第129話 大掃除

 クリスマスが終わって、僕達はお世話になった部室の大掃除をした。

 手分けして、部室や庭を隅々まで綺麗にする。


 柏原さんに、綾駒さんに、千木良に朝比奈さんに、うらら子先生。

 冬休みになっても、こうやって一人も欠けることなくみんな部室に集まってくれて、部長としてありがたい。



 天気がいいから、八畳間にあるうらら子先生のコスプレ衣装は、全部庭に出して虫干した。

 八畳間に座っている汐留み冬さんの球体関節人形も、全身を丁寧に拭いて、服を着替えさせた。

 千木良のコンピュータールームは、機器の配線を全部抜いて、丁寧に掃除する。

 隙間や床に溜まっているキャベツ太郎の粉を掃き出した。

 玄関の柏原さんの工具も整理して、油汚れも完璧に拭き取る。

 居間にある綾駒さんのフィギュアは、一体一体、埃を払って並べ直した。

 普段から朝比奈さんが綺麗に使っている台所は、そんなに汚れてなくて、換気扇を掃除くらいで済んだ。

 風呂やトイレを磨き上げる。


 掃除は香も手伝ってくれて、見よう見まねでほうきを使ったり、雑巾がけしたりしていた。


 4月に初めてここに来たときはお化け屋敷みたいだったのが、今はもう、ここがホームで、第二の実家みたいになっているのが感慨かんがい深い。



 それにしても、香が僕にプレゼントしてくれたこの、抱っこひもって、なんて素晴らしいんだろう(サンタクロースになった僕が買った物ではあるけれど)。


 こうやって、千木良を抱っこしながら、なんでも出来る。


 両手が空いているから、千木良を抱っこしながら窓ガラスを拭いたり、千木良を抱っこしながら庭を掃いたり、千木良を抱っこしながら電球を交換したり、千木良を抱っこしながらトイレ掃除したり、自由に出来た。


 両手が空いてるから、千木良を抱っこしながら脇腹をくすぐったりすることも出来るし、頭をなでなでしたり、ほっぺたすりすりすることも出来る。

 千木良を抱っこしながら、疲れたと言って休んでいるうらら子先生の肩を揉んだり、朝比奈さんと綾駒さんに両側から挟まれたり、柏原さんの足をマッサージしたりも出来る。


 こうやって抱いてると、千木良が温かいから、カイロ代わりにもなった。


 この抱っこ紐を発明した人には、ノーベル賞をあげるべきだと思う。



「ちょっとあんた、いい加減にしてよね。なんで私が、こうやってあんたにずっと引っ付いてないといけないのよ」

 ジト目の千木良が言った。

 向かい合って抱っこ紐で繋がってるから、千木良の顔が僕の顔のすぐ下にある。

 イチゴシロップみたいな千木良の匂いが立ち上って、鼻を直撃した。


「いやだって、せっかく香が僕のためにこの抱っこ紐をサンタさんに頼んでくれたんだから、それを有効に使ってるところを見せないと、香ががっかりするじゃないか」

 香の方を見ると、彼女はこっちに向けて微笑んでいた。

 僕は香に向けて、これいい感じだよ、って親指を立てる。


 そう、僕だって、本当はこんなふうに千木良を抱っこしてるのは、重いし、辛いんだけど、香のためだから仕方がないんだ。

 本当はすぐにでも離れたいんだけど、仕方なく、こうして抱っこ紐で千木良を抱っこしている。

 そして、ほっぺたすりすりする。

 本当に仕方なくなんだ。



 そうやって、半日かけてぴかぴかになった部室の玄関に、正月のお飾りを飾った。

 柏原さんが林の中から竹を切ってきて、門松も飾る。

 そうしたら、一気に年末年始感が出た。


 これで、来年また新たな気持ちで活動できる。



「それで、あなた達、年末年始はどうするの?」

 お飾りを飾った玄関の前で、うらら子先生が訊いた。


「僕は、特に用事もないので、時々ここに香ちゃんの様子を見に来ようと思います」

 僕は最初に言う。

 僕になんの用事もないのはみんな分かってるだろうから、今さらカッコつけてもしょうがない。

 時々、って言ったけど、本当は毎日来ることになると思う。


「私は、お爺ちゃんとお婆ちゃんのところへ行って、家族で過ごすかな」

 朝比奈さんが言った。

「私も、親戚のところを回ったり、家族と一緒かな」

 綾駒さんが言う。


「僕は、元旦のマラソン大会に出るから、そのトレーニングだな」

 柏原さんが言った(なぜ、元旦まで走るのか小一時間……)。


「私は、恒例の家族旅行で海外に……」

 千木良が言いかけたところで、

「まあ、ちょっとみんな、待ちなさい」

 うらら子先生が、その発言をさえぎった。


「みんな、腹を割って話しましょう」

 先生がそう言って、女子達を集める。

 女子達は円陣を組むようにして、うらら子先生の周りに集まった。


「それぞれ、予定があると言いながら、どうせ、ここに来るんでしょ? 一人寂しく部室に来るが気になって、結局来ちゃうんでしょ? あるいは、その誰かさんが何か騒動を起こして、ここに来る羽目になるんだよ。そうだよね」

 先生が訊いて、女子達が頷く。


「だから、先生はこの部室に常駐するわ。年末年始はここにいるから、みんな、いつでも来なさい」

 先生が言って、女子達が顔を見合わせた。


「先生も、そのたびに車を出したり、あちこち走り回ったりするのは面倒だし、年末年始くらいは運転のことを考えずに気兼ねなくお酒も飲みたいからそうするの。誰かさんも、ここに来るって言ってるし、それなら、間違いないでしょ」

 先生が言って、女子達が頷く。


 誰だよその、迷惑なって。


「やったー! 先生がいてくれるなら、香、うれしー!」

 香が、うらら子先生に抱きついた。


「そのつもりで車に荷物積んできたから、みんな、下ろすの手伝って」

 先生が言って、女子達と駐車場に向かう。


「ほら、西脇君も手伝って」

 先生が呼んだ。

「はい!」

 僕は急いでみんなについていく。


 なんだか、楽しそうな年末年始になりそうな気がする。

 結局、みんなここに集まってきそうだ。

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