第29話『真意 3』


颯太たちは宝物殿へ来ていた

火の前当主である石動弥一からの要請で、時雨とともに陰陽玉との対話を行う為に



「まぁ2人とも認められた資格のある者だから大丈夫だとは思うが、万が一何かあれば俺らがサポートする」


「そうだの、ご指名があったくらいだからの

まぁリラックスして、リラックス」



雷前当主の団蔵と風前当主の玄真はそう言うが

2人は緊張を溶けずにいた



「うちは正直、当主になる時にやった以来やから

リラックス言われてもなかなか……」


「2人で同時にするっての今までもあったのか?」


「いや……うちは聞いたことないなぁ

その辺どうなんですか?」


「いんや、わしも聞いたことがないの……

弥一なら知っとるかもしれんが」


「確かに俺も聞いたことがねぇや、当主に相応しいかの対話以外では代々まとめ役である火の当主以外はやらねえからな……俺だってあの時以来対話はしてねえよ」


「そうなんですか、なら灯弥さんや弥一さんは何度も対話をしてるって事ですか?」


「そういう事だの、頻繁にではないが陰陽玉との対話と元老院との話し合いを経て組織の運営はまわっておるでの

だから颯太の事も、弥一の中では別の思惑があったんだろうの……」


「だがそこは弥一ばっかりを責められねぇ、上に立つ以上は混乱を招く様な話はおいそれと出来んのもわかる

俺らも聞いたのは当主を退いてからだ……

颯太、わかってやってくれとは言いきれねぇが

そこは頭の隅っこにでも入れといてくれりゃありがてぇ」


「それは俺もわかってるつもりです……

何も知らずに居られたから、大事な友人もできました

こんな状況になったからこそ、大事な人も出来ました」


「颯太……」



時雨を見ながらそう言った颯太

団蔵と玄真は2人の関係を察し、自分の子供たちの事を思い出していた



「……静と慶二を見てるようだの…………」


「あぁ、あの頃の俺らは掟に縛られてたからなぁ

もっとあの時あいつらの事を考えてやりゃ良かったな」


「強い子に育ったの……」


「母さんが俺に言ってくれました、自分の道を行く為に

強くなりなさいと……」


「そうか……あの子らしいな、芯の強さは母親譲りか

安心しな颯太、俺らはお前ら2人の事はなんも言わねぇ

もう掟なんざ関係ねぇ、やりたい様にやんな」


「団蔵さん、玄真さん……ほんまにありがとう」


「えぇえぇ、もうわしらが口出す事でもないでの

さぁ、そろそろ始めようかの」



黙って頷いた2人は祭壇の前へと進む



「2人同時に対話に臨むってのは経験がねぇが

心を落ち着けて……陽の神の意思に委ねよう……」



2人は目を閉じ、繋いだ手を強く握りしめ心を委ねるように祭壇へと意識を向けると

淡く暖かい光が2人を包んだ





*****





«よく来た、水の少女と嵐の少年……よく修練を積んでいるようだな»


『俺たち2人に話があると聞いて来ました』


«歴代でも稀に見る力を秘めし水の少女、四精を超えし嵐の少年……汝らに告げておくべき事がある

四精の長である火を継ぎし者、守護者たる者にあるまじき力を欲し、陰を滅する為にその身に陰の力を宿すに至った»


『!?まさか……灯弥さんが対話を重ねとったのは……!』


«その通りだ水の少女よ……四精を超え陰を滅する力を得んが為、火の守護者でありながら陰、雷、風をもその身に取り込んでおる

最早人の理から外れかけておる

このままでは外界に居る火の者と我が封じし陰との繋がりが強まり、これまで以上に外界に影の発生が起ころう»


『そんな事になったら、全てに対処するのも難しくなるんじゃ……!?』


『その通りや、……これじゃ何がしたいのかわからん

陰を滅ぼすために影を増やすなんて……』


«その為に汝らの助けが必要だ

現世を混乱させぬ為にも、かの者を止めて欲しい

我が陰を抑えていられるうちに……»


『それは当然そうします!せやけど、今のうちらでは太刀打ちできるかどうか……』


«だから汝らを呼んだのだ

汝らは四精の始祖を超える器を持つ物……

神に近づきつつあるかの者を止める力を授けよう»


『うちらが……始祖を超える?』


«左様、汝には幼き頃より歴代の者よりも強大な力を継いでおる……嵐の少年と共にこの時代に汝が生を受けたのは運命であろう

かの者が手にした雷と風の力は全てにあらず、霧散した力のいくらかは我の元へと戻っておる

意識を開け、水の少女よ……我の力の一部をもって汝の新たな力とするが良い»


『意識を……開く…………』



時雨は奥底にある力の根源の更に奥に、陽の神の太陽の様な熱を感じた

するとその熱が時雨の力を包み込み新たな光の塊として顕現する


『なんやこれ……熱く激しい……けど暖かくて優しい

これがうちの……力』


«汝、天を操り嵐と共に進め……汝に新たな名を……

天を統べる……空(くう)の者»


『空……それが……颯太と共に進む為の……うちの力』


«嵐の少年よ……汝に託した我が一部

今こそ目覚めさせる時»


『陽の神の力……昂る……嵐が!』



颯太の中の嵐の力が今まで以上に激しく渦巻いている

その身を突き破り今にも暴れだしそうな力の奔流が襲う



«抗うな嵐の少年よ、その猛る嵐を手なずけよ

我が力を以て嵐を御し、空と共に闇を払え»


『陽の力を以て嵐を制する……』



意識を集中し、暴れる嵐を陽の光で圧縮し押しとどめる

圧縮された力は光で包まれ輝く宝玉のように静かに落ち着いた



«それで良い……嵐の少年よ

内なる宝玉に嵐を宿し、神の次元を垣間見よ»


『四精の始祖を超える力……』


『神の次元へと至る力……』


«新たなる現し世の守護者よ……世に永久の光を……»





*****





2人を包む光が収束していく

颯太と時雨の外見からは何も変化は感じられないが

前当主2人には感じ取りきれない『何か』が確かにあった



「団蔵さん、玄真さん……今すぐ本部に戻って話さなあかん事があります……」


「あまり時間は残されていないようです……急ぎましょう」



対話を経た2人の雰囲気に呑まれそうになるが、反論する理由もなく

部屋を出た4人は急いで本部へと向かった





*****






「ほぅ……感じるぞ

力を昇華させたのは奴だけでは無かったか……」



倒した影の山の上に立ち、クラス3の腹を突き抜けた黒炎を纏う腕を引き抜きながら

不敵に笑う灯弥が呟く



「力の均衡など知ったことか……呪いを断ち切るのは……私だ」

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