第5話 夢

人生が長くなればなるほど、とある時間は刹那的なものになる。

だけど、DがCに想い焦がれて狂いかけていたあの期間を消してしまうことはできないと、Dは自覚していた。


酒に酔ったふりをして抱かれた夜も、溢れた好きという言葉を否定されたときも、親友の夫となったときも、親友が身籠ったときでさえ、DはCを愛していた。

だが、それだけだった。

最初こそ、報われたいという気持ちは合ったかもしれない。しかし、身体だけの関係のあとに“好みじゃないし、遊びだろ?”と言われたとき、Dのなかでなにかが壊れる音がした。

狂ってしまう前に壊れたせいで、報われたいというよりも、いつか誰かの手で終わりになればいいと終焉を願うばかりになっていた。


だからだろうか、Dはいつも願望を写すという夢でCに殺される自分の姿をみるのだった。


「許さない、許さない、許さない、許さない―。」


絞められている自分の顔も絞めているCの顔もDには見えない。そこにはまるでぽっかり穴が開いたように黒く影がまとわりついている。

しかし、響く声がそれがCであるとDに教えてくるし、絞められた喉から漏れる呻き声が嫌というほど聞いた自分の声であるとDは感じる。


「死ね。」


ぱたり、と、虚空をさ迷っていた自分の手が地面に落ちて死する瞬間を看取ったあとでいつもなら夢から覚める。しかし、今日は続きがあるようだ。

スルりと、首元から手を外したCはゆっくりとしていた手袋を外すと、左手の薬指に輝くリングにキスをする。


「今、帰るからな。」


Dにはいつも横から見ていた顔がそこは黒く塗りつぶされているはずなのに、見えた気がした。













「おはよう、いきなり倒れて、随分魘されてたが気分はどうだ?」


目を覚ますとAが心配そうに顔を覗かせていた。

倒れたということは自覚があったため、それほど驚かなかったが、ERをAとD二人一緒に長く抜けていて、大丈夫なのかということが心配になった。


「問題ないよ。ところで私どれくらい寝てたのかしら……仕事大丈夫?」

「目を覚ました途端それか……全く。疲れはててるのに訓練してぶっ倒れたんだからもう少し休めよ。落ちてたのは三時間くらいだし今は落ち着いてるからオンコールさえなければ俺たちは休みだ。」


Aはそういいながら、少し困ったような顔をしてため息をついた。

ふと、いつもなら口に出さないような事が疲れがピークに達していたからなのか口から滑り落ちた。


「最近夢見が悪いの。ね、一緒に寝てくれない?」

「……まるで子どもみたいなことをいうんだな。」


Aの大きな手がDの髪をすく。

そのしぐさがあまりにも子どもにする様なので、あやされている様だとDは思った。


「ほら、そっち詰めろ。」

「ふふ、Aはお父さんみたいね?」

「せめて、お兄さんにしてくれよ……全く。」


Aの心臓の音が聞こえる。

それだけでDは安心できる気がした。

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