第27話『真意 1』


「どういうこっちゃ!?灯弥さんはどこに行ってんねん!」



作戦後の夜、あの場を撤退した2人は本部へ緊急要請を出し

全部隊を撤退させた

本部内は回収した大量の影の処理に追われ、軽度の負傷者は後回しにされるほど慌ただしかった


慶一、静両名の遺体は霊安室に収容され

灯弥が不在である事を朔弥から聞かされた時雨が憤っている



「こんな時にまとめ役の灯弥さんがおらへんなんて!」


「申し訳ありません、単独で宝物殿の警護にあたっておられたのですが

時雨様から緊急要請を受ける少し前から無線が繋がらない状況でして……

宝物殿内のどの監視モニターにも姿が無く……」


「当主が2人殺られたんやで!

……あぁもうっ……とにかく、とりあえずうちが暫定的にではあるけど全体の指揮を執る

先ずはこの事を全員に通告

回収した影の処理を最優先、負傷した戦闘員の治療にも優先的に人員をまわして

それと諜報部に灯弥さんの捜索と、正体不明の影が居た地点の調査を通達

……今は異なる一族でも関係なく、全体で連携して事に当たるようにと……」


「はい……直ちに」



踵を返し朔弥は司令室へと戻っていった


霊安室の前室には2人だけが残った

上の喧騒が聞こえない地下の一室は静寂に包まれていた



「…………こんなん……どうせえっちゅうねん……」


「……時雨……」


「慶一さんも静さんも……若いうちの事いっつも気にかけてくれてた

優しくて頼れる……尊敬出来る人やった……

うちがもっとしっかりしてれば!」



颯太は涙を溢れさせた時雨の肩を抱き寄せた



「颯太……うち…………うちがっ」


「時雨のせいじゃない、俺だってもっと力があれば……」



怒りと悲しみに握りしめた拳、肩を抱いた手にもぐっと力がこもっている

時雨はその痛みを、頬に落ちた颯太の涙が和らげていた



「最後の、あの時になるまで母さんと呼べなかった……

もっと素直になっていれば良かった……

叔父さんはいつも俺の心配をしてくれた、もっと叔父さんに恩返しがしたかった……」


「颯太…………、でもおかげで生き残った

ほんまに……颯太が……生き残ってくれて……」


「時雨……」



2人は抱き合ったまま、ただ泣いていた





*****





「現在、高クラスの影から優先して処理を行い全体の85%の処理が完了

負傷者の治療もほぼ処置が完了しましたが、全一族の総合戦力は12%減少

編成完了した諜報部隊は60%を灯弥様の捜索、30%は特異個体発生地点での調査、残りは本部に待機しております

慶一様、静様両名の検死については本日12:00より開始予定です」


「ご苦労さん、一晩でよく進めてくれた

とりあえず体制を立て直すのが先決や

本部詰めの諜報部には、石動灯弥と一緒に消えた当主付きの研究者数名の行方を探らせるように

それから、元老院へ会談を打診

こんな状況や……四の五の言ってられんからね」


「元老院?」



一晩明けた本部司令室で報告を受けていた時雨から

聞き慣れない言葉が出た事に颯太が反応する



「簡単に言ったら先代の当主の集まりや

全体の意思決定に関わる助言などが主な役目なんやけど

こうなったらまた表へ出張ってもらわなあかん」


「なるほどな……」


「颯太、その会談には颯太も参加してもらうで

一応あんたの祖父にあたる人もおる……

言いたい事もあるやろ」


「その時になってみなけりゃわからないけど、覚悟はしてるよ」


「そうか……

通達は以上、その通りによろしく頼む」



指示を受けた本部職員は一礼をして部屋を出た



「こんな事になってしもて……ほんまに申し訳ないと思ってる」


「何言ってんの、時雨のせいじゃないだろ?

それに今回の事にもし、あの人が関わってるなら……

そのせいで叔父さんと母さんを失ったのなら

……俺は、許せそうにない……

お前を守る為にも、最後まで付き合うと決めたんだ」


「こんな状況やし、石動灯弥が裏で糸引いてる可能性も考慮せなあかん……

ほんまはそんな事じゃないと思いたいけど……

颯太がそばにいてくれてほんまに良かった

うち1人ではとても……

あかんね、こんな事じゃ……しっかりせんと」


「あぁ、俺の事は時雨が守ってくれるんだろ?

咲さんだって、みんなだってついてるんだ

時雨は1人じゃない、大丈夫」


「うん、ありがとう」



2人の当主の死、石動灯弥の失踪、クラス3以上の特異個体、事後の対応に追われる本部


山積する問題と全体を統括する立場に立たされた時雨の心中は穏やかではなかったが

そばで支えてくれる大事な人の為、残された一族の命を守る為

気持ちを前へ向け進むしか無かった

与えられた猶予はそれほど無いと感じながら





*****





朔弥が直接指揮を執る調査部隊は

クラス4と呼称する事になった影の出現地点に到着していた



「なんだこれは……?」



広く開けたその場所は広大な焼け野原になっていた

当たりにはまだ燻っている木々が散見される


検査機器を持った隊員が告げる



「朔弥様、この数値……残留因子濃度の分布の中にあるコレは……」


「…………あぁ、やはりここへ来ていたのか……」



時雨と颯太の能力の因子反応はだいぶ薄れていたが

その他の慶一、静の反応に加え影の残滓の反応よりも高い数値を表示させたその因子は

朔弥にとって最も身近で自身も有するものであった



「どういうつもりだ…………兄さん……」


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