一つ目の怪物

ジャガーと別れて、さばくに入った。さっきまでの湿気が嘘のような乾燥だ。懐かしい風の匂いがする。

僕の故郷と違い、砂丘が連なる砂漠だ。崩れる砂に足をとられて歩きにくい。

「わっ」

ズザザザッ、砂丘を滑り落ちる僕の手を、掴む手があった。

「だいじょうぶー?」

大きな耳が目立つ子だ。

「ねー、アライさん見なかった?」

「アライさん?」

「お宝を探しに行こうって言って、走ってっちゃったんだよねー」

「はあ」

「むむ?あっちでアライさんの足音が聞こえるねー。じゃあねー。あ、さばくを抜けるなら、あっちにオアシスがあるよー」

「あ、ありがとう」

ございます、を言う前に、耳の大きな子は行ってしまった。

1時間ほど歩くと、水場があった。喉の渇きと空腹で座り込み、水を啜る。ゴリラにもらったじゃぱりまんはとっくに食べてしまったから、空腹は我慢するしかない。

ぴょこぴょこ。

「わ」

青い何かが頭にカゴを載せて近づいてきた。カゴにはたくさんのじゃぱりまんが入っている。

奪うか。

ぴょこぴょこ。

青いヤツは、目の前で止まり、カゴを僕の方に向けた。

「もらって…いいの?」

恐る恐る、手を伸ばす。

両手でじゃぱりまんをサッと掴み、青いヤツから離れる。

貪り食うじゃぱりまんは、無性に美味かった。

ありがとうと言おうとして顔を上げると、青いヤツは既に姿を消していた。

一体なんだったのだろう。

ここから見下ろすところに、湖が見える。蜃気楼でなければ5kmくらいの距離だろう。喉の渇きと空腹を癒して活力を取り戻した今なら、直ぐに着けるのではないか。


砂漠が尽きるのが見えて、足は自然と早まった。

湖にいるという鳥に、早く会いたい。

暑さに、注意が散漫になっていた。

「な、なに?」

砂丘の尾根の陰から、紫の、見上げるほど大きな塊が現れた。一つ目の怪物だ。

喰われる。

恐怖に身がすくむ。動けない。ドラグノフがあれば。何か武器はないのか。

「うおーっ!」

咆哮とともに、黒い影が武器を振り下ろした。

「くっ、硬い!キンシコウ、石を探せ!」

「はい、ヒグマさん!」

「キンシコウ、奴の足を止めろ!」

二人の連係は見事なものだ。

こんな巨大な怪物にも怖じけることなく立ち向かい、倒そうとしている。

「いやあっ!」

気合いとともに薙ぎ払った武器が、怪物の弱点を捉えたようだ。

怪物は七色の光となって霧散した。

「あぶねーだろっこんなところで一人でいるなんて!」

「す、すいません」

僕はへたり込んでしまった。

「弱いやつが、出歩くな!」

「またまた、ヒグマさんは優しいですね。心配なんですよねー」

「う、うるさい!とにかく!早くこはんに行くんだな!オレは他にセルリアンがいないか偵察に行くから、キンシコウ、送ってやれ!」

「はーい!」

ヒグマの頰に、赤みがさしたように見えた。

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