段式のかごがある。

いつも、診察の際には何気なくそれが視界に入っていたが、この時は違った。

先生たちが話している間に、無性に気持ちという気持ちをその籠にぶつけたくなってきて。

いや、多分。


他に手に届くもので視界に入るものが無かったからだと言える。


カゴをひっつかむと。


私「…っっ!!」


思いっきり力を込めてその場に置き直した。


がちゃん。


先生の声が後ろで聞こえてきた。


私「…はぁ…はぁ…(イライラ)」


先生「あぁ…うん、イラつくなぁ」


今だから分かるのだが、これは、統合失調症の症状だと、きっと先生は分かってたんだなぁ。

私はもだこの時、まだ、まだ。

薬の副作用だと信じていた。


記憶はそこでおしまい。


あんまり血が上って、覚えてない。


お礼いって あいさつした気はするが。



それで、その後、会計票をもらうと、母と一緒に精神科を出た。


でも、すぐ横のほとんど人通りのない廊下で、私はまだイライラを発散したかった。


落ち着かない。


落ち着かない。


イライラする。


とめどなく。


私は、廊下に誰もいないのを見回して確認した。


そうして、体を動かす。


母「ん?どうしたの」


私(苦笑)「イライラする」


そうして、袖を伸ばすと、壁を叩く。


白い精神科の横の壁を、バタバタと叩きまくった。


当然、音は響くわけだが、そんなこと構ってられるほど、私に余裕はない。


次第に手の拳でバンバンと壁を叩き始める。



すると。



先生「大丈夫ですか?」


様子を見に来た感じで先生がひょっこり精神科から顔を出した。


母(苦笑)「あぁ、すいません…何だかイライラするみたいで…」


先生(頷いて)「あぁ…しますねぇ…」(何か考えた風にして)


私(腕をバタバタと振り回す)


先生「ちょっと別の場所に行きましょうか」


それから促されて、私は母と一緒に1階に降りて行った。


なんやかんや話しながら、先生の後をついて行く。


(1階の会計広場の横の道を歩きながら)

先生「あっちにリハビリをする人の場所がありますので、そちらに行ってみましょうか」


母「あ、はい」


病院の正面玄関口の前を通って、売店の前を通り、まっすぐの通路を行くと、途中で『リハビリテーション室』という場所があった。


いつも、病院を訪れる際は前を通っていたので何気なくその場所は見たことがあったが、当然中は見たことはない。


先生「どうぞ…」


中に入ると、正面左側にリハビリを終えた人たち数名と、奥の方に何人かいた気がする。


左側にパソコンを置いた受付の係の人がいた。


先生を追って中に入ると、受付のスタッフの白い服を着たリハビリ師の男の人が迎えて先生と何言葉か話していた。


先生が私に緑色のリハビリ台のバッドに、

先生「とりあえずここ座りましょうか…」

勧めた。


私「…(頷く)」


(腰かける)だが。


イライラ。


ふいと横を見ると、ベッドの台に枕が置いてあるのが見えた。

だから。


掴むと。


私「…っ!!」


どんっ!


思いっきり足元の床に叩き付けた。


先生「あぁ…そうなるなぁ」


私「(イライラ。左手でこめかみを押さえ)すみません…」


先生「いえいえ…大丈夫ですよ…」


言っておくが、傍から見れば「何してんだ、こいつ。謝ってるくらいなんだから自分で何やってんのか分かってんだから、んなことするなよ。バカか」って思われるかもしれないが、やってる私としては、イライラの感情に翻弄されて体が言うことを効かない感じである。


あぁ、ダメだイライラする。


ここで暴れちゃだめだ。


ここリハビリするところだぞ。


分かってんのか、私は。


枕を拾う私の肩からショルダーバッグが落ちて、先生がそれに気づいて、ベッドの脇に置いてくれた。


先生「(リハビリ師の人に声をかけていた気がする)何か当たっても大丈夫なもの無いですか?」

リハビリ師の人「あぁ…(何か言っていた)」


少しして、その人と先生が何か袋に入っていた物を持ってきてくれた。


緑色のスポンジだった。


リハビリ師の人「これなら大丈夫だと思いますよ」

先生「―――…」

リハビリ師の人「―――…」


私「(イライラする)」


先生「(私に)これ投げてみてください」

私(受け取ると、左側のバインダーが下りた窓の壁に向かって投げつける)

バインダーに当たって音がした。


それから何度か投げた。


先生「そっちよりこっちの壁の方が大丈夫かも」

そちらに移動する。

そうして何度か投げるうちに先生はリハビリ師の人と私に「じゃ、ちょっと戻りますので、ここで投げてみてください」と言ってリハビリ室を後にした。


私はひたすらイライラに任せて壁にスポンジを投げまくる。


投げても投げてもイライラが収まる気配がない。


何なんだこのイライラは。


リハビリ師さんは少しの間周りに立って見ていたが、少しして受付のパソコンの方に戻って座った。


傍にいる母を見ると、見守るように私にいつも通り苦笑してくれた。


私は壁に向かってスポンジを投げる。


投げても投げてもイライラする。


その間、リハビリしていた患者さんが二人ほど出て行くのが見えた。


ぽん。


ぽん。


私は壁に投げつける。


そのうち、投げたスポンジが必死に血相を変えて投げまくる私の頭に跳ね返ってきた。


どごっ(頭に直撃)


私「…いた…」

母「…(笑)」


私「(笑)」


この時気づいたが、イライラが少し収まって、笑う余裕が戻ってきた。


患者さんが一組部屋に入ってくるのが見えた。


思わず手が止まる。

リハビリ室で、イライラに任せて乱暴に物を壁に投げている自分が場違いな気がして手が止まったのである。

すると。

リハビリ師さん「気にしない気にしない、もっと投げる」

笑顔で、いつの間にか背後に立っていた彼がそう言った。


私は促されて、投げまくった。


―――…。


それから少しして、先生が部屋に戻ってきた。


先生「どうですか?」

私(ちょっと汗かいた)「(頷く)ちょっとイライラが収まりました」

先生「あ、そうですか、良かったですね」


それから部屋を後にすることになったが、その際に、私はつい、そのスポンジを「これもっらってもいいですか?」と言ってしまった。


何を考えてんだ、私は(今考えると)。


先生「いや…それは…」

リハビリ師さん「いいですよ」

私「(有無を言わさずバッグにスポンジを入れようとする)」

先生「(リハビリ師さんに)あれ何に使うものですか?(気になったらしい)」

リハビリ師さん「あれは……患者さんの握力がどのくらい戻ったか確かめるものです(よく見るとスポンジには番号が振られている)」


私「(ぎょっ!!Σ(・□・;))」


慌ててバッグに入れようとしたスポンジを袋に戻した。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

毎日とりあえず頑張ろう。 桜佐衣 @umauma8

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