第3話夜
「あー、もー、動きたくない。そして私の働きを誉めてほしい。」
「同感だ。」
あれから増えた急患を捌き、一息つけるまで落ち着いたのは夜になってからだった。
「おー、えらいえらい。ほれ、珈琲をあげよう。」
「お!ありがとな、C。」
「ありがとう。Uは仮眠室よ、まだ起きてるだろうから顔、出してあげなさいよ。」
「や、やめとく。会ったら寝かせられなくなるし?」
「「最低。」」
外の巡回から帰って来たCと軽口が叩けるくらいに緩やかな時間はいつぶりだろうかと、思う。口に出すと急患が出かねないから言いはしないけれども。
「まあまあ。外はどうだった?」
「相変わらず。物好きな一般市民とかがまだビクビクしながら生きてるよ。」
病院の自衛部隊の仕事は大きく2つに分かれる。
1つ目は内番で、機械人が中に侵入しそうなとき、侵入してきてしまったときに対応する。
2つ目は外番で病院外の巡回と、物資の移動、瓦礫などの撤去などを行う。
そしてそれらの仕事はローテーションで行われ、内番、外番、休みというように組まれている。
まあ、内番に関しては中にはいられた事案は今までなく、実質内番が休みで休みがトレーニングだと言うのが自衛部隊メンバーの話だった。
「Dは最近ちゃんと訓練してる?そっちの腕、鈍ったんじゃねーの?」
「そうね、本当にそんな暇ないから、そっち関係の腕は鈍ってそう。だからちゃんと守ってね?本業さん。」
「えー、Dは俺よりUのそばにいるんだから、俺が行けないときUを守ってよ。」
私には医者としての責務の他に自衛要員としての責務も課せられている、特別要員だった。ただ、昔とった杵柄のようなもので2、3年軍医に所属してたことが幸いしただけなのだが。
そんな立場だからこそ、そして、Uの親友だからこそ、お願い、なんて言われなくても護るよ、と、言えない私の醜さをCは見抜いているのだろうか。
自分の中にある醜い怪物のような感情を自覚する度にみんなといることに居心地の悪さを感じるようになったのはいつからだろうと考えると、飲み込んだ珈琲の後味がいつもより苦く感じた。
「Dはすごいよな。医者としてだけじゃなくて、自衛要員としても動けるって。もしこの病院からでていくときがあったら、きっとDが一番生き抜けると思うよ。」
「そんなことないよ。」
UにとってCような拠り所も、CにとってUのような守るべきものも、Aのような人を救うという信念も、私には足りない。
私には死にたいという気持ちこそないけれど、生きていたいという気持ちさえ、欠如していた。
「あるだろ。そんなに闘う腕鈍ったの気にしてんなら相手するぜ?」
「アンタは明日休みかもしれないけど、私は、」
私は、明日も仕事だと断ろうとした口を噤ぎ、変わりに少し息を吸い直して私はCにこう返した。
「じゃあ、ちょっとだけ、お願いしようかしら?」
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