第34話『陰と陽 1』


朔弥は樹海の生い茂る木々を迂回し、山道を通って焼け野原となった広場の近くに車を止めると

引き返してくれという2人の制止を聞かず駆け出した



「来たか……」


「兄さんっ!」


「お前を呼んだ覚えはないがな、元老院を引き連れてくるならまだしも……

まぁ、たった一人の犠牲でアレを止めたのは大したものだ」


「あなたの父親だろうに!」



憤る颯太が叫ぶ



「アレを通して様子は見ていた、やはりあの連中の実力は侮れんな

この短時間では不完全な個体しか生み出せなかったが」


「ならこないだのクラス4もあんたが創ったっちゅう事か!?」


「その通りだ、異なる能力を融合させるには神の力が必要だったからな

感謝するぞ、日比谷颯太

お前の存在のおかげで実験は成功した……私は神の次元に達したのだ」


「そのせいで叔父さんと……母さんが死んだ……

俺はお前を許せないっ!」


「はっ、あいつらが死んだのはお前が弱いからだ

お前のせいで2人は死んだのだ」


「でもっ!!」


「兄さん、もうやめてくれ!

まだ千鶴さんの事を……」



言いかけた朔弥の頬が切れ、後ろの木々が薙ぎ倒されて黒い炎で燃えている

朔弥に人差し指を向けて冷徹な表情をした灯弥が言う



「次は外さんぞ……」


「朔弥さん、ここはもう退いて下さい」


「颯太くん……」


「朔弥さん、戻って……あんたは組織に必要なお人や

ここはうちらに任せて」


「…………わかりました、必ずお戻り下さい……ご武運を」



朔弥はその場を下がり本部へと戻っていった



「邪魔者は消えたな……しかし意外だったぞ時雨

お前までもが神に選ばれし者となるとはな

潜在因子は並外れたものがあったが」


「そんな御託はええ、それにうちが何者かなんてのもどうでもええ

何としてもあんたを止める、殺すことになってもな」


「殺さずに止めるつもりでいたのか?片腹痛いな

俺はお前たち2人を殺す

その後は全ての影を滅し、陰の神を引きずり出して殺す

陽の神が邪魔をするならばそいつも殺す

一族の者も皆殺しだ……この世から能力者を一掃する」


「……!最後に残るお前はどうするつもりだ?

取って代わって神様にでもなるつもりか?」


「ふん……そんな物には興味が無い

最後は俺自身を殺す、それでお終いだ

陰陽の神が残したツケを俺が全て清算してやる」


「そんな事はさせない!」


「なぜ拒む……俺たちのような負の歴史は絶たれねばならん

それはお前たちも望むところだろう」


「うちらはそんな事望んでへん!

影を滅ぼすのはいい、でもその為に一族みんなを犠牲にするなんて!」


「では影を滅ぼし残された能力者はどうなる?

戦う理由が無くなれば、行き場のなくなった力は確実に世界へと向けられる

人より優れた力を持つ自分たちが、人の目から逃れ身を隠し生きていく事をいつまでも良しとできる訳もない

我々の存在が知られれば向こうも黙ってはいまい

自分たちの脅威になるやもしれん存在を黙って見過ごすわけもなかろう

迫害され、忌み嫌われるか、隅々まで調べられ実験動物となりはてるか……

そうなる前に滅ぼしてやるのがせめてもの慈悲というものだろう」


「そんな理屈っ!」


「だが真理であろう……影も含め、俺たちはこの世に存在する必要が無いのだ」


「それでも!生きていればきっと方法はあるはずだ!

絶望もあるかも知れない……けど!

俺は希望を捨てないためにもここでお前を討つ!」


「それこそお前のエゴだろう、結局事ここに至ってはエゴのぶつけ合いなのさ」


「はんっ!その方が解りやすうてええわ

うちらはうちらが生き残るためにあんたを倒す

あとの事はその時みんなで考える……うちはみんなと生きていたいからなぁ!」



思いをぶつけた2人は全身に気を巡らせ構える


大気までもが震えるような2人の力に、灯弥も無造作に立ち上がった



「相容れないならば……殺し合うだけ」



灯弥の周囲の空気が歪み、暗い闇の気が噴き出し

黒炎の翼を広げて宙に浮かんで赤く染まった瞳を2人に向けた



「始めようか……現し世の神の戦いを……」


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