第36話『陰と陽 3』
宝玉から発生した黒い魔法陣から黒い瘴気のようなものが噴き出し
地面にめり込んでいた灯弥が空中へと浮かんでいく
その瘴気に包まれると、失った手足が一瞬で再生した
«すまぬ……嵐の少年、空の少女よ»
「「!?」」
2人の頭に陽の神が直接語りかけてきた
«あやつらの引き合う力が増大し、抑え込むことが出来なくなった……»
「何が起こっているんです!?」
«陰の神はあの者を取り込み、現し世に顕現するつもりだ
人と神との融合……もはや止められぬ»
「そんな……もう成す術はないんか?」
「うおっ!?」
灯弥の体から爆発的に闇の気が放出され、辺り一面が黒い火の海と化した
暗い重苦しい空気が充満し、灯弥の体が全てを呑み込む闇の様に変容していく
辛うじて人の形を保ったまま
「なんだ?急にあいつの力を感じなくなった……」
『私は……神の力……を、体ヲ寄越セ、御してみせ……
小癪ナ……私は……!』
«あやつ……人の身でありながら神の力を御するというのか!?
…………嵐の少年……選択肢は2つだ
汝を依り代とし、我を現し世へと顕現させるか
我と我の生み出した力の全てをその身に宿し、汝自身が新たな神となるか»
「ちょっと待て陽の神!どっちにしても颯太は!!」
«空の少女、もし我が復活すれば
再度あの陰を封じる事は可能だろう
たが滅するには至らず、さらに嵐の少年の存在も維持する事は叶わぬ
先の世にも、あの者の言う「呪い」を残す事となる»
「後者なら……どうなりますか?」
「颯太!」
«……汝次第……としか言えぬが
あの者は既に人と融合を果たし我より高位の存在へと至っておる
汝が己を保ったままあやつと同位へと至るなら、陰を完全に滅する事もできよう
この先能力者も必要無くなるであろう
汝は新たな神として現し世を護る者となり人には戻れなくなるが……
それでもなお……汝は人界の救済を望むか?»
「颯太!そんなんあかん!
人で無くなるなんて……世界を守れてもその後の世界に颯太がいないなんて!!」
颯太の胸を掴み時雨は訴える
完全に脅威を消しされなくても、「呪い」として戦いの日々が続くとしても
「颯太がいなくなる世界なんて……うち…………」
「時雨……俺はどうなっても、心はお前と共に……」
「あかん、颯太……うちと一緒におって!颯太ぁ!」
颯太は時雨を抱きしめ、こぼれる涙を拭う
「愛してるよ、時雨」
そっと口づけをして、颯太は陽の神に告げた
「俺は、俺を想ってくれた人たちに新しい日常を送って欲しい……あなたが残した「呪い」を俺が消し去ります」
«……承知した……我の生み出した四精の全てを我が身に戻し
我の全てを汝に託そう
火の熱を、雷の疾さを、風の穏やかさを、水の癒しを……
そして人界を照らす陽の温もりを
天の理を統べる新たな神として人界の救済を……»
*****
本部にいた能力者たちは自身に起こった異変に気付いた
ぼんやりと体が光り、その光が天へと上っていく
「なんやこれ……力が抜けていく?」
体内の力の根源が薄まっていき抜けていく感覚に湊は戸惑っていた
「だがなんでこんなに心が穏やかなんだ?」
「体が軽くなっていくようだの……これは……」
団蔵と玄真も、体の感覚と共に気持ちも軽くなり穏やかな感覚に包まれていた
立ち上っていく光は颯太たちの決戦の場へと流れていく
*****
「感じる……散らばっていた力が集まってくる……」
「あぁ……あぁ…………颯太ぁ」
隣にいる颯太から発せられる光が輝きを増していくのと同時に、自身の力も抜けていくのを時雨は感じていた
「時雨、これが俺の結論だ……ごめんな」
「うち、こんな終わりなんて……」
「終わりじゃないよ……どんな姿になったって俺はいつも時雨と共にある
神様が愛した女なんてこの世にいないぜ」
笑ってそう言う颯太の目にも涙が浮かんでいた
「……うん……愛してる、颯太」
時雨は颯太の首に手を回しもう一度口付けた
触れた唇から時雨の力と愛情が流れ込んでくるのを颯太は感じていた
