第26話『闇の胎動 6』


1歩ずつ、ゆったりと歩を進めてくる


クラス3の様な巨体でもなく、長身痩躯の全身には漆黒の闇を纏い、背からは蝙蝠のような翼

赤暗く鈍く光る瞳、ダラりと無造作に下げた両腕の先は長く鋭い爪

両足の足首から先は猛禽類の鉤爪の様な足をしていた


今まで確認されてきたどのタイプとも違う異様な姿に恐怖を覚えた



「颯太と時雨ちゃんはみんなを一旦後方へ避難させろ!

静ちゃん、全開で行く……フォロー頼む!」


「わかりました……2人は早くみんなを!」



指示を受け2人が下がったのを確認した慶一は静へ目で合図をし、全身に気を巡らせる



「ぬぅおぉーーーっ!」



全身から周囲へと地走りに稲妻が走り、慶一の体が光り輝く


同時に気を集中した静の周囲には豪風が吹き荒れ、前方の影へと両手を向けると

竜巻が真横を向いた形になり、動きを止める風のトンネルを作り出した



「慶一さん!」


「いっくぜーーーっ!」



眩い光を纏った慶一は勢いよくそのトンネルに飛び込むと

完全に姿を見失うほどの速さで稲光を残し突進して行った


両拳を突き出した慶一と影が衝突し爆音が爆ぜた瞬間

その影は砲弾の様に吹き飛ばされた


影は木々をなぎ倒し岩壁にめり込んでようやく動きを止めた



「ハァハァ……これで仕留められれば良いんだが」



ゴゴゴッと鳴る音と共に周囲に岩を浮かばせて影はゆったりと立ち上がった



「へっ、ダメージ無しか?……参ったねこりゃ」



ヌラリと影が右腕を前へ出すと、周囲の岩が一気に発射された



「ハッ!!」



静が気合いを込めると竜巻が2人を包んで集約していき風のドームを作り出し、高速で迫る岩を弾き飛ばす



「もう一押しっ!」



岩を防いだドームを再度竜巻状に戻し影へとぶつけてさらに後方へと吹き飛ばした


2人はその場から下がり体制を立て直す



「まずいぜ静ちゃん、当主二人がかりでこのザマじゃ……」


「確かに……」


「なら4人で行きましょう!」



時雨と颯太が戻ってきて提案する



「叔父さんと俺が前衛、時雨と静さんが後衛で仕掛けましょう」


「危険すぎるぞ颯太!」


「ほんまやで!流石にそれはヤバイ」


「俺を守ってくれるんだろ?時雨

やるしかないだろ」


「……わかりました、全員で仕掛けましょう」


「静さんまで!いくらなんでも……応援を要請して一気にかかった方がええんとちゃう?」


「多分そんな時間はないでしょう、それに私は颯太くんの意思を尊重すると決めました

ならば全力でサポートするまでです、力を貸してください」


「確かに応援を待つ時間はねえよな……やるしかねえか!」


「……わかった、ここでケリつけるしかないって事やな

颯太、うちはあんたを信じる……だからうちを信じて全力でぶちかませ!」


「おうっ!」



遠くに見える影はまたゆったりと立ち上がりこちらへと歩き出し、大きな翼を広げて低空で飛びつつ迫ってきた



「気合い入れろみんな!来るぞ!!」



慶一は再度全身を震わせ雷の光を纏う

颯太も両腕のバンテージの外側へそれぞれ力を込め左手の篭手と右腕に雷を巡らせる


その後方から両手を突き出した2人が全力で気を集中させる

竜巻のトンネルに濁流の様な水を這わせ、その内側から影へ向かって水流を飛ばし飛んでくる影を絡めとった



「行くぞ颯太っ、合わせろ!」


「わかった!」



同時に飛び出した2人は1つの雷の弾丸となり暴風のバレルを駆け抜ける


影は流石に危険を察知したのか、拘束された腕を無理やり前へと突き出し防御の体制を取る



「「うおーーっ!!」」



重なる2人の輝く拳を暗闇の腕が受け止める

強烈な力のぶつかり合いを制したのは慶一と颯太だった


衝撃を受け止めきれず両腕を肩口から吹き飛ばされた影は後方へと弾き飛ばされた



「やったか!?」


「だといいのですが……」



時雨と静が倒れた影を注視していた

慶一は短時間に2度も全力を解放したためか膝をつき肩で息をしている

颯太は慶一に手を貸し肩を組んで立ち上がらせた



「大丈夫?」


「あぁ、ちょっとハードだったけどな

それよりヤツはどうなった?」


「手応えはあったよ、あそこに倒れ……えっ?」



吹き飛ばした影に目をやると、腕を失ったまま翼を支えにして立ち上がろうとする姿を捉えた


当主クラスの全力の攻撃を受けてなお倒しきれない相手に全員が目を疑った



