19話 不屈の戦車
シュウとケイトが部屋を出た後、悠依崎は独り思考を巡らせる。
「ヒナタ・シュウ、僕は残念だよ……もし君が
理由は勿論ある。
それは戦闘スタイルだ。
マナを吸収することとは、自然界に溢れる周りの魔力を取り込むこと。
磁石のように引き付け、スポンジのように吸収する。
つまり、移動してしまうと集めた魔力を置き去りにしてしまうのだ。
速さを基本とし、動き回る
精々、移動先の僅かなマナを得るのが道理だろう。
「それを乗り越えれば、飛躍的に成長するんだろうけれど」
扉をノックする音が聞こえた。
誰も呼んだ覚えはない、突然の来訪だ。
「入っていいぜ」
「失礼します!」
入ってきたのは糾合騎士団の団員。
背筋を正し、敬礼する。
「報告させていただきます! 『
「……一大事だね、それが真実ならだけれど」
「先ほどグランハから連絡がありました」
「ふぅん……犯人の手掛かりはあるのかい?」
この質問に対し団員は、悔しそうな表情を浮かべる。
「それが……
「まあ誇り高い奴らの事だ、あり得ない話じゃあない」
「いかがしますか?」
「シュプレムにいるナンバーズ……幹部クラスを集めてくれたまえ、ルチオンも忘れずに」
「はっ!」
会議室へ一番初めに到着したのはシエル。
シエル自身も幹部クラスだが、招集に応じた訳ではない。
模擬戦の協力の礼を言うために、悠依崎を探していたのだ。
悠依崎が座っているのを見つけると、小走りで近付く。
「悠依崎さん、今日はお忙しい中ありがとね」
「わはは、なんだったらハグくらいしてくれてもいいんだぜ?」
「それはちょっと」
本気で嫌がるシエルに悠依崎は、嬉しそうに微笑む。
「冗談、僕としても可愛い幼女と少女を眺められたから満足だぜ。あぁーいいよねぇ、可愛い女の子はどの子も最高だけれど、特に幼女。きっと足の裏も小っちゃくて可愛いんだろうぜ」
「うわぁ……」
この人がNo.2だなんて糾合騎士団が心配だ。
そんなシエルに気付かず悠依崎は続ける。
「しかも猫耳幼女って、最強キャラかよ、さらには兎耳。しかも巨乳だってんだから完璧だ。ケイトちゃんにバニー服着せたら天然兎耳バニーだぜ? でも注目するのはそこじゃない、やはり太ももが至高なんだぜ、兎獣人のむちむちした太もも……たまらん」
「親父っぽーい、悠依崎さんも女性なんだから、ちゃんと男性に興味持ってよ」
この正論に対し、悠依崎結、二十六歳、女性。
議論するまでもない! と高々に語る。
「男なんてむさ苦しいだけだ、美少女最強。可愛いは正義、エロいは偉大だぜ?」
ため息を吐くシエル。
会話が終わるのを見計らったかのように、続々と幹部クラスが集合してくる。
さらには魔石により映し出される、糾合騎士団本部の会議室と幹部達。
ここでシエルはただ事ではない雰囲気を感じ、何かが起こったことを察して席に着く。
悠依崎は、全員が揃ったことを確認して切り出す。
「全員集まったようだ……これから話すことは、無駄な混乱を起こさない為に他言無用で頼むぜ?」
――――――――――――――――――――――――――
翌日早朝、シュウは荷物をバックパックへせっせと詰めていた。
元は、シュプレムへはただの寄り道で、本来の目的はルチオンだ。
旅路を急がねばならない。
荷物をまとめると、シュウとケイトは部屋を出る。
リビングには、
シエルが照れながら手を差し出してきた。
「入団おめでとう、これからよろしくねー」
「ああ、よろしく」
握手を交わす二人。
シエルとは一戦交えた仲だ。
これからも、上手くやっていけるとシュウは感じていた。
「ケイトちゃんも早く腕が治るといいね」
「はい、ありがとうございます」
ケイトには、握手の代わりに熱い抱擁。
昨日の言葉を思い出してシュウは言う。
「ああそうだ、悠依崎に勧められたんだが、マナを吸収する方法を教えてくれ」
シエルは驚きの表情を見せる。
「えっ!? マナを使わずに最上級魔法とか使ってたの!? ――もう、シュウちゃんには敵わないなぁ……分かった、教えてあげるよー」
「よろしく頼む」
頷いて、シエルは説明を始める。
「まず、マナとエナは同じモノなの。世界の魔力と自分の魔力。そのことを踏まえて、目を瞑って……自分の心、魂に意識を向けて」
言われたとおりに、目を瞑り魂に意識を向けてみる。
感じるのは生命の息吹が鼓動する気配。
小さな心臓が脈打つ音とは別のモノ。
魂の鼓動。
ここまでは既に、玉座の間にいた時に解析済み。
魂とは、生命力であり体力であり魔力。
衰退を除き、運動や受傷、魔力行使で疲労し休息で回復する。
魂がすり減り、残量が無くなると自分の存在が消え、死を迎えるのだ。
「自分の魂を感じたら、次は世界の魂に意識を向けて」
自分の魂を片隅に意識したまま、周りへと集中してみた。
空中にぼんやりと四つの魔力の塊があるのが分かる。
これは……シエルとケイト、
さらに集中する。
単体ではなく、世界を意識しろ。
そうすると、四人の魔力より遥かに薄く、儚い魔力が充満していることに気付く。
「感知した、これが世界の魂か」
「……オッケー、それを引き寄せて、取り込んで」
引き寄せて、取り込む?
