第119話 結果発表

 ミス是清学園コンテストの投票が始まった。

 講堂に入ったときに実行委員からもらった投票用紙の、候補の名前を○で囲んで、ステージ下の投票箱に入れる。


 僕はもちろん、香(朝比奈さん)に○を付けて投票した。


 色々とやらかした千木良に入れてやろうとも思ったけど、まあ、散々な結果になったら、千木良も少しは反省するだろうから、前もって決めていた通りに、香に入れる。


 講堂を埋めた全員が投票するには、かなりの時間がかかった。

 僕も、投票箱の前の長い列に並んだ。


 投票が終わると、実行委員がすぐに投票箱を回収して、開票作業に移る。


 結果を待つあいだ、講堂の中はざわざわしていた。

 新しいミス是清学園グランプリの誕生を待って、立ち去る人はほとんどいない。



「いよいよね。みんな準備はいい?」

 イヤフォンから、うらら子先生の声が聞こえた。

「ちゃんと、段取りは覚えるわね。私達の、晴れ舞台よ」

 先生が言って、みんなの「はい」っていう力強い返事が聞こえる。


 僕も、いつステージに上がってもいいように身構えた。




「長らくお待たせしました。これより、今年度のミス是清学園コンテスト、投票結果を発表します!」

 司会のアナウンスが聞こえて、出場者がステージに戻ってきた。


 宮沢先輩、近藤さん、秋月さん、香、千木良の順番にステージに並ぶ。

 観客が、みんなを拍手と歓声で迎えた。

 参加者は晴れ晴れとした顔でそれに応える。


「投票の結果、その票差はごくわずかでした。ステージに上がった皆さんには、どなたにもグランプリになる可能性があったことを、付け加えておきます」

 発表の前に、司会の三年生の先輩がそんなふうに言った。


 香(朝比奈さん)の圧勝だと思ったんだけど、以外と差がつかなかったんだろうか。



「それでは、第五位から発表します」

 司会者が、ステージの端から緊張の面持ちで言って客席を見渡す。

 いきなり千木良の名前が呼ばれたら慰めてやろうと、僕は千木良に注目した。


「第五位…………第五位は、近藤さんです」

 司会者が言って、近藤さんが一歩前に出た。

 客席からの拍手と声援に、近藤さんは手を挙げて答える。

 ちょっと舌を出して、残念、みたいな顔をした近藤さんが可愛い。


 とにかく、千木良は最下位を逃れたみたいだ。

 ステージの上の千木良が、一瞬、良かった、って感じで表情を緩めたのに気付いた。



「では、次に第四位を発表します…………第四位は、秋月さんです!」

 司会者が言って、和服姿の秋月さんが、深々と頭を下げる。

 長い礼から顔を上げた秋月さんの目には、涙が溜まっていた。

 「がんばれ!」って、客席から声が飛ぶ。


 これで千木良は三位以内ってことだ。

 これは、あとで部室に帰ったら、抱きしめてほっぺたすりすりしてあげる案件だと思う。

 千木良、よくやった。



「それではいよいよ、第三位の発表です。第三位は…………」

 司会者がそこでためを作った。



「第三位は、宮沢さんです!」


 宮沢先輩が、両手を挙げて前に出る。

 客席からの拍手に、先輩は笑顔で答えた。

 けれどそこには、やっぱり、くやしさもにじみ出ている。

 意外だって、客席も多少ざわざわした。


 あれ?

 ってことは、千木良、準グランプリか。


 あのスピーチに、歌と歯磨きのパフォーマンスが、受けたってことだろうか?

 そうだとすると、いくらなんでも我が校の男子、ロリコン過ぎないだろうか?

 あれにハートを打ち抜かれるなんて、本当になげかわしい。

 将来が心配だ。


 でも、ちょっと待てよ、そういえば千木良が準グランプリってことは、後夜祭で僕は、千木良とダンスを踊ることになるのだ。

 お互い準グランプリ同士だから、二人で組むことになる。


 そうか、千木良とダンスかぁ…………


 それは確かに、千木良はちっちゃいし、ほっぺたぷにぷにだし、抱っこすると抱き心地がいいし、くんかくんかすると、イチゴシロップみたいな良い匂いがするし、つるぺただし、生意気なくせに、ちょっと本気で抱きしめると、ふにゃーってなるし、くまのパンツ穿いてるし、一緒にダンスすることもやぶさかではないんだけど、相手は千木良かぁ。


 まあ、他の候補者よりも、僕は千木良のこと抱き慣れてるし、千木良だって抱き慣れた僕のほうがいいだろうから、この結果は、妥当だとうなところだろう。


 ああでも、千木良とダンスか。


 ホントに、参ったなぁ。


 そうか、千木良とダンスか…………


 僕がそんなこと考えてたら、隣の席の女子に、変な目で見られた。

 もしかして、顔がニヤけてただろうか?




「それでは、みなさん。最後になりました。以下、準グランプリとグランプリは、同時に発表します」

 司会者が言って、会場が「うおおお」って一層盛り上がる。


 準グランプリが決まれば、グランプリも分かるんだから、このほうがいいだろう。


「残ったお二人、ステージの中央にお願いします」

 司会者の言葉に、香と千木良がステージ中央に歩み寄った。

 千木良の方が小さいから、見掛けは姉と幼い妹みたいなんだけど、実際は香のAIを設計した千木良の方が創造主で、香が作られた方だ。



「発表します。今年度、ミス是清学園コンテスト、準グランプリは…………」

 司会がそこまで言って、ドラムロールが始まった。


 ステージ上では、香と千木良にスポットライトが当てられて、二人の姿が丸いライトの中に浮かび上がる。


 緊張した面持ちの香と、なんか落ち着かない様子の千木良。

 制服姿の香と、アイスブルーのドレスの千木良。


「みん……準備……て……」

 周りの歓声が大きくて、イヤフォンからの先生の声がよく聞き取れない。




「発表します。ミス是清学園コンテスト、準グランプリは、朝比奈花圃さん。そして、グランプリは、千木良里緒奈さんです!」


 僕は、司会者が何を言っているのか、理解出来なかった。

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