「イマノハ……ナカナカダッタゾ……四精ノモノタチヨ

喰ラウニアタイスル……」



失った両腕を再生しながらそう話す影は、再び生えた腕を前に出し高速で前衛の2人へと襲いかかる



「やべえっ!!」



颯太の背中を掴み力任せに後ろへ投げた慶一は

立ちはだかって飛びかかってくる影を受け止める



「叔父さん!!」


「やらせん!俺の家族に手は出させんぞっ!」


「……先ズハオ前カラダ」



漆黒の爪をガバッと開き、慶一の顔面を鷲掴みにすると片手で持ち上げた

必死に引き剥がそうと攻撃を仕掛けるも動きがどんどん鈍くなってくる



「ガッ……何だ……力が、抜けて……」



完全に動きを止めた慶一を颯太へ目掛けて投げ捨てる

受け止めた衝撃で諸共に飛ばされた2人の元へ時雨と静が駆け寄った



「叔父さん、叔父さん!!」


「慶一さん!……そんなっ!?」


「なんやこれはっ!?慶一さん、起きてくれ!!」



白目を剥き力なく倒れた慶一は既に息をしていなかった



「フム……試シテミルカ……」



慶一を掴んでいた腕に力を込めると、バチバチと音を立てて青白い雷が影の腕を覆っていた



「なっ!?吸収したってのか!?」


「まさか!?どうなってんねや!」



その腕を腰だめに構えこちらへ狙いを定めたのを確認した静は2人へ能力を行使し、風の力で後方へと追いやった



「ツギハオ前カ」


「!?」



超高速で飛んできた影の腕は、雷を纏ったまま静の腹部を貫き風の力を吸収していく



「静さん!!」


「あかん!そんな……」



貫かれた腕を掴み命を燃やすかのように力を絞り出す静



「1人では逝きません……あの子達の為に!」



影の眼前に両手をかざし、全力を放って首から上を吹き飛ばしたがそれすらも意に介さず

静を振り払うように足で引き抜きざま2人の方へ飛ばす


時雨と颯太はあまりの状況に絶句していた



「颯太……くん」


「……っ!静さん!」



流れ続ける血で濡れた手を颯太は握りしめる



「ここは、退きなさい……

退いて……生き延びなさい…………

迷って、悩んで……強くなりなさい……

あなたを想う人の為に……

あなたは……あなたの道を……行きなさい…………」


「はいっ…………母さん……」



涙を流しながら自然と出た言葉だった


力なく笑う静の目からも涙がこぼれた



「ありがとう……颯太…………

時雨さん、颯太を頼みます……」


「……うん……任しといて……」



静は時雨の言葉を聞き、安心したように力尽きた



「うぅ、う……うわぁーーっ!!」



慟哭と共に立ち上がり暴走しかけるほどの力を放出する颯太に時雨が叫ぶ



「あかん颯太!!ここは退くんや!」


「でも……でもっ!!」


「静さんの言葉を、慶一さんの死を……無駄にしたらあかん!

冷静になれ!」



そう叫ぶ時雨も涙を流しながら必死に影に飛びかかりそうな自分を抑えていた



「もう一回だけ全力でしかける!

その隙に逃げるんや、反論は聞かん!」


「……時雨……わかった、行くぞ!」


「「はぁーーっ!!」」



2人から放たれた力の衝撃に、首を再生していた最中の影は防ぐことも出来ずそのまま後方へと押し戻され

時雨と颯太はその隙に背を向けて走り出した


混乱した思考のまま、復讐を胸に誓い振り向かずに走り抜けた






*****






無防備に攻撃を受け倒れたまま欠損した四肢を再生していた影のそばに、1人の男が近づいていく



「上々の成果だ、力の全てを手に入れるまでには至らなかったが……」


「ワタシヲ産ミ出シタノハ……オ前カ

四精ノ者ヨ……我ラ陰ニ与スルツモリカ」


「ふん、思い上がるな

陰は滅ぼす……均衡を破るのは奴じゃない

この私が、私の手で滅ぼし尽くす」


「オ前ハ……神ニナルツモリカ」


「そんな物には興味が無い、私が求めるのは力だけだ」



男は横たわる影の胸に手を当てる



「もうお前に用はない」



男の手に、影が吸収した2つの力が移動していく

陰の闇諸共に



ドクンッ…………



強烈な目眩を気力で制し立ち上がった男は

止められぬほど湧き上がる力の奔流に身を任せ笑っていた


暗い闇の炎に身を包みながら


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