第30話『真意 4』


「失礼します」



司令室で指揮を執っていた弥一の元へ湊がやってきた



「各一族の戦闘部隊長を中心に部隊再編を急がせていますが

損耗率を考えると明朝までに目処がつくのは全体の70%程の見込みです」


「ふむ、今はそれでも構わん

動ける部隊は順次持ち場へつき警戒態勢を取るように通達を、先の作戦から影の反応が出ては消える状況だ

恐らく灯弥が絡んでおろう、いつ動きがあるかわからん」


「了解です」



湊が無線で各部隊長に通達していると

朔弥がノックをして入ってきた



「お久しぶりです父さん、湊さんも」


「おぅ朔弥くんやないか、ここに来たって事は何か掴んだか」


「報告を聞こうか」


「クラス4出現地点の調査結果ですが、細かいデータは後ほどまとめますが……やはり兄さんがそこに居たようです

辺りにクラス4の反応は認められませんでした」


「そうか……クラス4の反応が検知されんという事は灯弥が仕留めたのか?

4人がかりで逃げるのがやっとであっただろう、やつの実力であれば手負いが相手ならなんとかなるやもしれんが……」


「いえ、倒した……と言うより『消えた』と捉えるというか

……残留因子反応を解析中ですが、火、雷、風それに影の因子が混じりあっているとしか思えないのです」


「混じりあっている?」



ガチャっとノックも無く開いた扉から時雨と颯太が入ってきた



「それはうちから説明するよ」


「2人とも戻ったか……してどうであった?」


「ここ最近灯弥さんが対話をしていたのは、陰の神に接触する為やったんや

細かい事はわからんけど、クラス4が吸収した慶一さん静さんの能力は

クラス4の影の力ごと灯弥さんが取り込んでるみたいや」


「それで俺たちは、陽の神との対話を通じて新たな力を授かりました

陽の神は、自分が陰の神を抑えているうちに彼を止めて欲しいと……

でないと彼の得た力の影響でこれまで以上の規模で影が発生する恐れがあると」


「なんとも……部隊の再編を急がせなければ」


「あぁ、それは団蔵さんと玄真さんが現場の指揮にあたってくれてます

うちらは早く灯弥さんの居場所を突き止めなあきません」


「誰よりも影を憎むあやつが……自ら影を取り込むか……」


「しかし弥一様、時雨の言うことが本当ならあいつは後天的に四精の壁を超えたと言うのですか?

しかも影の力を使って……

あいつは誰よりも影を憎んでいたのは私も知っています

…………だからか?だから力の均衡を重んじてきたやり方を捨てて、影を滅ぼすための力を欲した……」


「お父さん、どういう事や?

仮にもあの人はみんなのまとめ役として、各一族の長として責務を全うしてきたはずや……うちはそばで見てきた……

だからなんでそんな考えに至ったのかがわからへん」


「……殺されたんや、影に……将来を誓った恋人を

彼女も火の能力者やった、同じ隊やった灯弥は直ぐにその影を倒したが……

時雨が産まれる前、慶二と静が一緒になる前の事やった

想像つかんかも知れんが、まだ当主になる前で血気にはやっていたあいつは誰よりも影を憎んでいた

当主になってからは少しは気持ちに整理がついたんやと思ってたけど」


「それを見抜けなんだワシの責任でもある、当主としての実力は申し分無かったんだが

そこまでの力を得て何を成そうとしておるのか……

自らの手で力の均衡を破り、毒を以て毒を制すつもりか……」


「でもその為に払う犠牲が大きすぎます、俺の嵐の力がその役目を担うのなら……」


「颯太、一人でやるんやない

うちも一緒や……その為に授かった力やねんから

2人でならきっとやれる」


「もしかして、時雨も壁を超えたんか?」


「うん、嵐の助けとなる為……颯太と共に進む為の力を……」


「永らく続いた一族の歴史の中で、陰陽玉の導きで四精を超える者が同じ時代に2人も現れるか……

どう転ぶにせよ、我らの一族はここで役目を終える時が来るのかもしれんな

ならば総力を持って灯弥を止め、陰を滅し、永い争いの歴史を終わらせるのだ

陰陽玉に導かれし者たちよ、人の世に平和と安寧をもたらそうぞ」


「「はいっ!」」



『そう易々と行くと思うな……永年の呪いを断つのは私の役目だ』



!?

その場にいる全員が同じ声を聞いた

頭に直接響く様な感覚に襲われている



『日比谷颯太、天ヶ瀬時雨……神の次元に近づきつつあるあるのはお前たちだけではない

私の邪魔をするな……お前たちが動かずとも私が全てを終わらせる』


「しかし!あなたのやり方では危険が大きすぎる!

そのせいでどれだけの被害が出るか」


『知った事ではない、無知な民衆を代々守ってきてやったのだ……人類の脅威を無くしてやろうというのだ

いっそ知るべきなのだ、守護者たる我らと滅ぼすべき敵の争いの歴史を』


「それは違う!表の世界の人達の日常を守る為にうちらはやってきた!

そんな事をしたら世界は大混乱に陥ってしまう」


『それが「呪い」だと言うのだ……陰陽の神々と四精によって、人々からその存在を隠し戦いに明け暮れる一族になんの未来がある

…………最早問答は不要だ、先ずはその呪われた一族から滅ぼすか』



湊の持つ無線から悲痛な声色の報告が入る



「湊様!突如本部周辺に大量の影が発生!

数は100……150、どんどん増えています!!」


「灯弥!貴様っ……」



弥一の怒りを嘲笑うかのように灯弥が言う



『さぁどうする、ここで防ぎきらねば被害が市井に及ぶぞ

せいぜい抗ってみせろ、そしてそこで滅ぶがいい

四精を超えし者よ、私は今富士の樹海……

慶一と静が最後の時を迎えた地にいる

私を止めたくば来るがいい……来られるものならな』



頭に響く違和感が消える

一刻の猶予もない状況に弥一が声を荒らげた



「直ちに影の迎撃に出る!一体たりとも逃すでない!

湊、全員に出撃命令を出せ!」


「はっ!」


「総力戦じゃ、ゆくぞ皆の者!」



弥一は自ら先頭に立ち皆を引き連れ部屋を出る

ここで襲いくる影たちを止めなければ、何も知らない市民に被害が及ぶ

既に均衡は破られ、一刻の猶予もない

滅ぶか滅ぼされるか……

颯太は自分が守るべき者のために気合を入れた



「時雨、俺が守るから……勝とうな」


「うん、颯太はうちが守る……2人でなら……」


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