15話 騎士団勧誘

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「美味い!」


 森精種エルフの街、シュプレム。

 街を縦断するメインストリートには、店々が並び、服屋、パン屋、肉屋、道具屋と大体の店が揃っている。

 シュウが座っているベンチは、メインストリートの脇にあった。

 大量の食材をベンチいっぱいに広げ貪り食う。

 そこにはシエルとケイトの姿はない。

 彼女らは食事を済ませると、『食べ終わったら合流するように』と言い残して、未だ食事中のシュウを置いて店へ入って行ってしまった。

 入った店はシュウが座るベンチのすぐ後ろ、街一番の大きさの服屋である。


「ふぅ、ごちそうさま」


 大量の食事を平らげたシュウは一息吐き、ゴミを捨ててケイト達が待つ服屋へと足を踏み入れる。


 巨大で天井の高い店内は、部屋で区切られておらず所狭しと服が並べられ、天井から吊らされ、どこを見ても服! 服! 服! と言った感じだ。

 この中から、ケイトとシエルを探し出すのは、普通ならば大変骨が折れるがシュウは違う。


「アイ」

「【起動】『衛星瞳サテライト・アイ』」


 アイの変異魔法ストレンジアーツ衛星瞳サテライト・アイ』により、天井付近から店内を見回す。

 すると、すぐにもはしゃぐシエルと、ぐったりしたケイトを発見できた。

 場所は更衣室前、一直線に彼女らと合流する。

 ケイトは、移動中に更衣室へと入ったようだ。


「なにしてるんだ?」

「ケイトちゃんの服を選んでるのー、ケイトちゃんせっかく可愛いのに、オーバーオールだなんて残念だよ!」


 オーバーオールもなかなかいいと思うんだが。


「それに……腕が無いからねー、できるだけ気にしなくて済む服装にしてあげたくて」

「……ああ、そうだな、ケイトが気にしなくてもどうしても周りの視線が向けられてしまう」

「うん、あ、ご飯美味しかったー?」


 思い出したかのように感想を聞くシエル。

 重くなりそうな空気を変えたかったのだろう。

 シュウはその流れに乗ることにした。


「ああ、美味かった、済まないな奢ってもらって」

「ううん、うちのヒトミさんとナナミさんが迷惑かけちゃったからねー、お詫びになるとは思ってないけどそれくらいさせてよ」


 街に買い物に来たオレ達だが、実際のところオレ達は金を一銭も払っていない。

 シエルが、ヒトミとナナミの窃盗のお詫びに、これくらいはさせて欲しいと申し出たのだ。

 ケイトは断ったのだが、シエルが上手いこと言い籠めたのだった。

 具体的には……


「いえいえ! 自分の買い物くらい自分のお金でしますんで!」

「でも、シュプレムの物価はアルカに比べると高いよ?」

「うぅ……だ、大丈夫です!」

「まあまあ、ケイトちゃんを着せ替え人形にしたいからシエルが払うよ、これはシエルの買い物、ならいいでしょ?」

「た、確かに……」


 と、言ったところである。

 もっと反論できたと思うが、ケイトが諦めた以上、当の被害者であるオレは異論が無いので、結果シエルが金を払うこととなった。

 ケイトを着せ替え人形にする、とシエルが言った後、ぼそっとシュウちゃんもね、と聞こえた気がしたがきっと気のせいだろう。

 ああ、きっと気のせいだ。


「ケイトちゃんまだー?」

「き、着替えました」


 個室のカーテンがゆっくりと開く、そこからケイトはひょこりと頭だけを出して、更衣室から出てこようとしない。


「早く出てきてよー」

「シュウ、来たんですね! 良かった、助け……」

「えいっ!」


 ケイトが、助けを求めたらしい言葉を発し終わる前に、シエルはカーテンを勢いよく開け放つ。


「ちょっと待っ!」


 全身をさらけ出されたケイトの服装は白のワンピースだった。

 麦わら帽子が似合いそうなその恰好は、生地は薄く、ケイトの巨大な胸部を強調している。

 思わず目線が吸い込まれるが、なんとか視線を逸らす。


「可愛い~」

「そうですかじゃあこれで決定ですね早く買いましょう」


 シエルの誉め言葉に、早口で購入を促すケイト。


「え~、まだだよ、次はこれね」


 シエルは意見を無視し、大量の衣服を押し付けるように渡して、ケイトを更衣室に押し込む。

 そこからは、シエルの暴走は留まることを知らなかった。

 まずは、フリフリのドレス。


「いいよいいよー! 可愛い!」

「いいな」

「も、もう……」

「次!」


 続いて、チャイナ服。


「キャー! いいねー! 次ー!」

「なぜあるんだ……」


 ブルマ。


「なんだか負けた気がする~、次!」

「なぜある……」


 スクール水着。


「なんだかとてもいかがわしい! 次!」

「だから、なぜある!」


 踊り子の衣装、バニーガール、セーラー服、etc、etc……。

 ケイトは、それこそ着せ替え人形の如く、様々なタイプの服を着せられていて、つまりは、シエルは吟味して服を決めるのだろうと思っていたが、いざ服が決まった時は即決だった。


