第25話『闇の胎動 5』


『作戦を説明する

現在、富士樹海北部に集結している影の集団は

クラス1が345体、クラス2が87体、クラス3が25体確認されている

水の部隊は南、雷の部隊は東、風の部隊は西から進行し

それぞれの部隊の後方から火の部隊が支援にまわる

クラス1,2を殲滅しつつ中央で合流し北部の主力へ攻勢をかける

クラス2,3の数が今も増減しているため、強力な個体が出現する可能性が高い

なるべく多対一の状況に持ち込み事にあたってもらいたい

以上、各員の奮戦に期待する』



各部隊の無線機から作戦司令である灯弥から説明があった


それを受けて壇上に立つ時雨が部隊に向けて言う



「聞いての通りや!

ここまで多数の影を相手取るのも、全一族が連携しての大規模な作戦も近代例を見ない

けどやるしかないんや!それがうちら一族の使命

絶対に討ち漏らすな!

うちが直接率いる主力部隊は進路を開いた後

一気に中央を突破する

その他の部隊は陣形を維持し各個撃破しつつ北上

雷、風と合流次第全体で包囲陣形を取って追い込め

絶対外へ逃がすんやないで!」



1度深呼吸をし、部隊のみんなを見渡す

高まっている士気を確認し静かに言う



「みんな、絶対生きて帰るで」


「「「おおぉぉーー!!」」」



高らかに声を上げたみんなの気迫に颯太も気合を入れ直す



「作戦開始は15:00、あと10分

各員持ち場について確認を怠るな!」



壇上から降りた時雨は司令室のテントへ戻る

颯太もそれを追いかけて中へと入った



「……時雨」



背を向けていた時雨の肩に手を置くと少し震えていた



「これは武者震い……って事にしといて……

怖いけど…………大丈夫、やれる……」


「昔、ボクシングのコーチが言ってた

『怖さ』を忘れるな、『怖さ』を恐れるな

受け入れて自分のモノにしろ、ってね」



時雨は肩に置かれた颯太の手に自分の手を添える



「ありがとう、もう大丈夫

絶対に生きて帰るで」


「おう、行こう……みんなが待ってる」



黙って頷くと2人でテントを出る


配置についた部隊が開始の合図を待っていた

時雨が率いる主力部隊は時雨と颯太、咲と教導部の手練2名を加えた5名

先頭に位置取り声を上げた



「作戦開始!行くでーっ!」



全隊で一気に北上、クラス1の集団が見えてきた頃

主力の左右に配置されたチームから多数の水流が巻き起こり

直線上の影を薙ぎ払う


その開けた隙間を一気に駆け抜ける


一緒に抜けてきたいくつかのチーム以外は

後方でクラス1との戦闘に入った

さらに後方には火の部隊がフォローに入っているため

完全にそちらは任せたとばかりに

時雨たちは先へと進む


すると30体近くのクラス2の集団が迫ってきた

残りは東西へ別れて向かっている



「第1第4小隊は左の5体、第5第8小隊は右の6体へまわれ!

