おもちゃ遊び::9.あたらしいおもちゃ
気がついたら天井を見ていた。匂いは変わらずひどい。しかし幾分匂いが落ち着いているように感じられるのは、吐瀉物が乾燥したのか鼻がなれてしまったのか。
ああ、きっと疲れて寝てしまったのだ。VR装置から出て床に座って、いざ片付けようと思ったところで睡魔に負けてしまったのだろう。
そう、ひどい夢だった。ひどい夢を見ていたのだ。目が覚めても覚えているほど強烈なひどい夢を見ているのだ。まずは吐瀉物をきれいにして、端末が生きているかどうか確かめればよい。
西村は自己暗示をかけようと考えてゆくが、目の前の端末を見て頭が真っ白になった。思い込みを否定された。
白い画面の中を縦横無尽に飛び回っているそれがあった。
もはや人工知能だとかAIだとかいう言葉が思いつかない。完全にバグか何かで制御を失ったモデルだった。単なるポリゴンの集合体でしかなかった。
悲鳴は聞こえなかった。
オトメミツキだったもの。中古パーツに閉じこめられて、コールドスリープから覚醒した彼女は、佳世によってぐちゃぐちゃにされた。
「としくん、おはよう」
声が心臓を貫いた。それだけで心臓が止まってしまいそうだった。佳世の言葉に答えるどころではなかった。ただただ息を吸うのに精一杯だった。
「お仕事言ってくる前に、またとしくんに迫ろうとしていた人がいたから捕まえたよ。ほら、あの女の顔に似ているでしょう? この顔になればとしくんに近づけると思っているなんておかしいね」
スーツ姿の佳世は再び鎖を握りしめていた。ミツキの時と違うのは、もったいぶって画面の外に置くことなく、佳世と一緒にそれが登場したことだった。
見たことのない人。どこから来たのか分からない。佳世はミツキに似ていると言い張っているが、西村の目では全くの別人だった。似ていないというのに連れてこられて、これから拷問される。
拷問? いや、殺しだ。佳世が、人工知能が、人工知能を破壊するのだ。
「佳世、もうやめて、お願いだから」
「だめだよ、としくんの近くに迫ってくる連中は排除しなくちゃいけない」
そう言って佳世は赤の他人に手をかける。
知らない人がぐちゃぐちゃになってゆく。
画面の上部右で、ミツキがもみくちゃに回転している。
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