「うちの全部、持っていって……
うちもいつまでも颯太と共に…………」
「あぁ!」
能力で空に浮かんでいた時雨は、その力を無くし重力に逆らえなくなる
その時雨を颯太は抱き寄せ、ゆっくりと地面へと降り立ち時雨を下ろした
颯太が目を閉じ意識を集中すると、天高く眩い光の柱が立ち上り
周囲の瘴気と暗雲を晴らしていく
陰の力が安定してきた灯弥が、大気が震え歪むほどの闇の気を颯太に向けて放つが
直撃する直前に霧散して消滅した
『お前ハ……なんダ?』
光の柱から現れた颯太は、金色に輝く翼をもち眩い光に包まれていた
「俺は……日比谷颯太、お前を滅ぼす者だ
愛する人と、みんなの力で……」
「颯太……」
時雨は涙をためた笑顔を向けて颯太に言った
「いってらっしゃい」
「うん、いってきます!」
その場から消えた颯太は一瞬で灯弥の眼前に迫り
右拳を振り上げて遥か上空へと吹き飛ばすと
それを追いかけるように飛び上がっていく
その姿を目に焼き付けるように時雨は晴れ渡る空を見上げていた
*****
『貴様も神トの融合を果たスか……』
「陽の神が生んだ四精の力もろともな、これでお前の言う「呪い」は無くなる」
『それハ私が負うベキ物だ!積年の悲願ヲ……よくも!』
「もういいだろう、お前の私怨をどうこう言うつもりもない
俺も家族の敵としてお前を討つ!」
成層圏まで飛び上がった2人は向かい合って対峙する
右手を前にかざし、金色の光を収束させ輝く槍を創り出す
『死ね……死ネ、シネーーっ!!』
全身から宇宙の闇よりも暗い気を放出しながら光速で突進をかける
「時雨……みんなの力の全てを込めて!
いっけぇーーー!!」
光の槍を迫ってくる灯弥に向けて投げ放った
衝突し押し合いながら拮抗している
『ぐ、ぐぬぬ……ココまで来てぇー!』
「消えて無くなれぇー!」
力を全開にし投げた槍に向かって気を放出する颯太
その槍は灯弥を貫き、闇を飲み込みながら太陽に呑まれていった
陰の消滅と同時に発せられた輝きが世界を照らしていく
『はぁはぁ、終わったよ……時雨
今……帰るから……』
*****
見上げていた空は、全体を眩しく照らした後
光の雨のように世界を照らしていた
1人佇む時雨は、その光の雨の中一際輝く光を見つけた
「颯太!?颯太ぁ!」
金色の翼を広げてふわりと颯太が降り立った
「ただいま」
大粒の涙を流し颯太の胸に飛び込むが
感触が無くすり抜けてしまう
「えっ?颯太……透けてる?」
「あぁ、でも帰ってきたよ」
「おかえり……颯太」
今生の別れと覚悟して送り出した颯太が自分の元へ帰った事に、それ以上何も言えず泣き崩れる
その時雨の前に跪き颯太が言う
少しずつ透明度が増していっていた
「時雨……いってきますって言ったら、ただいまって言いに帰らなきゃね
でも、そろそろ限界だ……もうここには留まれない」
「颯太?」
「もうみんな能力者じゃない、普通の生活を送れるんだ
みんなの事、頼んだよ」
「…………うん」
「あと、夏海にもうまく言っといて……信じてくれるかわかんないけど」
「……うん、きっと……大丈夫」
今度こそもう会うことは叶わないと覚悟したが、溢れる涙は止められなかった
晴れ渡る空からポツリ、ポツリと雨が降り出した
「この雨は、今の俺ができる最後の贈り物……
初めて会った時も雨が降っていたね」
「うん、忘れられへんよ」
「その涙は雨が隠してくれる、その涙も大好きだよ
でも、お前の笑顔を見せてくれないか」
雨に濡れ涙を流しながら、時雨は精一杯の笑顔を向けた
「また必ず会えるよ、約束する
だからサヨナラは言わない……
いってきます……愛してるよ」
「愛してる……いってらっしゃい」
触れられない体で時雨を抱きしめた颯太は
光の粒となって天へと昇って行った
時雨は降り注ぐ雨を抱きしめるように、自分の肩を抱き心のままに泣いた
また会えると信じて、天を仰いで泣き続けた
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