残りはうちらがやる、行くで!」



その場で急停止した時雨と教導部の2人は一気に気を練る



「颯太くん、足を止めるぞ!」


「はいっ!」



3人を残し前へと飛び出した2人は気を集中し飛び上がり

それぞれ脚と拳に力を集約し地面を撃ち抜く


ドゴゥッと地鳴りがし割れた地面に集団が足を取られ

そこへ2人の後方から発射された無数の水の槍が15体の影を貫いた


残った4体へ即座に反応した2人は一足で距離を詰め

高速のコンビネーションを叩き込み2体ずつ仕留める


その後も主力チームは左右へ分散し味方をフォロー


残りの11体を難なく倒す



「流石時雨様、咲様……それに日比谷さんも相当腕を上げておられますね」



教導部の1人が思わず感嘆の声を漏らした



「みんなも上出来や、連携も訓練通り上手くいってる」


「咲さん、東西の主力部隊も中央へ突破しつつあります

我々も合流しましょう」



無線で状況を確認した咲が言う



「よし、主力以外の小隊を2チームに分ける

第1第4はこの場の倒した影の監視と周辺警戒、第5第8は後方部隊の援護を頼む」


「「了解!」」



それぞれ命令に従い行動を起こした



「うちらはこのまま北上、敵集団の主力へ向かう

灯弥さんが言ってた数の増減は、多分力を吸収して強化された個体がおるって事やろな

各自注意を怠るな、お互い協力して立ち向かうように!」


「颯太くん、静さんたちとの特訓の成果……期待してるよ」


「そうやで、きっと度肝抜くような技でも覚えたんやろ?」


「それはどうかわからないけど、できることは全て出すつもりだよ

生き残るためにね」


「楽しみやな、ほな行こか!」



主力チームの5人は他の部隊と合流するために駆け出した





*****





「各隊の状況はどうか」


「現在南側の水の部隊主力チームが突出していますが

後方では150体あまりのクラス1を処理しています

東の雷、西の風の部隊は主力を先頭に陣形を維持しつつ終始優位に進めています

もう少しで中央へ突破、合流できるようです」


「若いな……時雨は、まぁ奴も居るし部隊の練度も高い

慶一と静は堅実な動きだな」



単独で宝物殿の守護にあたっていた灯弥は

無線で戦況を確認していた



「たった今水の部隊がクラス3を2体撃破、引き続き進行中」


「このまま行けば問題ないだろう、何かあれば報告しろ」



無線を切った灯弥は陰陽玉の祭壇を見つめ思案していた



『さぁ、力の可能性を見せてみろ……日比谷』




*****




「あら、もう居たぜ

えらく早いじゃないか」


「うちらが一番乗りや、あとは静さんたちやな」



それから程なくして風の主力チームもやってきた



「お待たせしました、皆さん

ここからが正念場ですね」


「これだけの面子が揃ってるんだ、一気に攻め込むぞ

颯太、無理するんじゃないぞ」


「わかってるよ叔父さん、足でまといにならないように頑張るよ」


「慶一さん、颯太くんも立派な戦力ですよ

私たちみんなが鍛えたんですから、期待してますよ」


「せやで、うちに咲姉さんに慶一さんに静さん

最高のコーチが揃ってたんや、うちらと肩並べれるレベルにはなってるはずやで」



時雨は颯太に向かってだけ聞こえるように囁く



「うちを守ってくれるんやろ?」


「あぁ、もちろん」



颯太は仕切り直すように切り出した



「行きましょう、みなさん

俺も全力をぶつけます!」



当主たちは頷き、北の敵主力へと駆け出す


しばらく進むと約20体の集団と遭遇した



「報告より数が少ない……まだ奥に居るな

さぁ一気に蹴散らすぞ!