 ――ぐったりしたケイトが、諦めて素直にカーテンを開ける。


「……」

「こ、これは」


 黙るシエルと、驚愕のシュウ。

 ケイトは不思議に思い恐る恐る、二人に問う。


「ど、どうしたんですか、二人とも黙ってしまって、そんなに駄目な恰好でしたかね?」

「ううん、逆だよ、最……っ高に可愛いよ!」

「ああ、とても似合ってる、それに」


 腕が隠れているのが良い。

 その言葉は出すことはできなかった。

 二人が即決したケイトの服装は、水色と白を基調としたエプロンドレス。

 ケイトは、それに白いソックスと、青いブーツを履いている。

 加えて身に着けていたのは、青色をベースに白のフリルをあしらったマントのようなポンチョ。

 ロリータファッションのような可愛さと、腕を隠すことを両立したとても良い恰好だ。


「むぅ、そうは言われましても……」


 だが、絶賛した二人を置いてケイトは不服そうだ。


「この服装だと動きづらいじゃないですか、戦闘とか」

「オレがいるからいいだろ」

「腕が無いんだから無茶しない!」


 即却下、これでケイトの服は決定された。

 後は……


「よーし、これで用事は済んだな、帰ろう」

「まだだよ」


 踵を返し、会計に向かおうとするシュウの肩を、シエルが掴んで引き留める。


「ナ、ナンデスカ? シエルサン」

「次はシュウちゃんの番だよ?」


 にっこりと微笑むシエル、この笑顔がシュウにとっては恐怖だったのは言うまでもない。


「ケイトたす……」

「さあ、シュウもお着替えしましょうねー」

「や、やめろおおおおおお!」


 裏切りのケイトは、暗黒微笑を携えシエルの味方となった!


 その後、ケイトと同じ工程を繰り返し、シュウの服はグレーと白のストライプのシャツに、黒のホットパンツ、白黒のストライプのニーソにスニーカー、暗めの色のパーカーという、動きやすさを考慮した服装に決定した。







 服選びの後、一行はシエルの家に戻ってきていた。

 辺りは既に暗く、今から宿を探すのにも苦労しそうだ、と思っていると、シエルが泊まっていくように提案してくれたのだ。

 ケイトとシュウはソファにぐったりと寄りかかっている。

 一方、満足げなシエル。


「お前……お詫びする気、無いだろ……」

「そんなことないよー、お金はシエルが払ったじゃーん」

「……もう、反論する気も起きん」


 ケイトは完全に沈黙していて、会話にすら入ってこない。

 頬に指を当て、お詫びの内容を考えるシエル。


「うーん、どうすれば許してくれるかなぁ……模擬戦とか?」

「……ほう?」


 食いついたシュウに、シエルはニヤリと笑う。

 シエルは諦めていなかった、シュウの究明を。

 魔法を司る森精種エルフとして、糾合騎士団のNo.7として、自分を高める機会を逃す訳にはいかない。


「なぜ、それでオレが喜ぶと思った?」

「うーんとねー、あの幻鳥種ハーピィとの戦いのことをずっと考えてたんだけどー、ようやくわかったの。なんで簡単に倒せたのに焦らしたんだろう、って」


 シエルは小首を傾げるポーズをわざとらしくとる。


「初めはー、決着を付けるのに相手の体力を削らなくちゃいけなかったとかー、住人のシエルが倒すべきだと思ってたとか考えてたんだけどー、それにしてはやたらとシエルに魔法を使わせたがってたしー、シエルが上級魔法を使って疲れて戦えなくなったら、倒せないことが分かってるのに同じ上級魔法で攻撃してた」


 シエルは何度か上級魔法を放つジェスチャーをする。


「――だから、きっとあれはシエルの魔法を見たかったんだろうなーって思ったの、それで上級魔法を変異魔法ストレンジアーツで使えるようになったんだろうなーって。倒せないのに上級魔法を使ったのは確認の為、違う?」


 おっとりしているように見えて鋭い奴だ、とシュウは思う。

 別段隠す気は無かったが、気付かれた上で模擬戦を申し込んでくるとは、こちらとしては願ってもない、だが……


「狙いはなんだ」

「そだねー、初めはシュウちゃんの技術を何かに生かせないかなーって思ってたんだけど、変異魔法ストレンジアーツだとしたらそれも無駄だからねー、だからこれは単純にお詫び、ヒトミさんとナナミさんがアイちゃんを盗んだお詫び……後は――糾合騎士団に勧誘することかな? シエルとの模擬戦を団長に見てもらう」


 なるほど、こんな幼女を勧誘するとは、糾合騎士団とやらもよっぽどの人員不足と見える。


「別に人員不足とかじゃないよー、シュウちゃんの実力を買ってるだけ、平和の為には力が必要」


 シュウの考えを見透かしたようなシエルの言葉。


「その糾合騎士団とやらに入って、なんのメリットがある?」

「糾合騎士団は連合騎士団なのねー、ケイトちゃんに聞いたよールチオンに行くらしいね、ルチオンも糾合騎士団に加入してるからー、いっぱいの恩恵にあずかれるよ。後、うちの上位陣は強いよ」

「悪くない」


 シエルの甘い誘いに、笑みを浮かべるシュウ。


「だが、ケイトの義手が最優先だ、入団しても好きにやらせてもらう」

「構わないよー、ただ、手加減したシエルにも勝てないようなら、こんな特例の入団が許可されるのは難しいかもねー」

「ふん、言ってろ」


 二人の視線は火花を散らす。

 一触即発の雰囲気だが、シュウとシエルが浮かべるのは笑顔。

 それも優しい笑顔ではない、強敵と戦えることへの、喜びを抑えきれない獰猛の笑みだ。

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