第7話 異変

一階で外に面した扉に一番近いERへ小走りに向かうと、鉄のような生臭いような、独特な匂いが鼻につく。

開腹手術していてもここまでは匂わないのにこんなにも鼻につくということはそれだけ多くの血が、命が流れ落ちているのだろうと、DとAは足を早めた。




「遅くなった、患者は何人?」

「わかりません!トリアージを進めてますが、今も増加してる模様です!」


走り込んだERは悪夢のような状態で、生きているのか死んでいるのかさえわからない者が廊下にまで溢れかえっていた。

そんな状況でDに問われ返事をした看護師の顔は蒼白で、中堅の部類に入る彼女もさすがに焦りの色を隠せていなかった。


「赤タグはすぐこっちに運んで、緑はロビーに誘導。あと、病棟の先生にも連絡して、手が足りないわ。」

「ここだけじゃ場所足りないから手術室準備でき次第そっちにも運んで!」


人が混雑しすぎて治療にも移れないと、Aが珍しく舌打ちをする。苛立ちながらもその手技には一切の乱れがないのは見事だとDは思った。






どんなに絶望的な人数でも一人でも多く救うための医療が提供されようとするなか、漸く動き始めた処置室で、Dが三人目の患者の縫合を終えたとき“それ”は起こった。


「よし、この人はこのまま様子見てバイタルの変動あったら病棟の医師か私に連絡するように伝えてっ!?」


大きな振動と共に、ガシャンとガラスが崩れ落ちる音と、怒号、悲鳴。それらは全て患者が運ばれてくる入り口方向からしていた。


「なに!?今のは……まさかっ。」


Dが素早く刀を握り入り口に駆け出すと同時に一瞬止まっていた処置室の時間も動き出す。処置を続けるものもいれば、不安そうに辺りを見回すものもいた。だがその場をどう過ごそうと、そこにいる意識あるもの全員があるひとつの予測を立て、それが正しいことをすぐ知ることになった。

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