俺たちは右、静ちゃんは左、時雨ちゃんはセンターだ!」


「「了解!」」



慶一の指示で別れた部隊はそれぞれの敵集団へと向かう



「行くぜ野郎ども!うらぁーっ!」



怒号を上げて突っ込む慶一

後ろに控えた雷の能力者が全員で稲光を走らせ

8体の影を拘束し1箇所に押しとどめる


そこへ高く飛び上がった慶一が拳を振り下ろすと

空から太い稲妻を落として地面に押し潰す


その後は迅速に各個撃破していく


一方の風の部隊は横一列に陣形を組み迫る影を迎え撃つ



「各員よく狙って……行きますっ!」



最大限に気を高めた静は前方へ巨大な竜巻を発生させ

影の集団をその渦に飲み込む

その巻き上げられた影に向かって無数のかまいたちが襲いかかり、7体の影はバラバラに刻まれてその場に落ちていく



「凄っ……あの2人ってあんなに強かったんだ!」


「何言うてんねん、仮にも一族の当主やってんねやで

それにしても気い使わせてしもたな、残り5体

咲姉さんと颯太が前衛、うちらは援護……気張りや颯太!」


「おうっ!」



前方から5体の影が迫っていた



「見ていてくれ時雨、これが新しい俺の力だ!」



颯太は懐からナイフを取り出し左手に逆手に持ち

集中し気合いを込める



「はあぁーーっ!」



颯太の全身から暴風が吹き荒れ稲光がほとばしる

圧縮された力は全身を覆い

左手にはナイフから伸びた光の刃を備えた篭手のように

右手はバチバチと光る拳から腕全体に稲妻が絡みついている


突出してきた1体が漆黒の剛腕を振り下ろしてくる

その攻撃を左手で受け止めると、自身の運動質量を跳ね返された拳はひしゃげ、腕から肩までが真っ二つに裂ける

後ずさる影を追う颯太の姿は捉える事が難しいほどの速度で

体ごと放った右ストレートで上半身が吹き飛んだ



「1体撃破っ!」


「これほどとは……たった数ヶ月で本当に当主と並ぶ力をつけたの?」


「あぁ……正直びっくりやわ

慶二さんとは全然違う形でナイフを使ってる

ボクシングスタイルの颯太にはあの形がベストなんやな

うちらも負けてられへんで咲姉さん!」


「はい!私も出し惜しみはしてられません!」



咲が全身に気を巡らせ他の影に肉薄する

青白く光る手足からジャブ、ロー、膝蹴り、エルボーと流れる様なコンビネーションを放つ


連撃で闇の鎧を剥がされ怯んだところへ

教導部の2人が放った水流が2本混じり合い激流の槍となって腹部を貫いた


その間に気を練った時雨は奥にいた1体を巨大な水の塊に閉じ込め、両手をかざし気合いを込める

超高圧に圧縮された影は水圧に押しつぶされる



「残り2体!」



教導部の2人がさらに水を放つと、影の腕や足に絡みつき

ベキベキと締め上げながら拘束する

そこへ足へと力を集約した咲が低空で飛び出し強烈な膝蹴りで相手を粉砕する


残りの1体が颯太に向かって突進してきた

それを見て時雨が両者の間に高密度の水の楔を作り出す



「撃てぇ颯太!」


「あぁ!」



超高速のステップインから電光石火のストレートで撃ち出した楔は、稲光の砲弾のように影にめり込むと

楔から無数の針が飛び出て内部から貫き、全ての針に電撃が流れ

影は焼け焦げてその場に倒れた


そこへ慶一と静たちが合流する



「見事だ颯太、それにしてもクラス3にしてはえらく歯ごたえがなかったな」


「確かにそうですね…………っ!!」



奥の方から闇の波動のような衝撃が押し寄せ

何とか踏ん張った当主たちと颯太、咲以外の隊員は吹き飛ばされ

意識を失ってしまった



「みんな!!なんやこの暗い気の塊は……?」



闇の気が飛んできた方向へ意識を向けるとそこには

暗い闇が圧縮されたような、黒い翼を持つ細身の影がいた



「四精ノ末裔……ソレニ四精ノ理ヲ超エシモノ……

ヨコセ……チカラヲ…………」



明らかにその影が声を発していた事に一同は驚愕した



「喋った……影が!?慶一さん、なんやあいつは!?」


「……わからん、俺も初めて見る……油断するなよ!」



眼前に出現した未知の存在に同様を隠せないが

颯太は喋っている影自体には意思が存在しないような感覚があった


なぜそんな事を思ったのかもわからないが

意識を相手に集中しなければと思い直す



「きゃあぁっ!!」



咲が攻撃を受けて後ろへ吹き飛ばされたのに気付いたのは

その悲鳴を聞いた後だった


影のかざした右手から放たれた衝撃波によって咲は意識を絶たれた



「咲さん!!」


「見えんかった……!くそっ!!」


「ソイツハ……イラナイ……」


「みんな、来るぞっ!!」



不足の事態に身構えるが、静は新たな懸念を抱いていた

灯弥への、当主同士の直通回線が遮断されている事に……


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