どうやって?
呼吸をするように?
腕でかき集めるように?
違う、要はイメージだ。
引き寄せて取り込むイメージ。
「……ううむ」
「どう? できた?」
「なんとか下級魔法の一割程度回収できた」
「初めてにしては上々だと思う」
目を開けると、シエルが微笑む。
シエルの視線を追うと、ケイトが目を瞑り唸っていた。
「なんだケイトもやっていたのか」
「プハァー……はい、私にはできそうもないですね……」
集中を解いて結果に落ち込むケイト。
シエルが擁護する。
「あはは、普通はいきなりできる方が凄いんだよー。気にしなくていいよ」
そして言葉を続ける。
「この技術は習得できると便利だよー、魔力補給から体力回復、索敵もできるからね。シエルは魔力補給と探知しかできないけど」
「ちなみに俺達はできない!」
「できない!」
えっへん、となぜか胸を張る
僅かな静寂、シュウが口を重そうに開く。
「それでは……色々世話になったな」
「もう行っちゃうの? 寂しいなぁ、もうちょっと休んでいけばいいのにー」
「いつまでも長居できませんので」
「そっかー……もし何かあったらシエルを頼ってね! 絶対に助けるから!」
「はい! ありがとうございます!」
別れを惜しむ二人に、騒がしく
「寂しくなるけど、お前らも頑張ってんだよな! 頑張れよ!」
「頑張れ!」
「それじゃあ、出口まで送るねー」
シエル達と一緒に、シュプレムの出入口まで足を運ぶ。
ほんの数日だけだったが、とても長く感じる。
機会があればまた来てみたいものだ、と密かに決心するシュウであった。
心配そうな表情をしたシエルが、二人へ問いかける。
「真っすぐルチオンに行くんだよね?」
「はい? そうですけど、どうかしましたか?」
「う、ううん! なんでもないよ! 気を付けて!」
『
真っすぐ向かうなら関係ない話だが、もしもということもあるかも知れない。
シエルは嫌な予感がしていた。
悪い予感を振り払うように、シエルは気丈に振る舞う。
「バイバイ!」
「「バイバイ!」」
手を振るシエル達。
ケイトも手を振って答える。
シエル達は、シュウ達が見えなくなるまで手を振っていた。
アイちゃん調査レポート(要するにステータスと人物紹介)
ヒナタ・シュウ
筋力 ■■□□□□ E
耐久力 ■□□□□□ F
身体能力 ■■■□□□ D
魔力量 ■■■■■■ A
魔力制御 ■■■■■□ B
幸運 ■□□□□□ F
獣人種猫獣人族
糾合騎士団所属『白銀の幻日』
シエルとの模擬戦に勝利し、糾合騎士団への入隊を認められた。
幹部クラスに勝利したこともあり、ナンバーは授けられなかったが称号を授与された。
無尽蔵のエナを持つが何か理由があるようだ……
シエル・カルマン
筋力 ■□□□□□ F
耐久力 ■□□□□□ F
身体能力 ■■□□□□ E
魔力量 ■■■■■□ B
魔力制御 ■■■■■□ B
幸運 ■■■■□□ C
森精種
糾合騎士団No.7『挟撃の魔女』
炎の魔法を操る森精種。
森精種の中でも貴重な平行詠唱を操る。
二地点を結びつけるように拘束する、変異魔法『
破壊力の高い魔法を使え、変異魔法で相手の動きを封じることができる。
変異魔法は個人戦のバランスを取っているが消耗を早める、本来であれば固定砲台として攻撃に特化した時にシエル自身の本領を発揮する。
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