第28話『真意 2』


本部最上階の当主会議が行われる円卓の間

颯太と時雨がその部屋に入ると、それぞれの椅子には4人の前当主が座っている

時雨が指示を出したその夜に知らせを受けて集まっていた



「待っていたぞ、報告は受けている……由々しき事態だな」



1番に口を開いたのは火の一族前当主である石動弥一(やいち)

オールバックの白髪と整えられた髭の男は威厳を込めてそう言うと、時雨は不快感を隠そうとせず応える



「あんたの息子がおらんくなってしもて余計に慌ただしいんやけどな」


「口がすぎるぞ時雨!」


「せやかて、そうも言いたくなるよ」



時雨を諌めたのは水の前当主で天ヶ瀬湊(みなと)、後ろで束ねたロングヘアの長身のこの男は

慶二や静と歳も近く今回の件を1番悔やんでいた



「いや……この様な時に責務を放棄した愚息についてはワシにも責任はある、すまない」


「それは弥一だけの責任じゃない、ここにいる全員灯弥を止められなかった……同罪じゃ」



そう苦い表情で言った小柄でスキンヘッドの老人が雷の前当主、日比谷団蔵(だんぞう)


その向かいに座る男は風の前当主、斎賀玄真(げんしん)

恰幅のいい体躯で腕を組み、伏せていた目を開き颯太を見やる



「君が日比谷颯太くんかね……ふむ……どこか静の面影があるの

言いたい事もあるだろうが、先ずはこれまでの事を詫びよう……本当にすまなかったの」


「あなたが母さんの……なんて言えばいいか」


「俺の方もすまなかった、家族から遠ざけ過ごさせた挙句その家族も失うことになってしまった……詫びても詫びきれん」


「あなたは、父さんと叔父さんの……?

いえ、経緯は母さんから聞いています

俺を守る為にやった事だと……最初は勝手なことをって思うこともあったけど

みんなのおかげで今俺は生きてると……今はそう思います」



複雑な表情で2人の祖父に心情を吐露する颯太

押し黙る4人の静寂を破ったのは弥一だった



「お前の母である静が能力に覚醒したあの時、従来の掟に従うのならば今お前がそこにいることは無かった

灯弥からも聞いているだろうが、四精の壁を越える者の存在として真の覚醒を迎える可能性も考慮してではあるが……それ以上に慶二と静の尽力があってこそ今のお前がある

それはワシらの現状においても計り知れん力となり得るだろう、お前の力に頼らざるを得ん状況でもある……

ワシらの事を許せぬ気持ちもまだあるだろうが、この世界の為に助力願えるか?」


「……あの陰陽玉との対話の後、俺の答えは出ています

世界を守れるかなんてわからないけど、俺の周りの大事な人を守る為に戦います……もう、誰も死なせたくない……」


「…………感謝する」


「颯太、今更やけど……ほんまにええの?」


「時雨、俺の気持ちはもうわかってるだろ?」



黙って頷いた時雨は弥一に話を促す



「で、今後の事はどうしますか?」


「ふむ、現場の統括はワシがやろう

お前達2人に頼みたいことがある」


「俺たち2人に?」


「2人にはこの後宝物殿へ出向き、陰陽玉との対話を行ってもらいたい」


「2人でっちゅう事ですか?」


「そうだ、知らせを受けてすぐにワシも宝物殿へ向かい対話に臨んだのだが

現水の当主と、嵐の少年との対話を望んでおられる

団蔵、玄真の2人を伴いこれから向かってくれ」


「わかりました」


「湊とワシは諜報部の調査結果の精査と部隊の再編成に取り掛かる

そうと決まればすぐにかかろう」



一斉に席を立ち弥一と湊は先に部屋を出て行った



「さぁ俺らも向かおうか、2人のバックアップは俺と玄真に任せてくれ」


「静の残してくれた大切な孫だからの、まぁジジイ2人では心許ないかもしれんが」


「何言うてんの?前当主2人を前にして心配する方が失礼っちゅうもんでしょ

よろしゅうお願いします」


「はっはっ、時雨は相変わらずだの

湊とはえらい違いの跳ねっ返りだの」


「そうは言っても当主としてよくやっとるよ

ジジイはジジイなりに出来ることをやるしかねえんだよ」


「違いないの」



初めて会ったはずなのに2人から妙な懐かしさを感じた颯太は、少し不安が和らいだ気がした



「行きましょう、俺も出来ることをやります」



そう言った颯太の言葉に、頼もしく育ったと感じた団蔵と玄真は

お互い颯太の肩を叩き「行こう」と促し部屋を出た





*****





風呂から上がり自室へ戻った夏海は

退院してようやく自分のベッドに横になったが

安堵よりも2人を心配する気持ちが強く

不安を抱いて天井を見つめていた



「大丈夫かな……颯太、時雨……」


『手紙読んでくれたかな?きっと2人なら上手くいくよ……

めいっぱい祝ってあげるんだから……無事に帰ってきて……』



自分の首につけたシルバーのネックレスを強く握りしめ

未だ帰らぬ友人の身を案じていた


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